古代官道
律令国家と官道
阿武隈川河口付近の古代官道と3.11津波浸水域 (薄紫色)(島方ほか,2012) |
道路の構造については伝わっていませんが、徒歩が主体でしたから、ローマ街道のような石畳ではなく、
島方ほか(2009,2012)は、この古代官道を明治時代の5万分の1地形図に落としました。ちょうど東日本大震災が発生したので、原口・岩松(2011)の津波詳細地図を提供したところ、右図のように、古代官道は見事に津波浸水域を避けていることがわかりました。古代人は災害の教訓を伝承し、これを避けたのでしょう。
<速報> 熊本地震と古代官道
熊本県阿蘇地域では、近年でも2014年九州北部豪雨災害や2016年熊本・大分地震で被害を受けましたが、古代官道はこのような自然災害リスクを避けるところに立地していたそうです(足立・中曽根,2017)。阿蘇外輪山越えでは、崩壊の危険が多い立野の峡谷部を避け、峠越えのルート(二重峠)を選んでいますし、カルデラ内では、洪水リスクの多い後背湿地を避け、自然堤防などを選んでいるそうです。また、断層変位地形の直線状凹地をうまく活用しています。
南九州の古代官道
大隅國 | 驛馬 | |
薩摩國 | 驛馬 | |
傳馬 | 市來、英禰、網津、田後驛各五疋 | |
日向國 | 驛馬 | |
傳馬 | 長井、川邊、刈田、美彌、兒湯、去飛驛各五疋 |
西海道南部(永山,2002) | 西海道南部(島方,2009) |
:国府跡, :国分寺跡, :駅比定地 [駅と駅路は永山(2002)をトレースしたもの] |
平安時代の法令集である延喜式の巻廿八兵部省の条項に諸國驛傳馬があり、三州では右のように記載されています。問題はこの駅が現在のどこに当たるかということです。小字名として残っていると良いのですが。
延喜式自体の記述についても永山(2002)は順序が違うと異論を唱えています。また、大隅国に関しては脱漏もあるとしています。上述の島方ほか(2009)の地図には残念ながら南九州は割愛されています。やはり、よく分からなかったのでしょう。最近、遺跡の発掘が進み、道路跡などが見つかっていますから、やがて明らかになるでしょう。
<参考>駅比定地(諸説あり不確実です)
駅名 | 現在の地名 | ||
出水市武本字 | |||
阿久根市波留字辻堂 | |||
薩摩川内市 | |||
薩摩川内市 | |||
いちき串木野市上名小字田尻田 | |||
薩摩川内市樋脇町 | |||
姶良市 | |||
曽於市財部町大川原or菱刈町前目付近or伊佐市付近or栗野町 | |||
宮崎県北川村 | 宮崎県延岡市 | ||
宮崎県日向市 | 宮崎県日向市 | ||
宮崎県都農町 | 宮崎県木城町 | ||
宮崎県佐土原町 | 宮崎県宮崎市 | ||
宮崎県宮崎市 | 宮崎県田野町 | ||
宮崎県綾町 | 宮崎県野尻町 | ||
宮崎県小林市 | 宮崎県えびの市 | ||
宮崎県都城市 | 宮崎県山之口町or熊本県水俣市 |
文献:
- 足立勝治・中曽根茂樹(2017), 応用地形学から見た平成28年(2016年)熊本地震―豊後街道と古代官道(駅路)ルートの自然災害リスク―. 日本応用地質学会・九州応用地質学会編『2016年熊本・大分地震災害調査団報告書』, p.47-54.
- 青屋昌興(2008), 南九州の地名. 南方新社, 280pp.
- 藤岡謙二郎(1973), 古代日向の地域的中心と交通路. 地理学評論, Vol.46, No.10, p.633-642.
- 原口 強・岩松 暉(2011), 東日本大震災津波詳細地図〈上巻〉青森・岩手・宮城. 古今書院, 167pp.
- 木下 良(2001), 古代日本の計画道路―世界の古代道路 とも比較して―. 地学雑誌, Vol.110, No.1, p.115-120.
- 木下 良(), 歴史地理的にみた交通・通信・情報の諸問題―解題にかえて―. , Vol., No., p..
- 永山修一(2002), 南九州の古代交通. 古代交通研究, No.12, p.21-34.
- 島方洸一ほか(2009), 地図でみる西日本の古代―律令制下の陸海交通・条里・史跡. 平凡社, 296pp.
- 島方洸一ほか(2012), 地図でみる東日本の古代―律令制下の陸海交通・条里・史跡. 平凡社, 312pp.
- (), . , Vol., No., p..
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参考サイト:
- 延喜式巻廿八
- かごしま考古ガイダンス 第34回 律令政治の浸透(上野原縄文の森)
市来 遺跡(遺跡ウォーカーβ)- 古代の交通と交通路の研究(北海道教育大釧路校史学研究室中村太一氏)
- 角川日本地名大辞典(旧地名編)
- 日向国の古代駅
初出日:2017/05/02
更新日:2020/12/01