BCPとは鹿児島におけるBCP錦江湾岸事業所アンケートマニュアル主義の戒め

 事業継続計画(BCP)

 BCPとは

BCPの有無と復興(国総研による)
 東日本大震災で、東北の自動車部品工場が被災したため、その影響が世界中に及び、自動車の生産がストップしたことがありました。ジャストインタイム生産方式が浸透し、極力ストックを抱え込まないようにしていたからです。
 事業継続計画(Buisiness Continuity Plan or Planning)とは、災害や事故等が発生し、操業度が一時的に低下した場合でも、その事業所にとって中核となる事業については継続が可能な状況までの低下に抑える(中核事業は継続させる)、また、回復時間をできる限り短縮させ、できるだけ早期に操業度を回復させることにより事業所の損失を最小限に抑え、災害や事故等の発生後でも事業を継続させていくための計画です(国総研による)。
 また、ISO22301によれば、次のように定義されています。
 事業の業務の中断・阻害に対応し、事業を復旧し、再開し、あらかじめ定められたレベルに回復するように組織を導く文書化された手順
 図をご覧ください。空色の線が現状での復旧曲線です。上述の部品工場に例を取れば、工場全体が壊滅的被害を受けたため、操業が全面ストップしました。自動車会社は、部品がないと作れませんから、他社や他国から必要部品を調達します。そうなると、工場を復旧しても顧客が離れていますから、売り先がありません。最悪の場合には廃業に至ることもあります。どうしたらよいでしょうか。基幹となる製品製造工程(中核事業)だけは、被害を出さない工夫をする、あるいは、事前に同業他社と相互支援協定を結んでおき、そちらの工場を使って、操業を直ちに再開することです。つまり、操業度を許容限界までは下げないこと、図のピンクの矢印の方向が必要です。これにより雇用も維持でき、収益もあまり落とさずに済みます。もう一つは、被害の程度を調べ、比較的軽度の被害で済んだ分野に経営資源を重点的に投入します。緑色の矢印の方向が求められています。大切な点は、事前に具体的な計画を立て訓練しておくことです。平時にできないことが、不意打ちを食らった混乱の中でできるわけがないからでないです。
 なお、製造業を例に挙げましたが、業種業態の如何に関わらず、どこでもBCPは必要です。学校や医療機関・役所などもぜひ策定していただきたいものです。
蛇足:事業継続マネジメントBCM(Buisiness Continuity Management)…BCP策定や維持・更新、事業継続を実現するための予算・資源の確保、事前対策の実施、取組を浸透させるための教育・訓練の実施、点検、継続的な改善などを行う平常時からのマネジメント活動

 鹿児島におけるBCP

BCPへの取り組み(政策投資銀行南九州支店による)
 日本政策投資銀行南九州支店が2012年12月、宮崎・鹿児島両県においてアンケート調査を行った結果、南九州企業のBCP策定率は17%で内閣府が2011年11月に行った全国調査の結果が31%だったことと比べると、かなり低いのが実情です。しかもBCP策定会社の過半が親会社・グループ会社の指導を受けたと回答していますから、地場の企業はもっと低いものと思われます。未策定の理由としては、「策定に必要なスキル・ノウハウがない」との回答が最多だったそうです。子会社は他地域にある親会社からの支援を当てにできます。地場にしかない会社こそBCPが求められているのではないでしょうか。
 一般企業だけでなく、ライフラインを担う半公共的企業も、さらには役所も学校も医療機関もぜひ早く策定して欲しいものです。

 桜島大噴火に関する錦江湾岸事業所BCPアンケート

 2013年3月、鹿大地域防災教育研究センターと南日本新聞社は共同で、錦江湾岸事業所BCPアンケートを実施しました。売上高上位の大規模会社と公共性の高い事業所の計200個所を選定、郵送による方法で行い、115社から回答を得ました。回収率は57.5%です。
 回答内容を見ると、桜島のマグマ蓄積が進んでいることも知っており、もしも大正級の噴火があった場合、大量火山灰の影響があるとは思っているようですが、切迫感(危機感)に乏しく、実際に事業継続計画を持っているところは22.6%に過ぎず、防災マニュアルもほとんど作成されていませんでした。
南日本新聞2013年3月10日記事全文pdfは次のところにあります。1面16面,17面
上記新聞記事に掲載されたコメントは下記の通りです。

