鹿児島の災害民話

 猿ヶ城の朱塗観音

垂水市猿ヶ城のガレ沢
白い巨礫は花崗岩です。
高隈山地質図(産総研シームレス地質図)
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 高隈山猿ヶ城渓谷の内ノ野(垂水市内ノ野)では、朱塗観音とよぶ石(現在は不明)について、次のような話が伝えられています。

 この観音の顔が赤くなると洪水が出るといわれていた。あるいたずら者がひそかに朱を塗った。それを知らない村人たちは驚き、難を避けようと争って村を出た。いたずら者は一人残って笑っていたが、夜になって大洪水が起こり、男は死んでしまったという。

―椋鳩十・有馬英子著『日本の伝説11 鹿児島の伝説』年角川書店, 236pp., (1976)による―

<注>
 猿ヶ城渓谷は写真のように花崗岩の巨礫からなるガレ沢です。ガレ沢ということは土石流渓流を意味します。この朱塗観音とよぶ石も、白くきれいな花崗岩だったに違いありません。四万十層群の頁岩からなる源流部で雨が降ると、濁った水が流れてきて、日頃は白い岩が赤く汚れこともあります。このような時には、たとえ下流では雨が降っていなくても、鉄砲水の危険があります。事前避難をすすめたのが、この民話の狙いだったと思われます。

 ガラッパどん

 写真は鹿児島市吉田町宮之浦八幡神社南方200mにある三重石塔です。四方表面に梵字が刻まれており、下段に「寛政十二年(1800)丑吉日奉供養講衆四十六人」と刻まれていますから、庚申講の供養塔だと思われます。しかし、一説には、当時毎年水害に見舞われていたので、この塔でお祭りをして難を逃れようとしたため、以後「ガラッパどん」の墓と言うようになったという古老の話もあるそうです。

<蛇足> 岩松さまのこま犬

 新潟県長岡市の土砂災害ハザードマップに、岩松家に伝わる以下のような民話が掲載されており、早期避難を呼びかけています。山犬の気味悪い声というのは、恐らく岩石がこすれたり、木の根がちぎれたり、木の枝がこすれ合ったりする地すべりの前兆現象を指しているのでしょう。

<注> 岩松家の子孫が鹿児島で、災害の警鐘を鳴らして吠えています。



初出日:2016/07/01
更新日:2022/03/25