隕石の衝突クレーター説懐疑説日本と世界の衝突クレーター(御池山・Vredefort・Barringer・New Quebec)

 奄美クレーター

 奄美大島の赤尾木湾はきれいな円形をしています。しかし、地質は白亜紀付加体で、カルデラやマールではありません。どうしてこのような形になったのでしょうか。まだ決定打はないようですが、以下のような学説があります。
<注> 右の産総研シームレス地質図にはブーゲー異常図(仮定密度:2.30g/cm3)も重ねてあります。右上の両矢印で広域を見てください。地質図はクリックすると、その地点の地質解説がポップアップします。

 隕石の衝突クレーター説

 ラサール高校の故山口志摩雄先生(写真は成相恭二氏のウェブページによる)は隕石の衝突クレーター説を唱えておられました。湾そのものではなく、右図のような直径3.2kmの円に対して奄美クレーターと命名されました。星窪(小字名)のような小さな二次クレーターも認定しておられます。隕石説を実証するためには隕石質物質を見つけなければなりません。磁石に紐を付けて砂浜を引っ張り、隕鉄を探されたようです。砂が湿っていては磁石が効きにくいので、1970~73年の真夏の暑い日に根気よく作業をされたとのことです。磁石に付いたくず鉄や砂鉄などの中から丹念に隕石質物質をより分けられました。写真上が微細隕石粒で、写真下が金属球粒です。球状を呈するのは、一旦溶けたものが空中で固まったためと考えられます。とくにNi-Fe粒子が含まれているのが隕石説を裏付けていると強調されています。アリゾナの隕石孔周縁でもNi-Fe球粒が多数発見されていることが根拠です。その他、コークス状の多孔質塊も見つかっています。結論として、以下のようにまとめておられます。
 奄美クレーターは、ミカン大~スイカ大の塊の大集団が落下して形成したものらしく、爆発は地上数kmの上空で起こり、この際に大気の衝撃波によって一次クレーターとして地形の円形化、海底のサンゴ細砂で地峡の形成が起ると共に上空14~15kmに拡がり、短時間、強熱を発生し、また熱雲から飛散した小集団によって直径100m程度の二次クレーターの形成が起こったらしい。この二次クレーターの例として陸上の星窪、海底ではウゴモリであると考えられる。
 奄美クレーターの形成及び赤尾木隕石の起源として彗星核残体を想定するのが好適と思われる。

文献:
  1. 山口志摩雄・他(1974), 奄美クレーターとその隕石質物質(No.1). 鹿児島県地学会誌, No.44, 5-11.
  2. 山口志摩雄・他(1974), 奄美クレーターとその隕石質物質(No.2). 鹿児島県地学会誌, No.46, 1-4.
  3. 山口志摩雄・他(1975), 奄美クレーターとその隕石質物質(No.3). 鹿児島県地学会誌, No.47, 1-7.
  4. 山口志摩雄・他(1975), 奄美クレーターとその隕石質物質(No.4). 鹿児島県地学会誌, No.47, 9-16.
  5. 山口志摩雄・他(1975), 奄美クレーターとその隕石質物質(No.5). 鹿児島県地学会誌, No.48, 1-9.
  6. 山口志摩雄(1976), 奄美クレーターの謎を追う. 鹿児島県地学会誌, No.50, 11-14.

 懐疑説

 これに対して、北大の横山泉先生は疑義を唱えられました。衝突クレーター周辺には、しばしばCoesiteやStishoviteのような高圧物質やShattercone(砕片円錐)が存在するが、ここでは見当たらない。もちろん、高圧物質の存在しないことは、損石起源であることを必ずしも否定するものではない。しかし、隕石の衝突に伴う破砕物がクレーター内に堆積するので、同心円状の低重力異常が認められるはずだが、右のブーゲー異常図を見ると、同心円状の構造もないし、隕石孔なら期待される6mgal程度の低重力異常もないと主張されました。

文献:
  1. 横山 泉(1972), 奄美大島の赤尾木湾は隕石孔であるか. 北海道大学地球物理学研究報告, Vol.28, 13-20.

蛇足:
 CoesiteもStishoviteも石英と同じくSiO2からなっています。普通の石英(低温石英α-Quartz・三方晶系)が573℃以上になると高温石英(β-Quartz・六方晶系)に転移します。温度が約700℃以上になり、かつ高圧になると相転移してCoesite(コース石・単斜晶系)になります。さらに隕石衝突のような高い衝撃圧(10GPa)が加わり高温(1,200℃)になると、Stishovite(スティショフ石・正方晶系)になります。

 日本と世界の衝突クレーター

御池山クレーター
 長野県飯田市しらびそ高原にある直径約900mの衝突クレーターです。石英の単結晶内に幅1~3μの非晶質層が形成されたPlanar Deformation Features(PDFs)が認められること、重力の負異常が認められることなどから衝突クレーターと認定されました。
Vredefort Crater
 南アフリカにある世界最大の衝突クレーターです。直径300km(赤色)と言われていますが浸食され、中心部に約70kmのVredefort Dome(青色)が残っています。
Barringer Crater
 約5万年前に直径約20-30mの隕鉄が衝突して形成されたクレーターと言われています。アメリカのアリゾナにあります。
New Quebec Crater(Pingualuit Crater)
 約140万年前 (更新世) に直径100-300mのコンドライト質隕石が衝突して形成されたと推定されています。カナダのケベック州にあり、現在では水深267mの大変透明度の高い湖になっています。
文献:
  1. Grieve, R. H. A., et al. (1991), Impact melt rocks from New Quebec Crater, Quebec, Canada. Meteoritics, 26, 31-39.
  2. Kring, D. A. (2007), Guidebook to the Geology of Barringer Meteorite Crater, Arizona (a.k.a. Meteor Crater). Lunar and Planetary Institute, LPI Contribution No. 1355.
  3. 坂本正夫・志知龍一(2010),御池山隕石クレーターに検出された負の重力異常. 日本惑星科学会誌, Vol.19, No.4, p.316-323.
<参考サイト>


初出日:2015/01/27
更新日:2020/11/26