2020年6月桜島民家近くに噴石火山砕屑物1986年桜島古里ホテルレーダによる擬似噴石の検出噴石の速度と到達距離<参考>新燃岳パン皮状火山弾

 噴石災害

 2020年6月桜島民家近くに噴石

衝撃クレーター(気象庁)落下地点(円は南岳火口から3km圏)
 2020年6月4日午前2時59分頃、桜島南岳の爆発的噴火により、大きな噴石が火口から約3kmの民家付近に落下しました。衝撃クレーターimpact cratorは直径約6m、深さ約2mあり、元の噴石の大きさは50~70cmと推定されるそうです。噴火当日は分からなかったのですが、住民の通報があって、8日気象庁職員や専門家により確認されました。桜島の噴火警戒レベル判定基準では、「大きな噴石が火口から2.5キロ以上に飛散」した場合、噴火警戒レベルを5に引き上げる、となっていますので、本来ならレベル引き上げに相当する事態だったのです。しかし、気象庁では、「大きな噴石の飛散とは、多数の噴石が飛ぶことを意味していて、今回の噴火は1つの噴石だったため、レベル5への引き上げに該当しない」と説明しました。その後、17日になって、気象庁長官が釈明記者会見を行うなどの一幕がありました。説明の当否はともかく、個々の噴石まで確認することはまだ研究中の課題であり(後述)、現在の技術水準ではなかなか難しいでしょう。
<注> 産総研によれば、これらの噴石の石基は結晶化しており、噴出時点でメルトではなく固結していたと考えられ、火口底に滞留し火道頂部を閉塞した溶岩が爆発により破砕し飛散したと推測されるそうです。したがって、後述の定義にいう火山弾ではありません。

 火山砕屑物

粒径火砕物(テフラtephla)
< 2mm火山灰Volcanic ash
2~64mm火山礫Volcanic lapilli
> 64mm火山岩塊Volcanic block
 ところで、噴石という語は火山学用語ではなく、日本の気象庁の造語です。火山噴火により噴出される固形物で熔岩以外のものを火山砕屑物pyroclastic material略して火砕物と言います。テフラtephraとも言います。火砕流堆積物pyrocastic flow depositsのように斜面を流下したものに対して、空中を弾道飛行で放出されたものを火山降下堆積物pyroclastic fall depositsと言うこともあります。
 先ず右表のような粒径による分類があります。気象庁用語で言えば、火山岩塊が「大きな噴石」、火山礫が「小さな噴石」に当たります。これとは別に、成因や組織あるいは色による分類もあります。
富士宝永山の紡錘状火山弾
 噴石による災害では、2014年9月27日御嶽山で登山客58名が亡くなった災害が記憶に新しいところです。戦後最大の火山災害と言われましたが、水蒸気爆発でした。最大数10cmの噴石を降らせ、その直撃で亡くなった方が多かったようですが、高温火山灰を吸い込んで窒息死した方もあったようです。この場合の噴石は、本質マグマが空中冷却したものではなく、火口周辺にあった岩石が水蒸気の力で吹き飛ばされたわけですから、火山弾とは呼ばず、単に火山岩塊と呼ぶほうが良いでしょう。

 1986年桜島古里ホテル

ホテル1階床にできた穴(鹿児島県)有村集落の噴石被害(鹿児島県)
 桜島でも巨大噴石による被害があったこともあります。1986年11月23日16時2分の爆発的噴火では、古里町の旅館に直径1m以上と推定される噴石が落下し6人が重軽傷を負いました。平屋建玄関の鉄板屋根と厚さ約15cmのコンクリート床を貫き、地下倉庫に達しました。床の穴は直径3mもありました。他に敷地内にも径3.5m深さ1mの衝突クレーターもありました。噴石は高温で、しばらく熱かったそうです。
 当時は南岳の活動が大変活発で、1984年7月には有村集落一帯に30cm大の噴石が大量に落下、屋根の破損や住宅火災も発生しました。そのため、集団移転が計画されましたが実現せず、約6割の方が本土側の新設団地星ヶ峯等へ移住しました。

