2020年エーゲ海地震

震度階(USGS)余震分布(石川による)
 2020年10月30日午前11時51分頃(協定世界時)エーゲ海のサモス島沖14km深さ21kmでM7.0の地震が発生しました。この地震で、サモス島Karlovasiの教会が被災したりしましたが、被害はトルコのIzmir市がひどかったようです。両国で80人以上の犠牲者が出ている模様です。もちろん、津波も発生、エーゲ海の島々が襲われました。11月4日、トルコ当局は捜査活動の終了を発表しました。死者は114人だったそうです。ギリシア側の死者2人を合わせると、犠牲者数は116人となります。

 エーゲ海のテクトニクス

Hellenic Arc(Wikipediaによる)ヨーロッパ地質図(OneGeology)
とギリシア地震断層図(GreDaSS)
1964~,>M4,<60km/depthの地震分布(石川による)
プレート境界1(USGS)プレート境界2(USGS)
青:convergent
赤:transform
緑:divergent
灰:other
灰:Continental Convergent Boundary
緑:Continental Rift Boundary
赤:Continental Transform Fault
桃:Oceanic Convergent Boundary
赤紫:Oceanic Spreading Rift
黄緑:Oceanic Transform Fault
青:Oceanic Transform Fault
Moment Tensor(USGS)Plate Motion & Local Stress(Papazachos,1999)
 この地域は、大きく見ると、ユーラシアプレートとアフリカプレートが衝突しているところですから、スラスト型(南北圧縮型)の地震かと想像していましたが、右図のように東西走向の正断層型(南北引張の応力場)でした。少し不思議なので、調べてみました。
 この地域は、もう少し細かく言うと、両巨大プレートに挟まって、エーゲ海プレートとアナトリアプレートという2つのマイクロプレートが押し合いへし合いしているところのようです。アメリカ地質調査所USGSからプレート境界のKMLデータが公開されていますが、2種類あります。現在はその1しかウェブ上で見当たりません。これにはエーゲ海周辺の境界が載っていません。同じ組織が出している図が大幅に違うのです。ことほど左様に複雑なところなのです。エーゲ海までアナトリアプレートに含める人もいます。
 地中海地方のテクトニクスを簡単にまとめてみましょう(USGSによる)。
 地中海地方はアフリカプレートがユーラシアプレートに対して年4-10mmの割合で衝突しています。これは50Ma頃から始まり、それに伴いテチス海Tethys Seaが閉ざされました。地中海はこのテチス海の名残なのです。地震活動がもっとも活発なところは、南部ギリシアのHellenic subduction zone、西部トルコのNorth Anatolian Fault Zone、南部イタリアのCalabrian subduction zoneです。局地的にもっとも圧縮が著しいところは年35mmのHellenic subduction zoneです。これは、もぐり込む地中海海洋地殻の上での背弧拡大(開裂)を伴います。この開裂により正断層活動が活発です(今回の地震もその一つかも知れません)。マルマラ海Marmara Seaは、西の伸張地域と東の北アナトリア断層帯の横ずれ地域との漸移帯に当たります。北アナトリア断層は、アナトリアマイクロプレートとユーラシアプレートとの間の右横ずれ運動(23-24/yr)を調整しています。それによりアナトリアマイクロプレートは、トルコ南部におけるアフリカプレートとアラビアプレートとの衝突に起因する地中海盆の閉鎖をさらに押し進めます。Calabrian subduction zoneのティレニア海Tyrrhenian Seaでは、地中海の海底が沈み込んで、シシリー島周辺と南部イタリアで顕著な地震帯を形成しています。活火山はエーゲ海のキクラデス諸島Cycladesや南部イタリアにおける中深発地震帯の上に生じています。

 津波

The signals of the Tsunami(JRC, EU, 2020)
 津波については、EUのJoint Research Centreから、右図のようなデータは発表されていますが、浸水域のようなマップデータはまだ発表されていないようです。

文献
  1. Annunziato, A.(2015), The inexpensive device for sea level measurements. Science of Tsunami Hazards, Vol.34, No.4, p.199-211.
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  3. Dominey-Howes, D.(2002), Documentary and Geological Records of Tsunamis in the Aegean Sea Region of Greece and their Potential Value to Risk Assessment and Disaster Management. Natural Hazards, Vol.71, No.3, p.195-224.
  4. 今村文彦・箕浦幸治・高橋智幸・首藤伸夫(1997), エーゲ海における歴史津波堆積物に関する現地調査. 海岸工学論文集, Vol.44, No., p.321-325.
  5. Makropoulos, K. C. & Burton, P. W.(1984), Greek tectonics and seismicity. Tectonophysics, Vol.106, Issues3-4, p.275-304.
  6. Mitsoudis, D. A., Flouri, E. T., Chrysoulakis, N., Kamarianakis, Y., Okal, E. A. & Synolakis, C. E. (2012), Tsunami hazard in the southeast Aegean Sea. Coastal engineering (Amsterdam), Vol.60, No., p.136-148.
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  8. Papazachos, C. B.(1999), Seismological and GPS evidence for the Aegean‐Anatolia Interaction. Geopys.. Res. Letters, Vol.26, No.17, p.2653-2656.
  9. Reith, W.(2014), The Aegean: plate tectonic evolution in Mediterranean. , 7pp.
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参考サイト:



初出日:2020/10/31
更新日:2020/11/11