薩摩焼の陶土

 薩摩焼

県指定史跡美山薩摩焼窯苗代川瓷器(ヤキモノ)製造之圖(三國名勝圖會)
薩摩焼(わおマップによる)
 薩摩焼は、いわゆる秀吉の朝鮮出兵の際、島津義弘が朝鮮陶工を連れ帰ったことに端を発しています。彼らは慶長3年(1598)鹿児島前之浜・東市来神之川・串木野島平・加世田小湊に分かれてバラバラに上陸します。これが後に、薩摩焼にいろいろな流派を生む原因となりました。不思議なことにそれまで薩摩には陶磁器製作の伝統がありませんでしたので、良い陶土を藩内では入手できません。最初は陶工たちが持参した朝鮮陶土を用いて製作されたようです。「火(ばか)り」と呼ばれています。火だけは日本のものを使ったという意味でしょう。
 しかし、それではすぐ底を尽きます。藩内を調査した結果、山川で白土が発見された後、指宿・霧島などで次々に白土が見つかりました。こうした白土を得やすいところは、中新世の変朽安山岩が熱水変質を受けたところか、火山の温泉変質帯です。こうした良質な白土を得ることが出来たのは、串木野に上陸して美山に窯を構えた苗代川系の人たちでした。薩摩半島には南薩火山岩類や北薩火山岩類の変朽安山岩が分布しており、金鉱床もありましたし、指宿には活火山の池田山川火山群があります。地の利を得ていたのです。こうした白土を使って、真っ白な生地に芸術性に富んだ絵柄、さらには透かし彫りなどの手の込んだ華麗な薩摩焼が作られます。白薩摩焼(白もん)と呼ばれます。もっぱらお殿様用でした。
 一方、神之川に上陸した人たちは帖佐や堅野に窯を築きます。そこは白土の得にくいところですから、窯の周辺の土を配合して坏土(はいど)としました。国分層群中の泥岩や二次シラス中の泥層、さらには崩積土の風化部などが使われたようです。釉薬にはシラス中に挟在する水酸化鉄などに雑木灰を調合して使っていたとのことです。したがって、黒色系の焼き物になります。黒薩摩焼(黒もん)と呼ばれます。碗や皿、酒器などの生活雑器が作られました。帖佐系は途絶えましたが、現在では龍門司系や堅野系(長太郎窯など)が残っています。

 入来カオリン

入来鉱床の断面図と変質分帯(須藤,2008)入来鉱山(産総研5万地質図「川内」)
入来カオリン(鹿大博物館)
 上述のように、白もんには最初は山川カオリンや指宿カオリンが使われましたが、指宿カオリンには明礬石が混入しているという短所がありました。なお、笠沙陶石も初期には用いられました。四万十層群に貫入した石英斑岩です。天草陶石として今でも稼行されているリソイダイト(無斑晶流紋岩lithoidite)に近い性質を持っていました。
 近年では質も良く量もある入来カオリンが使われているそうです。入来鉱山は藺牟田池の西麓にあり、藺牟田火山岩類の熱水変質帯です。須藤(2008)によれば、上図のような変質分帯が認められます。すなわち、熱水脈の中心から、カオリン―珪化岩―混合層粘土―スメクタイト―弱変質安山岩です。なお、カオリンとは粘土鉱物カオリナイトkaolinite(Al4Si4O10(OH)8)などからなる鉱石のことを言います。

蛇足:
 カオリンはその他、高級紙のコーティングや化粧品・インクなどさまざまな用途にも使われています。

文献:

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参考サイト:



初出日:2016/11/11
更新日:2019/10/02