噴石災害
2020年6月桜島民家近くに噴石
衝撃クレーター(気象庁) | 落下地点(円は南岳火口から3km圏) |
<注> 産総研によれば、これらの噴石の石基は結晶化しており、噴出時点でメルトではなく固結していたと考えられ、火口底に滞留し火道頂部を閉塞した溶岩が爆発により破砕し飛散したと推測されるそうです。したがって、後述の定義にいう火山弾ではありません。
火山砕屑物
粒径 | 火砕物(テフラtephla) |
---|---|
< 2mm | 火山灰Volcanic ash |
2~64mm | 火山礫Volcanic lapilli |
> 64mm | 火山岩塊Volcanic block |
先ず右表のような粒径による分類があります。気象庁用語で言えば、火山岩塊が「大きな噴石」、火山礫が「小さな噴石」に当たります。これとは別に、成因や組織あるいは色による分類もあります。
富士宝永山の紡錘状火山弾 |
- 火山弾volcanic bomb
火山噴火に際して液体状のマグマが空中に放出される際、飛散しながら空冷によって紡錘状・球状・パン皮状など独特の形状になったものです。まだ粘性を持ったまま着地したものは牛糞状になります。大きさは火山岩塊以上のものを言います。 - 軽石pumice
流紋岩質~石英安山岩質など酸性マグマが火山噴火で空中に放出された際、減圧に伴う急激な脱ガスにより多孔質になったものです。原マグマが酸性のため、白色~淡色を呈します。 - スコリアscoria
軽石と同じメカニズムですが、原マグマが安山岩質~玄武岩質だと茶褐色~黒色になります。軽石と区別してスコリアと呼びます。
1986年桜島古里ホテル
ホテル1階床にできた穴(鹿児島県) | 有村集落の噴石被害(鹿児島県) |
当時は南岳の活動が大変活発で、1984年7月には有村集落一帯に30cm大の噴石が大量に落下、屋根の破損や住宅火災も発生しました。そのため、集団移転が計画されましたが実現せず、約6割の方が本土側の新設団地星ヶ峯等へ移住しました。
レーダによる擬似噴石の検出
船舶レーダによる花火の検出(真木ほか,2020) | |
花火玉の軌跡と理論値(真木ほか,2020) | 投下した麸の検出(真木ほか,2020) |
小さな噴石の例としては、直径約3cmの玉こんにゃくと湿った麸をセスナ機から投下して、船舶レーダで追跡しました。図のように明瞭に検出できます。今後は実際の噴石での研究が進むことでしょう。
噴石の速度と到達距離
桜島島内の学童は噴石からの防護のためヘルメットを着用して通学しています。実際、小さな噴石でも車のフロントガラスが割られることもあります。噴石はどのくらいの距離まで飛ぶのでしょうか。また、その速度はどのくらいなのでしょうか。桜島における大きな噴石の到達距離別ヒストグラム(内閣府) | 2011年新燃岳噴火の小噴石(小林市) |
次に速度です。高校物理の放物線運動の応用問題です。古典的な例では、水上(1940)は、1935年浅間山噴火の50cm~1mの岩塊を調べ、落下速度は133~198m/sと見積もっています。2014年御嶽山噴火では、時速300km弱で落下したとの報道もあります。
しかし、小さな噴石では空気抵抗を無視するわけにはいきません。空気抵抗によって減速され、時間が経つと一定になります。これを終末速度terminal velocityと言います。カシオ計算機の計算サイト「ke!+san」に球体の終速度があります。安山岩の密度は2.4程度です。このサイトで計算してみてください。ちなみに日本警察の9mm口径銃では初速261m/sとのことです。
いずれにせよ噴煙が自分のいる方向にたなびき始めたら、火山灰だったらもうけものくらいに考えて、一応、噴石を警戒して物陰に隠れることをお薦めします。
<参考> 新燃岳パン皮状火山弾
新燃岳パン皮状火山弾 | 衝突クレーター | 落下地点(円は3km圏) |
文献:
- 気象庁(2014), 火山噴火予知連絡会 火山活動評価検討会報告書-噴火現象の即時的な把握手法について-. 気象庁, 93pp.
- 真木雅之・西 隆昭・小堀壮彦・徳島秀彦・海賀和彦・遠藤寛治(2020), Xバンド船舶レーダを用いた火山噴火の機動的観測. 鹿児島大学地震火山地域防災センター令和元年度報告書, p.53-62.
- 水上 武(1940), 浅間火山最近の爆発により噴出せる火山弾の分布と爆発のエネルギーに就いて. 火山, Vol.4, No., p.141-155.
- 内閣府(防災担当)(2015), 活火山における退避壕等の充実に向けた手引き. 内閣府, 77pp.
- 及川輝樹・山岡耕春・吉本充宏・中田節也・竹下欣宏・前野 深・石塚末浩・小森次郎・嶋野岳人・中野 俊(2015), 御嶽山2014年噴火. 火山, Vol.60, No.3, p.411-415.
- 桜島大正噴火100周年事業実行委員会(2014), 桜島大正噴火100周年記念誌. 鹿児島県, 163pp.
- (), . , Vol., No., p..
- (), . , Vol., No., p..
- (), . , Vol., No., p..
参考サイト:
- 桜島の火山活動解説資料(気象庁)
- 鹿児島 桜島噴火 集落近くまで噴石も警戒レベル引き上げられず(NHK NEWS WEB)
- 気象庁長官「誤解招いた」桜島の爆発的噴火で説明を後日修正(NHK NEWS WEB)
- 「気象庁はとんでもない」学者が激怒 “火山弾”めぐる混乱(NHK NEWS WEB)
- 火山学者に聞いてみよう-トピック編-(日本火山学会)
- 2020年6月4日桜島南岳火山噴出物の特徴(産総研提出第146回火山噴火予知連絡会資料)
初出日:2020/06/08
更新日:2020/07/03