2022年“トンガ津波”

 フンガ・トンガ火山噴火

ひまわり撮影1月15日噴火(JAXA)フンガ・トンガ火山の位置
 2022年1月15日17時(日本時間15日13時)頃、南太平洋トンガの海底火山フンガ・トンガ火山で大規模な噴火が発生しました。噴煙は高度約16,000mまで上昇し、半径260kmに広がったそうです。火山爆発指数VEIは6と言われています。ピナツボ火山1991年噴火もVEI=6でしたからほぼ同規模の巨大噴火でした。

 “トンガ津波”

津波警報(気象庁1月16日0時15分)検潮データと理論潮汐との差分(石川有三氏提供)
 巨大噴火でしたから強い空振もあったようで、その圧力が海面振動となり、遠く日本列島や南北アメリカ沿岸にも伝わりました。気象庁は、津波は地震や海底地すべりに起因するものと考えていたためか、各検潮所における気圧変動をキャッチしていたものの、前例がないとして、津波警報発令を逡巡していたようです。ところが奄美大島小湊港で15日23時55分1.2mの潮位変化を観測したのを受け、16日0時15分津波警報を奄美諸島とトカラ列島に発令しました(他の日本列島太平洋岸には注意報)。
 鹿児島県内では、この津波により繋留していた小型船舶や養殖筏の転覆など軽微な被害が見られました。18日になって南種子町島間港で養殖ブリの稚魚が大量死していることが発見されました。魚体に擦り傷が見られることから、生け簀や漁網が振動したため、接触して被害を受けたものだと考えられています。被害額は3000万円に上るそうです。

 クラカタウ火山噴火と鹿児島

今村明恒(東大地震研蔵)
 火山噴火による遠地津波は、大変珍しいのですが、実は日本でも過去に事例があります。それはクラカタウ火山1883年噴火の際(現地時間1883年8月26日正午)、三浦半島三崎の東大臨海実験所で目撃されていました。また、鹿児島の甲突川にも津波が到達していたようです。鹿児島出身の地震学者今村明恒が次のように回顧しています(今村,1945)。
 鹿兒島津浪は,其の時日が未詳であるが,余が少年時代の出來事であつたには相違ない。あの時の太陽の色の赤かつたこと,それが幾日か幾週か續いたことには確實な記憶があるが,甲突川に進入して來たと思はれる津浪餘波に就ては記憶が確かでない。それで上記の震災報告を書いたときには,主として母の記憶に據つたのであつた。當時我家は市の南部を流れる甲突川の南岸にあつたから,問題の潮汐の干滿を觀察するに便利であつたのである。
 石川博土經驗談は,余が記憶を幾分甦らせた感があつた。それで當時發行されてゐた鹿兒島新聞を檢査しようと試みたが,遺憾ながら其の古新聞の保存者なるものにまだ巡り合はないのである。
 季節は熱いときか暖いときであつたに違いない。遡つて來る潮先は,當時川口から一番目であつた武の橋といふ橋を越えて,二番目の高麗橋の近くまで上つたやうである。平常の大潮は武の橋邊までしか來なかつたから此のときの潮は,新月や滿月の時の高潮よりも,稍高かつたのであらう。震災報告には次の通りに記してある。
 前年某日市街を貫流する甲突川に津浪 上り來れり。武橋より之を望めば,海水は,下流十町位なる川口より徐 々に進み來り,中流の洲を盡く隠し,橋下を過ぎ,尚ほ上流數町の所に至つて止み,暫くして初は徐々に終は速に,遙に川 口邊まで退き,而して後再び前進し來り,斯くの如くすること數回にして數時間に渡れりと云ふ。
 猶ほ上記の状况から推測して,波の週期を20分内外 としてあるが.此の推測は適當でない。寧ろ1時間内外とすべきであつたらう。假に3時間に6回とすれば30分の週期となり,6時間に3回とすれば2時間の週期となるからである。又振幅に關しては推測を缺いているけれども,概ね1.5米の程度であつたと見做してよいであらう。
 以上のやうに考へるとき,本現象は,石川博士談の三崎津浪に似てゐる。遠方大津浪で,而も週期の可なり大きかつたものゝ餘波であることは容疑の餘地がない。余が少年時代に於ける此種の大津浪は,クラカトア津浪の他には全く心當りがない。本現象を以てクラカトア津浪の餘波であらうとするのも如上の關係に由るのである。

<注> 上記アンダーライン部に関して、井村隆介鹿大准教授(談)によると、「現在、大潮の満潮時には高麗橋付近を越えて潮が上がっているので、今村が少年だった頃は桜島大正噴火直前、既に周辺地域ではそれに伴う地殻変動で隆起が始まっていたのではないかと思われる。」由です。

文献
  1. 今村明恒(1899), 三陸津浪取調報告. 震災豫防調査會報告, Vol.29, No., p.17-32.
  2. 今村明恒(1934), 地震漫談 (其の十)クラカトア爆發津浪の日本に於ける觀測. 地震, Vol.6, No.3, p.158-160.
  3. 今村明恒(1945), クラカトア爆發に因る津浪に就て. 地震, Vol.18, No.1-4, p.24-26.
  4. 小林哲夫・柿沼太郎(2021), 火山の爆発的噴火に伴う気圧波に励起され発生した津波:1883 年クラカタウ噴火と1956 年ベズイミアニ噴火. 国際火山噴火史情報研究集会講演要旨集, 2021年No.2, p..
  5. 大森房吉(1907), 千八百八十三年クラカトア大破裂に件へる津波に就きて. 地学雑誌, Vol.19, No.4, p.251-257_1.
  6. 和田雄治(1886), 気浪及ビ海浪ノ説. 明治18 年日本地震学会報告, 第3 冊, p.49-69.
  7. (), . , Vol., No., p..
  8. (), . , Vol., No., p..

参考サイト:



更新日:2022/02/21
更新日:2022/03/26