「想定外」桜島には使えず    鹿児島大学地域防災教育研究センター特任教授 岩松 暉
 東日本大震災では「想定外」なる言葉がはやった。原発はさておき、確かに貞観津波は奈良時代の話だ。しかし桜島は百年前わが国で20世紀最大の噴火をしている。来るべき桜島噴火で「想定外」なる言い訳を使うことは許されない。
 では「想定外」に備えているであろうか。アンケートの結果を拝見すると、桜島の大噴火が近づいていることも、大きな影響があるだろうことも認識しておられるようだが、対応策を考えているところは少ない。ローマのカエサルは「多くの人は見たいと欲する現実しか見ていない」と名言を吐いたという。まさに「考えたくないものは考えない」を地で行っているようだ。
 もう一つ気になることがある。自由記述欄で、行政への要望はたくさん書いてあるが、自己の対応策についてはほとんど無記入である。防災はお上任せとの風潮があるようだ。しかし東日本大震災で見たように、広域同時多発災害では行政の力には限界がある。「自分の命は自分で守る」のが災害の鉄則である。
 もっと想像力を働かせて「想定外」を想定してみよう。内閣府の「広域的な火山防災対策に係る検討会」ではさまざまな事態を想定している。これとて「要調査研究」という事項の羅列で不十分ではあるが、ぜひ一読してほしい。鹿児島では毎日降灰を浴びているのだから、東京の人よりも、もっと具体的に想像ができるはずである。桜島大正噴火では、溶岩流出だけでなく、地震と液状化、地盤沈下と小津波、広域にわたる大量の軽石・火山灰の降下、長年月の土石流災害、伝染病など、同時多発広域複合災害の様相を呈していた。
 寺田寅彦は「文明が進むほど災害は激烈の度を増す」と喝破したが、鹿児島でも人口の一極集中と過疎高齢化の進行、交通・情報インフラの発達、産業の高度化、人工埋立地の増大など、利便性向上の陰で災害に対する脆弱性が増大している。 企業も「想定外」の事態に備えて、事業継続計画(BCP)を策定しておくことが不可欠である。火山災害は長期にわたるから、顧客を一度、他に奪われたら二度と戻ってくることはない。それは倒産と雇用喪失に直結する。競合他社との相互応援協定により生産を継続する術を考えておく、被害が軽微な部門に限られた資源を集中して生産を維持する―など生き残り策を事前に準備しておくことが望まれる。
 そのほか、一例を挙げれば、エアフィルター、非常用電源、地下水源などを用意するとともに、ある程度ストックを置くなど長期の物流途絶を覚悟した対策を講じておく必要があろう。社員とその家族を守ることも事業継続に欠かせない。
 こうした受け身策だけでなく、例えば大量降灰時でも機能する携帯電話アンテナを開発し、富士山噴火を懸念している関東圏はじめ、活火山周辺地域に売り込むといった攻めの姿勢も重要であろう。

 マニュアル主義の戒め

 BCPもISO9001やISO14001なども文書化が求められます。確かに明文化しておくと、全員への周知や誤解などが防げますし、非常事態の時に、動転して間違った判断をしたり、右往左往して機を失したりする恐れも少なくなります。一方で、文書を作ること自体が目的になってしまうことも往々あります。文書が出来たら一安心という分けです。BCP文書を作ったら、繰り返し繰り返し、訓練や図上演習を行い、内容をレベルアップすると共に、構成員全体の血肉にすることが必要です。もう一つ、マニュアル主義に陥る危険もあります。大抵、この種の文書はトップダウンの指揮命令系統が確立している例が多いのです。些細なことまで手順が明記されているので、全員が指示待ちの姿勢になって、想定外の事態が起きると、どうして良いか分からなかったり、現実の事態に即していないのに、文書に記載されている通りに行動したりします。
 東日本大震災では東京ディズニーランドの対応が賞賛されました。3.11当日、7万人の来園者があり、それに1万人のスタッフ(その9割はバイト)が対応しました。直ちに園内アナウンスをすると共に、スタッフが笑顔で落ち付くよう話しかけ、中には売店のぬいぐるみを防災ずきんとして無償配布したり、店頭販売のクッキーなども非常用食料として配付したスタッフもいたとか。これには日頃から経営理念の優先順位Safety(安全)・Courtesy(礼儀正しさ)・Show(ショー)・Efficiency(効率)のSCSEがスタッフに浸透していたこと、年間180日もの防災訓練が行われていたことなどが大きく物を言ったそうです。BCPはその企業なり機関なりを存続させ雇用を守ることが第一ですから、それを実現するために、今何をなすべきなのか、構成員が自らの頭で考え判断し、行動することが求められます。全体の哲学が共有されている必要があるのです。

文献:
  1. 中小企業庁(2008), 中小企業BCP(事業継続計画)ガイド~緊急事態を生き抜くために~. 43pp.
  2. 中小企業庁(2012), 中小企業BCPの策定策定促進に向けて~中小企業が緊急事態を生き抜くために~. 8pp.
  3. 中小企業庁(2012), 中小企業BCP策定運用指針第2版-どんな緊急事態に遭っても企業が生き抜くための準備-. 369pp.
  4. ICSU(2015), Disaster Risks Research and Assessment to Promote Risk Reduction and Management. 49pp.
  5. 内閣府(2013), 事業継続ガイドライン(第三版)―あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応―. 55pp.
  6. 経済産業省(2013), 企業における情報セキュリティガバナンスのあり方に関する研究会報告書 参考資料 事業継続計画策定ガイドライン. , p.1-52.
  7. ニュートン・コンサルティング株式会社(2015), 平成26年度中小企業事業継続計画(BCP)に関する調査報告書. , Vol., No., p..
  8. 経済産業省(2014), 事業継続能力評価ハンドブック. 26pp.
  9. 国土交通省港湾局(2015), 港湾の事業継続計画(港湾BCP)策定ガイドライン. 38pp.
  10. 日本政策投資銀行南九州支店(2013), 南九州企業のBCP(事業継続計画)に関する意識調査-事業継続力向上に向けて-. 20pp.
  11. 総務省自治行政局地域情報政策室(2013), 災害発生時の業務継続及びICTの利活用等に関する調査. 74pp.
  12. 内田勝也(2013), 情報システムリスクから考える事業継続計画(BCP)の考え方. 情報管理, Vol.55, No.11, p.810-818.
  13. 全国建設業協会(), 地域建設企業の事業継続計画(簡易版)作成例(第3版). , 42pp.
  14. (), . , Vol., No., p..
  15. (), . , Vol., No., p..
  16. (), . , Vol., No., p..
  17. (), . , Vol., No., p..
参考サイト

頁トップに戻るBCPとは鹿児島におけるBCP錦江湾岸事業所アンケートマニュアル主義の戒め

初出日:2015/08/03
更新日:2018/03/07