土砂災害警戒判定メッシュ情報全市民避難被害状況CeMIアンケート調査

 2019鹿児島大雨

 土砂災害警戒判定メッシュ情報

土砂災害危険度分布(2019/6/28 08:00)
 気象庁では従来から土壌雨量指数や降雨の実況・予測に基づいて、土砂災害が発生する危険度を5kmメッシュごとに5段階評価して、大雨警報(土砂災害)の危険度分布(土砂災害警戒判定メッシュ情報)としてネット公開してきました。2019年6月25日からそれを1kmメッシュに改善し、より詳しい情報を発信すると発表しました。その直後の6月28日、鹿児島市北部方面で紫色の「極めて危険」の領域が表示されます。適用第1号です。内閣府・消防庁によれば、全員避難を示すレベル4のしかも高に当たります。
 7月1日になると、吉田・吉野など鹿児島市北部方面が紫色で塗りつぶされます。当然、市危機管理課からの避難所開設メールがジャンジャン来ます。

 全市民避難

土砂災害危険度分布(2019/07/03 13:00)安心ネットワーク119
アメダス降水量の時系列図(鹿児島地方気象台)
 7月3日になると、市内のほぼ全域がレベル4になりました。ついに午前9時40分、市内全域594,943人に対して避難指示が出されました。森市長も緊急記者会見を行い、1993年の8・6水害に匹敵する恐れがあるとして、命を守る行動を取るよう訴えました。全市民対象という異例の事態ですから、詰めかけた避難民で溢れた避難所や、危険として閉鎖した避難所があったなど、多少の混乱もありました。結局、避難した人は全部で3,453人(4日午前4時時点)で、避難率は0.6%でした。これをどう評価したら良いのでしょうか。
 一部市民やマスコミからは、全市民対象ではなく、もっと本当に危険なところに絞って避難指示を出すべき、との声があったようですが、国の機関が「逃げ遅れゼロへ」と訴え「全員避難」の情報を出しているのに、地方自治体が独断で割り引いた避難指示を出すのは、万一の責任問題もあり、なかなか難しいでしょう。専門家でもない自治体職員が絞り込むのも実質的に不可能です。土砂災害危険度マップや水害ハザードマップから町丁目単位ぐらいに絞ることは可能かも知れませんが、連絡方法など実務面まで考慮すると、なかなか難しいものがあります。ここはやはり御上頼みを脱却して、地域住民が自分の住む地域の成り立ちを知り、その特性に応じて臨機応変の措置が取れるよう、一人ひとりが賢くなることが肝心なのではないでしょうか。
 避難所自体や避難所までの経路に問題のあるところが多々見つかったようですが、これは早急に解決する必要があります。市も見直しに着手しています。避難所は周辺住民だけでなく、通りがかった人や観光客も逃げ込むところですから、定員オーバーの件は、難しいところです。他地域では、比較的居住性の良い福祉避難所に健常者が強引に割り込んできて問題を起こしているところもあります。福祉避難所は災害弱者のよりどころとして確保して置いて欲しいものです。
 メール情報については、改善して欲しいと思います。広域合併をしましたから、周辺地域の日頃縁遠いところの避難所開設情報まで入って来ます。大量のメールが来るので、それだけ緊急事態だと受け止めた人もいるかも知れませんが、どうも市内全域を一括りにして大雑把な情報を出している、何を大げさなと思った人がかなりいたようです。近頃のケータイにはGPSが大抵着いていますから、これに基づいて情報を届けるよう、システムの改善ができないものでしょうか。
 2019年12月14日付南日本新聞によれば、鹿児島市はこの大雨を受けて、2020年度から避難勧告・指示を町丁目単位で具体的に示すよう改めるそうです。

