熊本城の地震被害
熊本地震
地表地震断層(益城町) | |
熊本地震と余震分布(産総研) | 建物被害(益城町) |
この地震で顕著だったのは、地表地震断層が各地に出現したことと、阿蘇の火山地帯でテフラの表層すべりやカルデラ壁の崩壊が頻発したことです。建物被害も甚大で、とくに益城町から熊本市東部で大きな被害がありました。住家被害は全壊8,667棟、半壊34,19棟です。もう一つ熊本地震が有名になったのは、震災関連死の多さです。2016年4月30日現在の死者は49名でしたが、これは恐らく地震による直接死でしょう。しかし、2019年4月12日現在の死者は熊本県270名、大分県3名計273名に上っています。直接死の4倍以上の方が亡くなっているのです。都市型災害の特徴かも知れません。
熊本城の立地条件
地理院土地条件図と立田山断層(赤線:熊本市地盤図による) |
2万5千分の1活断層図「熊本」(改訂版) |
熊本城被災状況(2019年9月撮影) |
明治・平成両地震による被害(木下,2019) |
ここは茶臼山と呼ばれていましたが、舌状に張り出した京町台地の突端に位置します。9万年前の阿蘇4火砕流が形成した台地を白川・坪井川・井芹川が浸食してできたものです。右の土地条件図に見事に表現されています。地形的に張り出したところや孤塁は地震に弱いと俗に言われますが、やはりそうなのかも知れません。なお、この図には人工改変地も表現されています。熊本城のような文化財区域で、どのように人工改変を認定したのか分かりません。空中写真判読でしょうか。古地図の判読でしょうか。
また、絵図などを見ると、河川もずいぶん蛇行していたようです(土地条件図に加筆した旧河道は河本(2019)をトレースしました)。中世の山城では、しばしば河川の浸食崖を城壁とし、河川を堀に見立てて利用することが行われてきました。千葉城や隈本城もそのようなお城だったのでしょう。熊本城はそれらを取り込んでいるので、軟弱な河川堆積物の上に盛土したところがあります。
また、城域北縁を活断層の立田山断層(渡辺,1987)が通っています。北西落ちの正断層で、1889年(明治22年)熊本地震(M6.3)の起震断層とも言われています(久保寺ほか, 1980)。この明治熊本地震でも熊本城は被災しました。今回の2019年熊本地震では立田山断層は動かなかったようです。なお、熊本地震後、国土地理院は2万5千分の1活断層図「熊本」を改訂し、立田山断層を活断層と認定しましたが、熊本城周辺には活断層が引かれていません。活断層の定義にはいろいろありますが、日本活断層学会では、「数十万年前以降に繰り返し活動し、将来も活動すると考えられる断層」としています。この定義に従えば、後述のように、ボーリングで10万年前後の地層に変位が認められるそうですから、城内を通る断層も立派な活断層だと言えるのではないでしょうか。
<注> 土地条件図、活断層図とも縮小表示すると、本震と前震の位置が表示されます。また、木下(2019)の図は2段階拡大します(左上マークをクリックしてください)。
震災後のボーリング調査
熊本城地質断面図(中田,2020) |
文化財ですから、復旧のための必要最小限の調査しか行えないのでしょうが、地盤と構造物被害の関係をもっと詳細に調査して欲しいと思います。より地盤の影響を受けやすいと考えられる石垣を例に取れば、石垣の高さ・勾配・積み方・経年劣化、あるいは横付け垣か石塁かなどと、地盤の地質構成(とくに軟弱層である灰土の挟在の有無)・断層の有無・盛土の層厚などとの関係を検討してもらいたいものです。何故なら単なる文化財の現状復旧にとどまらず、地震に対する安全性をも考慮した復旧に資するには不可欠だからです。
文献:
- 檀上拓也・横尾泰広・塚田真之・加藤誉之・小田三千夫(2016),斜め空中写真による熊本城の被害把握と三次元モデル作成. 写真測量とリモートセンシング, Vol.55, No.3, p.164-165.
- 秦 吉弥・村田 晶・池本敏和・橋本隆雄・宮島昌克(2017),サイト増幅特性置換手法に基づく2016年熊本地震における熊本城の地震動の評価. 土木学会論文集A1(構造・地震工学), Vol.73, No.4, p.I_787-I_795.
- 嘉村哲也(2018),熊本地震による熊本城の被害と復旧. 文化遺産の世界, Vol.32, No., p..
- 河本愛輝(2019),熊本城築城への道. 第29回定期講座「熊本城学」, 4pp.
- 木下泰葉(2019),明治22年熊本地震と熊本城. 第31回定期講座「熊本城学」, 4pp.
- 国土地理院(2017),2万5千分1活断層図「熊本 改訂版」. 国土地理院, 1葉.
- 久保寺章・表俊一郎・横山勝三・渡辺一徳(1980), 1889年(明治22年)熊本地震の再評価.自然災害学会講演要旨集, p.47-48.
- 熊本県(1996), 布田川断層帯調査報告書 : 立田山断層を含む : 概要版. 熊本県, 18pp.
- 熊本城調査研究センター(2018),特別史跡熊本城跡平成28年熊本地震被害調査報告書. 熊本城総合事務所, 168pp.
- 熊本市(2019),特別史跡熊本城跡総括報告書 歴史資料編 史料・解説. 熊本市熊本城調査研究センター, 521pp.
- 熊本市(2019),特別史跡熊本城跡総括報告書 歴史資料編 絵図・地図・写真. 熊本市熊本城調査研究センター, 228pp.
- 中田 卓(2020), 熊本城付近の地質構造の特徴について. GET九州, 準備中.
- 小野将史・北野 隆(2002),. 日本建築学会計画系論文集, Vol.67, No.561, p.257-262.
- 小野将史・北野 隆(2003),加藤清正代末期の熊本城について : 加藤氏時代の熊本城に関する研究(その2). 日本建築学会計画系論文集, Vol.68, No.566, p.133-138.
- 内田恭司・青山宗靖(2018),熊本城の崩落石垣を測る. 文化遺産の世界, Vol.32, No., p..
- 渡辺一徳(1987),活断層としての立田山断層. 熊本地学会誌, Vol., No.85, p.6-13.
- 山中佳子・新井田倫子(2017),明治22年熊本地震の詳細震度分布. 地震, Vol.70, No., p.233-248.
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参考サイト:
- 熊本城総合事務所(熊本市)
- 熊本城調査研究センター(熊本市)
- 熊本城公式ホームページ(熊本市)
- 「熊本地震が突き付けた課題」 熊本城石垣及び擁壁の被害分析(国士舘大学橋本隆雄教授スライド)
- 積石構造物の被害分析(国士舘大学橋本隆雄教授スライド)
- 歴史的建造物の被害(国士舘大学橋本隆雄教授スライド)
- 熊本大学アーカイブ「ひのくに災史録」(くまもと水循環・減災研究教育センター)
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初出日:2019/11/22
更新日:2020/11/30