トラフ・海溝・プレート南海トラフの歴史地震南海トラフ地震の長期評価南海トラフ津波の確率論的評価内閣府南海トラフの巨大地震モデル検討会

 南海トラフ地震・津波

 トラフ・海溝・プレート

CCOP地質図と500m間隔等深線(UCSDより作成)(プレート境界はUSGSによる)
 2020年1月24日、政府の地震調査委員会が南海トラフ地震による津波の30年推計確率を初めて発表して話題になりました。鹿児島も無縁ではありませんので、ここで少し解説します。
 大洋プレートが大陸プレートに沈み込む活動的大陸縁辺部には、沈み込みに引きずられて細長い深い海溝trenchが形成されます。プレートの収束境界です。太平洋プレートが北米プレートに沈み込む位置にできた日本海溝がその好例です。フィリピン海プレートがユーラシアプレートに沈み込むところが南海トラフなのです。地形的に言えば海溝は水深6,000m以上あり、急斜面をもつV字型をしていますが、トラフtrough(舟状海盆)はそれより浅いのです。南海トラフは、隆起の激しい、つまり浸食の激しい中部山岳地帯から大量の土砂が駿河湾に供給され、そこから順次南方に埋め立てられて浅くなったと考えられています。地質図にScripps InstitutionのDEMから作成した500m間隔の等深線を加筆してみました。少し拡大移動してみてください。南海トラフと日本海溝の地形がかなり違うことがおわかりいただけると思います。

 南海トラフの歴史地震

南海トラフの歴史地震(地震本部)津波堆積物(地震本部)
 南海トラフもプレートの収束境界ですから、当然地震が発生します。一番最近の地震は昭和南海地震ですが、文献史料によれば白鳳時代にまで遡れます。高知県における津波堆積物の研究では約2000年前にも宝永地震よりも大きな地震があったようです。古い文献史料は畿内に偏りがちで、東国の様子は判然としません。津波堆積物の研究ももっと他地域のデータが必要です。得られたデータから推測すると、必ずしも南海トラフ全体が同時に動くとは限らないようです。南海トラフはいくつかのセグメントに分けることが出来ます(駿河トラフ・遠州海盆・熊野海盆・室戸海盆・土佐海盆・日向海盆)が、各セグメントが単独で動いたり、互いに影響し合って、時間差をもって動いたり、とさまざまです。1707宝永地震のように同時に動いた場合には巨大地震になります。比較的史料がよく残っている正平地震以降の再来周期を求めてみると、約90年~150年になります。宝永地震からだと88.2年です。昭和の地震は規模が小さかったので、恐らく次の地震までの間隔は短いと考えられますが、昭和南海地震から既に70年経過していますから、危機は切迫していると考えるべきでしょう。

 南海トラフ地震の長期評価

震度の最大値(内閣府WG)最大の津波高(内閣府WG)
30年 震度6弱以上の揺れに見舞われる確率の分布図(防災科研,2019)
 2011年3月11日東日本大震災が発生しました。地震調査研究推進本部地震調査委員会は、従来の地震評価ではこのような超巨大地震を的確に評価できなかったことを受け、2013年南海トラフ地震の長期評価(第2版)を行いました。厳密な評価手法は検討中とのことですが、不確実性が大きくても防災に有効な情報として、発生しうる最大クラスの地震を想定して評価したようです。つまり大局的には100~200年間隔で発生する南海トラフ全体が動くような最大規模の地震を想定しました。結果として、地震の規模はM8~M9クラスで、30年発生確率は60%~70%になったそうです。この発生確率はその後も計算し直され更新値が発表されます。2018年現在では70%~80%になっています。
 このような長期評価を受け、2013年内閣府では被害想定(第二次報告)を行いました。これは「想定外」をなくし、事前の防災・減災対策を講じることの重要性に鑑み、最大限の被害を想定したものですから、上図のような強い震度、30mを超す高い津波高が打ち出され、国の1年分の予算に相当する規模の巨大な経済的損失が生じるとのショッキングなものでした。
 右図は防災科学技術研究所が発表した確率論的地震動予測地図2019年版です。ただし、震度6弱以上のケースです。他のケースや詳細についてはJ-SHIS地震ハザードステーションをご覧ください。

 南海トラフ津波の確率論的評価

今後30年以内に津波高3m以上になる超過確率(防災科研,2020)
 前回出された最大クラスの地震想定はあまりも大きく、諦めにも似た雰囲気が醸し出されたからか、今回地震本部は低頻度の最大クラスの地震は除いて、M8~9クラスの多様な地震を対象として、その引き起こす津波の確率論的な評価を公表しました。その結果、今後30年以内に海岸の津波高が3m以上になる超過確率は広い範囲で26%以上になっており、津波波源から少し離れた伊豆諸島や九州でも局所的に高い場所があることが分かりました。5m以上になるところは、九州~東海地方の広い範囲で6%以上です。10m以上になると、震源域に近い地域で6%以上26%未満になっています。当然のことながらリアス式海岸の湾奥部や直線海岸などの地形条件のところでは確率が高くなっています。
 鹿児島県は幸いにして津波高3mでも確率は6%未満ですが、安心して良いわけではありません。津波高が膝下でも、津波の激流では転倒しますし、ひとたび水に飲み込まれると、漂流物に頭を打たれて脳震とうを起こし、水泳の達人でも溺死します。「逃げるが勝ち」です。
 右図は、3m以上のケースについて、地震本部と同じものをweb-GISで公開した防災科研J-THIS津波ハザードステーションを引用しました。他のケースや詳細については、そちらをご覧ください。
謝辞: 地震ハザードステーションおよび津波ハザードステーションの使用をご許可いただいた防災科学技術研究所に謝意を表します。

 強震波形4ケースと経験的手法の震度の最大値の分布

強震断層モデル(1)データセットA工学的基盤以浅の表層地盤モデル
(内閣府南海トラフの巨大地震モデル検討会)
 上記「南海トラフ地震の長期評価」で引用した「強震波形4ケースと経験的手法の震度の最大値の分布」が、G空間情報センターより地図タイルとして公開されましたので、右に紹介します。工学的基盤以浅の表層地盤モデルの例です。

文献
  1. 藤原 治・谷川晃一朗(2017), 南海トラフ沿岸の古津波堆積物の研究. 地質学雑誌, Vol.123, No.10, p.831-842.
  2. 岡村 眞・松岡裕美(2012), 津波堆積物からわかる南海地震の繰り返し. 科学, Vol.82, No., p.182-194.
  3. 吉田康宏(2013), 新しい南海トラフの地震活動の長期評価について. GSJ地質ニュース, Vol.2, No.7, p.193-196.
  4. (), . , Vol., No., p..
  5. (), . , Vol., No., p..
  6. (), . , Vol., No., p..

参考サイト:



初出日:2020/01/27
更新日:2020/10/29