国家石油備蓄基地

 わが国のエネルギー自給率は極端に低く、ほとんどを中東の石油に依存しています。中東は政情不安ですので、万一のために、国家として石油を備蓄しておくことになりました。国家石油備蓄基地は、苫小牧東部・むつ小川原・秋田・久慈・福井・菊間白島上五島串木野・志布志の10個所です。そのうちの2個所が鹿児島にあります。やはり南の玄関口だからでしょう。なお、赤字が地下備蓄、青字が洋上タンク式、黒字は普通の地上タンク式です。備蓄量は民間が国内消費量の83日分、国が94日分を備蓄していると言われています。

 串木野国家石油備蓄基地

水封式の原理備蓄基地全景地下空洞
地質断面図(上:東西断面,下:南北断面)地質断面をコアで表示(ちかび展示館展示)
 串木野は菊間・久慈と同様、水封式の地下タンク方式です。地下は地上に比して火災や地震に強いという利点があります。水封式とは、地下水面下にトンネルを掘り、地下水圧で油漏れを防止しようとの考え方です。基本的には素掘りですから、堅固な岩盤のほうが良いわけですので、菊間・久慈は花崗岩です。それに対して、串木野は北薩古期安山岩類と呼ばれる串木野金山を胚胎する輝石安山岩です。地下空洞を掘削した際には、安山岩溶岩と火山角礫岩が露出しました。とくに火山角礫岩はほとんど亀裂がなく良好な岩盤でした。自破砕溶岩ではなさそうですが、火道角礫なのかどうか分かりません。地表ではガサガサの火山岩なのに、地下ではオールコアが取れるような立派な岩盤だと、良く見抜いたものだと感心させられました。なお、トンネルは卵形をしていて、幅18m、高さ22m、長さ555mの巨大なものです。計10本並んでいます。図面は日本地下石油備蓄(株)によります。

 志布志国家石油備蓄基地

海底地質構造図(水路部,1982)志布志備蓄基地全景(志布志備蓄基地パンフレットより)
 一方、志布志国家石油備蓄基地は志布志湾の肝属川河口に地上備蓄基地として建設されました。地質は、シラス(入戸火砕流堆積物)を基盤とし、上部洪積層とされる志布志層と肝属川の埋没谷を埋める沖積層からなっています。埋没谷の境界にまたがるタンクは不同沈下する恐れがあります。埋土層の厚さは15m程度ですが、シラス地帯を後背地にもつことから、砂質土的で粘着力はほとんどゼロ、内部摩擦角が大きいという特徴があります。そのため、地盤改良としてプレロード工法(備蓄する油と同重量の土砂を事前に積み上げ、圧密を促進させる方法)が採用され、地震時の液状化対策としてサンドコンパクションによる締固め工法が採られました。タンクは合計43基あります。また、ここは日南海岸国定公園内ですから、周囲の自然景観と調和を図るため、外周に15~21mの築堤を行い、樹木を植栽して、海岸からはタンク群が見えないよう遮蔽しました。
 なお、沖合に人工島を作ったのですから、必然的に沿岸の汀線変動が起きます。浸食域では養浜工などが行われたようです。

文献:

  1. 星野一男(1980), 石油地下貯蔵の適地調査. 応用地質, Vol.21, No.4, p.216-223.
  2. 星野一男(2007), 地下利用におけるROCK MECHANICSの課題, 石油備蓄を例として. 地學雜誌, Vol.116, No.2, p.287-293.
  3. 城代邦宏・植出和雄・本多 眞・長谷川誠・小島圭二・小川輝繁(2007), 地下石油岩盤タンクにおける水封機能の健全性評価手法に関する研究. 土木学会論文集C, Vol.63, No.2, p.624-634.
  4. 海上保安庁水路部(1982), 5万分の1沿岸の海の基本図 海底地形地質調査報告(志布志湾). 41pp.
  5. 建設省国土地理院地図部(1972), 志布志湾地域大規模開発調査報告書(土地条件調査). 国土地理院., 61pp.
  6. 蒔田敏昭(1991), 地下石油備蓄基地建設の概要. 資源と素材, Vol.107, No.13, p.927-938.
  7. 蒔田敏昭(1991), 岩盤タンクによる石油の地下備蓄について. 圧力技術, Vol.29, No.2, p.78-87.
  8. 松村克之(1994), わが国における地下石油備蓄基地建設の経緯と現状. 資源と素材, Vol.110, No.7, p.521-525.
  9. 松村克之・ 蒔田敏昭・岡本明夫・中澤保延・小島圭二(1995), 石油地下備蓄基地建設における鉱業技術に基づく意思決定. 資源と素材, Vol.111, No.11, p.743-748.
  10. 西 隆一郎・佐藤道郎(1994), 砂丘一海浜系の侵食に関する現地観測と数値実験について. 海岸工学論文集, Vol.41, No., p.541-545.
  11. 西 隆一郎・宇多高明・佐藤道郎・脇田政一・大谷靖郎・堀口敬洋(1998), 沖合人工島建設に伴う海浜変形過程と侵食対策. 海岸工学論文集, Vol.45, p.561-565.
  12. 岡本明夫・中澤保延・長谷川誠・小島圭二(1998), 岩盤の「割れ目」に対応した水封評価法. 資源と素材, Vol.114, No.1, p.19-27.
  13. 太田良平・木野義人(1965), 5萬分の1地質図幅説明書「志布志」. 地質調査所, 29pp.
  14. 太田良平(1971), 地域地質研究報告「羽島」. 地質調査所, 15pp.
  15. 志布志石油備蓄(株)(1994), 志布志石油備蓄基地の全面完成とオイルインについて. 石油の開発と備蓄, '94, No.2, p.52-56.
  16. 宇多高明・西隆一郎(2002), 志布志湾押切海岸の侵食とその対策 侵食ホット・スポット地形を伴う特異な海浜変形について. 海岸工学論文集, Vol.49, p.581-585.
  17. 山石 毅・小林 仁・谷 藤吉郎・岡本明夫・登坂博行・小島圭二(1998), 地下石油備蓄基地建設に伴う水文・水理挙動の数値シミュレーション. 地下水学会誌, Vol.40, No.2, p.167-183.
  18. 山本源一(1994), 志布志石油備蓄基地におけるタンク基礎の建設. 石油の備蓄と開発, '94, No.12, p.58-65.
参考サイト:


初出日:2016/05/08
更新日:2016/10/05