シラストンネル

防空壕跡新幹線薩摩田上トンネル工事
 シラスは昔から直立していても安定していると言われてきました(上田,1984)。手掘りしやすいこともあって、しばしば物置や貯蔵庫として壕が掘られて利用されていました。戦争中は、防空壕としてもたくさん掘られています。トンネルも江戸時代には(ぬき)といって、灌漑用水路のショートカットとして掘られましたが、崩落には悩まされました(「シラス文化」参照)。このように土被りが薄すぎると風化部分があるので崩壊しますし、一方、土被りが大きくて50m程度以上になると、地圧に耐えず安定性が著しく低下します。また、水に極端に弱いため、地下水面下では、しばしば崩壊します。そのため、鹿屋分水路トンネルでは、大変苦労しました(露木・他, 1988:林・他,1990)。したがって、国道3号線バイパス武岡トンネルを計画した際には、事前に長期間地下水の観測を行い、地下水面より上になるよう設計されました。
 このようにシラスにトンネルを掘ることは、問題が多いとして避けられてきましたが、1970年代になって、NATM(New Austrian Tunneling Method)工法が導入されて以来、シラス地帯でもトンネルが掘られるようになりました。もちろん、この場合も地下水位低下工法が併用されました。

 シラスの工学的特性

JSF分類し ら す溶結凝灰岩
極軟質しらす軟質しらす中硬質しらす硬質しらす
指標硬度(mm)20以下20~2525~3030~3333以上
 地質学的な定義は、他のページにあるので省きますが、工学的分類で一般的に使われているのは、土質工学会(現地盤工学会)の山中式硬度計を使用した硬さによる分類(JSF規格:M2-81)です。国土交通省では、下記のように、これに分かりやすい解説を付けています。
極軟質シラスシラスが風化して粘性土化した風化シラスの中で特に軟らかいもので、含水比も高い。色は淡褐色あるいは淡紅色を呈し、シラス層の上層にあることが多い。
軟質シラス風化シラスの中で風化の程度が淡いもので、やや細粒分が多くて軟らかく、灰白色ないし淡褐色を呈す。
中硬質シラス普通シラスとも呼ばれ、一次シラスの代表的なもので、粗粒分に富み、やや硬く灰白色を呈す。植生の生育状況は劣る。
硬質シラス硬シラス又は固結シラスとも呼ばれ、硬く締って暗灰色を呈し、粗粒分を多く含む。
 しかし、硬さだけが問題なのではありません。シラス地山が極めて小さな強度(qu=20-100KN/m2程度)にも関わらず、土被り数10m程度の比較的高い応力下(地山強度比0.05程度)でも、切羽面や支保が比較的安定し、従来の弾性論では説明できなかった点がありました(多宝ほか,2012)。特殊土壌と言われてきた所以です。それは一つには、火砕流起源だと言うことに由来します。火山ガラスがインターロッキングしているからだとか、非溶結とは言え、多少は熱の影響で固着しているのだとか、いろいろ推測されてきました。また、硬岩と違って、不攪乱試料の採取が難しいのと、応力解放の影響が大きいことも、解析を困難にしてきました。つまり、室内力学試験だけでは、地山の力学特性を議論しにくいのです。
 シラストンネルの切羽では、硬岩の山ハネのような脆性的な崩落をします。そこで多宝ら(2012)は破壊前の変形係数の変化に着目し、応力依存剛性変化モデルを提案しました。すなわち、拘束圧に応じて全体の変形係数を変化させ、それに応じて応力を修正するのです。
 Dn = f(σminn-1) :D…変形係数,σmin…最小主応力(拘束圧)

 シラストンネル工法―新武岡トンネルの場合―

 新武岡トンネルは、国道3号線のバイパスとして1988年(昭和63年)に供用された武岡トンネルが渋滞が激しいため、平行して掘削された全長1,513mの長大超大断面トンネルです。本線とランプ部が合流する部分では、掘削断面積が378m2となり、日本一の掘削断面積だそうです。最近では掘削方法として、全断面工法によりインバート一次閉合を行うケースが増加していますが、シラスの超大断面では問題があるとして、側壁導坑先進工法が採用されました(多宝,2013)。実際、多宝(2013)の数値解析によれば、インバート一次閉合では、下半掘削時に、下半側壁部の地山が崩壊する可能性が高いと出たそうです。なお、新武岡トンネルは2013年(平成25年)に供用開始されました。

文献:

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参考サイト


初出日:2016/1/26
更新日:2017/03/30