 被害状況

被害速報(国交省)主要被災個所(:崩壊,:道路不通,:水害) 大凡の位置です。
南鹿児島駅(宇都忠和氏提供)大里川越流個所
 今回の大雨では、降水量の割には比較的軽微な被害で済みました。土砂災害は、各地で小規模なシラスの表層崩壊があったようです。残念ながら鹿児島市本城町と曽於市大隅町で各1名の死者を出してしまいました。いちき串木野市大里川、鹿児島市和田川、南さつま市大王川で越流が発生しました。県道の長期不通も発生しています。

 CeMI環境・防災研究所のアンケート調査

避難したか(CeMI,2019)
避難のきっかけ(CeMI,2019)
 今回は60万市民全員避難指示というショッキングな事件でしたので、(NPO)環境防災総合政策研究機構CeMIでは、インターネットを通じたアンケート調査と,実際に被害のあった田上地区町内会の面接調査を実施しました。以下はその概要です。詳細はCeMIのウェブサイトをご覧ください。
 大雨警報は90.0%の人が入手していたそうですが、その入手先はテレビが88.2%、ネットのニュースサイトが71.2%で、2018年西日本豪雨災害よりも能動的に情報を入手していると評価されています。また、気象庁等の記者会見だけでなく今回は鹿児島市長の緊急記者会見も行われましたが、こうした緊急記者会見やこの時使用した「8・6水害に匹敵する」という言葉が危機感醸成に役立ったようです。
 避難率0.6%と大きく報道されましたが、このアンケートでは、指定避難所に避難1.4%、親戚等安全な場所への避難7.8%、自宅内安全個所への水平避難18.2%で、何らかの避難行動を採った人は27.4%に上ったとのことです。実質的な避難行動を取った人はメディアの報道よりは多かったようです。
西日本豪雨広島市アンケート
避難の決め手割合(%)
身の危険感じて24.2
家族に勧められて10.0
近所の人や消防団員9.5
避難指示発令6.3
インターネット情報4.7
大雨特別警報発表3.2
避難勧告発令2.1
近隣者の避難開始1.1
土砂災害警戒情報発表1.1
避難準備高齢者避難開始0.5
その他7.9
無回答27.4
 さて、その避難のきっかけとなったことは、避難指示発令55.5%、警戒レベルが4になった51.8%、雨の降り方が激しかった40.9%となっています。参考までに西日本豪雨災害後広島市が実施したアンケート(郵送調査)の表を挙げておきます(広島市,2018)。身の危険を感じるような雨の降り方だったとか、家族や消防団員に避難を勧められてといった項目が上位で、ネット情報や行政の指示は下位に来ています。今回のCeMI調査とかなり趣が異なります。鹿児島も広島も土砂災害常襲地帯で、過去幾度も被災の経験があります。都市型災害であったことも同じです。上述の90%が大雨情報を入手していた結果と合わせて考えると、CeMI調査がネット調査だったので、もともとネットリテラシーの高い人が対象だったため、このような結果になったような気もします。避難スイッチが入るのは、理屈や情報ではなく、生き物としての本能に基づく判断が決定的に利くのではないでしょうか。ネット情報やテレビ情報は、あくまでも補助的に過ぎないと考えて減災対策を考えたほうが良いように思います。突っ込んださらなる分析が期待されます。

文献:
  1. CeMI環境・防災研究所(2019), 令和元年6月28日から7月4日にかけての 豪雨に関する鹿児島市民の 防災意識・行動調査 報告書(速報). 53pp.
  2. 日野宗門(2019), 地域防災実戦ノウハウ(99)―西日本豪雨:避難情報等の認識情報と避難行動の決定要因―. 消防防災の科学, No.136, p.65-69.
  3. 鹿児島地方気象台(2019), 災害時気象資料―令和元年6月28日から7月4日にかけての鹿児島県の大雨について―.
  4. 南日本新聞 検証 鹿児島2019大雨(2019/08/04-08/08)
  5. (), . , Vol., No., p..
  6. (), . , Vol., No., p..
  7. (), . , Vol., No., p..

参考サイト:


初出日:2019/07/10
更新日:2019/12/15