 レーダによる擬似噴石の検出

船舶レーダによる花火の検出(真木ほか,2020)
花火玉の軌跡と理論値(真木ほか,2020)投下した麸の検出(真木ほか,2020)
 冒頭述べたように、噴石の自動検出(モニタリング)はなかなか困難です。噴石が噴煙柱の中にある間は当然ながら検出は難しく、噴煙柱内から出た直後の2~3シーンで噴石の大きさ・位置・速度などを決定しなければならないからです。真木ほか(2020)は、擬似噴石を用いてレーダ検出が可能か実験を行いました。大きな噴石の例としては花火の玉を用いたのです。夜ですから肉眼で玉の軌跡は見えませんが、400W固体化素子レーダ(鹿大南星丸)では明瞭に捉えられました。玉の大きさ・密度・初速度等を与えると、特に爆発前の場合には、計算値と良く合います。逆に言えば、軌跡の観測によって、これらパラメータを知ることができるということを意味します。
 小さな噴石の例としては、直径約3cmの玉こんにゃくと湿った麸をセスナ機から投下して、船舶レーダで追跡しました。図のように明瞭に検出できます。今後は実際の噴石での研究が進むことでしょう。

 噴石の速度と到達距離

 桜島島内の学童は噴石からの防護のためヘルメットを着用して通学しています。実際、小さな噴石でも車のフロントガラスが割られることもあります。噴石はどのくらいの距離まで飛ぶのでしょうか。また、その速度はどのくらいなのでしょうか。
桜島における大きな噴石の到達距離別ヒストグラム(内閣府)2011年新燃岳噴火の小噴石(小林市)
 先ずどこまで届くかが気になるところです。噴火様式や規模によっても異なります。桜島の場合、現在のブルカノ式噴火では、50cm以上の大きな噴石は、図に示すように山頂から2km圏内に落下しているようです。小さな噴石は場合によっては、かなり遠くまで届くことがあります。2011年新燃岳噴火では、15kmも離れた小林市にまで到達しました。
 次に速度です。高校物理の放物線運動の応用問題です。古典的な例では、水上(1940)は、1935年浅間山噴火の50cm~1mの岩塊を調べ、落下速度は133~198m/sと見積もっています。2014年御嶽山噴火では、時速300km弱で落下したとの報道もあります。
 しかし、小さな噴石では空気抵抗を無視するわけにはいきません。空気抵抗によって減速され、時間が経つと一定になります。これを終末速度terminal velocityと言います。カシオ計算機の計算サイト「ke!+san」に球体の終速度があります。安山岩の密度は2.4程度です。このサイトで計算してみてください。ちなみに日本警察の9mm口径銃では初速261m/sとのことです。
 いずれにせよ噴煙が自分のいる方向にたなびき始めたら、火山灰だったらもうけものくらいに考えて、一応、噴石を警戒して物陰に隠れることをお薦めします。

<参考> 新燃岳パン皮状火山弾

新燃岳パン皮状火山弾衝突クレーター落下地点(円は3km圏)
 2011年2月1日の新燃岳噴火で、大きなパン皮状火山弾が火口から約3.2kmの県道1号線脇に落下しました。現在えびの高原エコミュージアムセンターに展示されていますが、約400kgあるだろうとのことです。落下地点に散乱していた小噴石がこれのカケラだとすると、全体では500kgになるそうです。当時は立入禁止でしたから被害はありませんでした。

文献:
  1. 気象庁(2014), 火山噴火予知連絡会 火山活動評価検討会報告書-噴火現象の即時的な把握手法について-. 気象庁, 93pp.
  2. 真木雅之・西 隆昭・小堀壮彦・徳島秀彦・海賀和彦・遠藤寛治(2020), Xバンド船舶レーダを用いた火山噴火の機動的観測. 鹿児島大学地震火山地域防災センター令和元年度報告書, p.53-62.
  3. 水上 武(1940), 浅間火山最近の爆発により噴出せる火山弾の分布と爆発のエネルギーに就いて. 火山, Vol.4, No., p.141-155.
  4. 内閣府(防災担当)(2015), 活火山における退避壕等の充実に向けた手引き. 内閣府, 77pp.
  5. 及川輝樹・山岡耕春・吉本充宏・中田節也・竹下欣宏・前野 深・石塚末浩・小森次郎・嶋野岳人・中野 俊(2015), 御嶽山2014年噴火. 火山, Vol.60, No.3, p.411-415.
  6. 桜島大正噴火100周年事業実行委員会(2014), 桜島大正噴火100周年記念誌. 鹿児島県, 163pp.
  7. (), . , Vol., No., p..
  8. (), . , Vol., No., p..
  9. (), . , Vol., No., p..

参考サイト:



初出日:2020/06/08
更新日:2020/07/03