災害復興

 従来の災害復興

 自然災害は多くの災禍を残します。たとえ命が助かっても、住居だけでなく生活手段生産手段すら失うケースも多々あります。一家の大黒柱を失った場合には特に悲惨です。そのような時に、被災者にはどのような手が差し伸べられてきたのでしょうか。江戸時代までは、封建領主がお救い米を放出したり、富裕商人が施行を行ったりしました。元々旦那とは仏教用語で「布施をする人」の意ですから、日頃旦那さんと呼ばれている人たちは施行を行うのが当然との風潮がありました。明治以降になると、財閥や富豪が個々に寄付をすることもありましたが、大災害では義捐金を集めることも広く行われるようになりました。しかし、災害直後の救援の色合いが強く、生活再建までを視野に入れた本当の復興は、結局は自力しかなかったようです。

 被災者生活再建支援法

制度の概要(内閣府)
アンケート(世論調査会)
 戦後、現行憲法体制下にあっても、私有財産である住宅本体の建設費を公費で補償するのには大きな抵抗がありました。雲仙普賢岳災害の時にも公費支援が話題になりましたが、このような局部災害には対応できても関東大震災が再び起きたら、同額の補償は不可能であり、それは「法の下の平等」の精神に反するとの異論が出され、復興基金からの支援となりました。
 1995年阪神・淡路大震災が発生します。甚大な被害を伴う都市型の大震災でした。コープこうべが全国の生協と共に国民的保障制度を求める署名運動を展開します。その結果、1998年議員立法により成立したのがこの被災者生活再建支援法です。当初は支援額が少ない、事務手続が繁雑であるなど、さまざまな問題もありましたが、数度にわたって改正され、現在では次のようになっています。
 先ず国が直接支援金を支給するものではない、ことに留意する必要があります。第1条に、「都道府県が相互扶助の観点から拠出した基金を活用して被災者生活再建支援金を支給するための措置」と謳ってあり、基金は公益財団法人都道府県センターが取り扱っています。国はここに補助金を1/2支出しているのです(東日本大震災は4/5)。対象となる被災世帯は全壊および大規模半壊で、最高300万円まで支給されます。これを受給するためには、被災者は自治体役場から罹災証明書を発行して貰うことが第一歩ですが、大規模災害では基礎自治体の機能も麻痺している場合が多く、証明書発行のトラブルも頻発しました。何よりも300万円程度では、高齢者や低所得者などローンも組めない人たちにとっては焼け石に水で、住宅再建の実現にはほど遠い金額です。
 実際、日本世論調査会が阪神・淡路大震災25周年を前に2019年12月実施したアンケート調査によれば、この法律が、全壊・大規模半壊だけを対象にしていること、支援額が最高300万円にとどまっていることに対する不満が大きいようです。また、今後行政が力を入れるべき災害対策については、救助・救援活動(47.5%)と生活再建支援の充実(47.3%)を挙げている人が多かったそうです。

文献:
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  2. 乾 康代(2015),被災者の住宅再建の進捗状況と再建支援課題. 日本建築学会計画系論文集, Vol.80, No.714, p.1903-1912.
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参考サイト:


初出日:2019/11/18
更新日:2020/01/11