2018年スラウェシ島津波年パプアニューギニア津波明治三陸津波

 海底地すべりと津波

 2018年スラウェシ島津波

インドネシア地質図とUSGSプレート境界(:震央)Palu-Koro fault(Jaya et al., 2019)
津波遡上高(Omira et al., 2019)海域地すべり
(Pakoksung et al., 2019)
 2018年9月28日インドネシア・スラウェシ島Sulawesi(セレベス島)中部パルPaluの北方78kmを震央とするMw7.5の地震がありました。発震機構は左横ずれで、Palu‐Koro断層という活断層が震源断層と考えられています。この断層はプレート境界断層(一説にトランスフォーム断層)と言われ、平均変位速度は35±8mm/年と大変活動的です。実際、地震直後の現地調査で約5mの左横ずれ変位が認められています。
 この地震により、沿岸部では大規模な液状化災害があり、場所によっては約1kmにも及ぶ水平移動があったとか。また、最大遡上高11.3mに達する津波も発生しました。その結果、死者行方不明者が数1000名に達する人的被害を出しました。
 しかし、一般に横ずれ断層は垂直変位があまりありませんから、津波を生起することは稀ですし、しかもUSGSによれば今回の破壊域の大部分は陸域ですので、津波を発生する条件はありません。そこで今回の津波は、海底地すべりや沿岸部地すべりの土塊が海へ突入したことなどによって生起されたと考えられているようです。
Fast rupture of the 2018 Mw 7.5 Palu earthquake
(IRIS Earthquake Science)

 1998年パプアニューギニア津波

CCOP地質図(:震央)波源域(平石ほか, 2000)
断層モデルによる津波高(同上)地すべりを考慮した津波高(同上)
 地震に伴って海底地すべりが発生することはよく知られています。1923年関東大地震で東京湾口や相模湾で海底地すべりが発生し、海底電線が切断されたことは有名です。
 一方、海底地すべりにより津波が発生したとして注目されたのは、スラウェシ島津波より早く、1998年パプアニューギニアのシッサノSissanoで発生したM7.1の地震です。これに伴う津波が沿岸部を襲い、死者2,000名を超える大被害をもたらしました。この時の津波高は10mを超し、最高で15mに達しました。地震だけから生起される津波ならせいぜい数mですので、海底地すべりが発生していたのではないかと考えられました。

 明治三陸津波

明治丙甲三陸大海嘯之實況(小国政筆)(東大地震研所蔵)
岩手縣海嘯被害地畧図(山奈宗真)(国会図書館所蔵)
 このように地震の揺れの大きさに比して津波が大きい場合が時々あります(チリ地震津波のような遠地地震は当然ですから、ここでは除外することにします)。サイレント津波Silent Tsunamiなどと呼ばれることがありますが、この言葉は既に国連方面で貧困・飢餓・疾病など人類の慢性的脅威に対して比喩的に使われてきましたから、同じ名称を使用することは避けた方が良いでしょう。
 わが国の場合で一番有名なのが1896年の明治三陸津波です。地震はM8.2~8.5でしたが、三陸沿岸部での揺れは多くは弱震(現在の震度で言えば震度2~3)で、一番強いところでさえ震度強(震度4~5強)程度だったにも関わらず、最高遡上高38.2mにも達するような大津波になり、2万人を超す犠牲者が出てしまいました。そこで、通常の地震のように急激に破壊するのではなく、日本海溝の海溝軸付近でプレート境界が低速でゆっくりと破壊したのではないか、と考えられました。ゆっくり地震・スロー地震・ぬるぬる地震・津波地震といった言葉が生まれました。その他、海溝軸近傍の未固結堆積物(付加体)が水平変位を起こすことも巨大津波の励起に寄与したとも言われました。
 最近では海底地すべりが関わっていたのではないか、との説も浮上しているようです。東日本大震災の津波も、震源破壊域が宮城県沖だったのに、津波の規模が大きかったのは岩手県だったのは、単にリアス式海岸という地形的要因ばかりでなく、海底地すべりの関与があったのではとも考えられ始めているようです。研究の進展が望まれます。
 鹿児島県も海に囲まれている県ですし、海域火山の山体崩壊に伴う地すべり土塊の海域突入の可能性もあります。地すべりと津波に関しても、他人ごとではなく、取り組む必要があるでしょう。

文献:
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参考サイト:



初出日:2020/03/08
更新日:2020/03/12