1977年竜ヶ水災害

 災害の概況

竜ヶ水地区崩壊地(小林ほか,1977)竜ヶ水地区地質断面図(小林ほか,1977)
1977年6月鹿児島日雨量(気象庁)
 1977年6月24日午前10時48分、日豊線竜ヶ水駅付近の高さ300mの裏山が、幅約50m高さ約100mにわたって頂上付近から崩壊、3~5tonの巨大岩塊も含む約3万m3の土砂が土石流となって激しい勢いで流出し、山麓の民家13棟を押しつぶしました。そのため、9名の犠牲者を出すと共に、国鉄(当時)も不通になりました。当日の日雨量は33.5mmで、それほどの大雨ではありませんでしたが、10日ほど前の15~17日には北上してきた梅雨前線によって200mmを超す大雨が降っていました(当時の気象台は荒田1丁目にありました)。報道によれば、この付近はがけくずれのないところで住民は安心しきっていたとのことですが、地形図には明瞭な崩壊地形が各所に認められます。地質的に言えば、カルデラ壁の崩壊過程(浸食カルデラの形成過程)の一コマです。なお、崖の上吉野台地の縁には県道が走っており、その県道から水が供給されたため、崖崩れが発生したとの裁判がその後起こされましたが、敗訴になりました(采女,2005)。

 姶良カルデラ壁の水理地質と崩壊のメカニズム

竜ヶ水急崖の水理地質構造(横田・岩松,1988)
竜ヶ水谷における地下水観測
 吉野台地は姶良カルデラの南西に位置し、稲荷川方面に傾斜しています。地質も、断面図に示すように、全体として受け盤構造をなしています。一方、最上位の吉野溶結凝灰岩は、柱状節理が発達し、良好な水がめの役割を果たします。したがって、その直下の花倉層から、渇水期でも小規模な湧水が常に認められます。崩壊後の現地調査では、その位置にパイピング孔が認められました。規模が大きかったので、春山・下川(1978)はケービングと称しました。一般の表層崩壊は、崖肩部の遷急線付近から表土が薄く崩れますが、この崩壊は、地下水位に起因して下位からいわば足もとをすくわれるように吉野溶結凝灰岩もろとも大規模に崩壊したのです。最近の流行り言葉で言えば深層崩壊です。これを模式的に描いたのが右図です。普段吉野台地に降った雨は地層に沿って稲荷川のほうに流れます。大雨が続くと吐けきれなくなって、カルデラ壁側にオーバーフローして、パイピング(ケービング)を起こし、崩壊を引き起こします。当日の雨がさほどでもなかったのに崩壊したのは、10日前の大雨で地下水が増加し、タイムラグをもって、崖側のパイピングに影響を与えたのです。したがって、地下水位を常時観測していれば、崩壊の予測が可能ではないかと考え、吉野台地の崖縁にボーリングを行いました(横田・岩松,1988)。タイムラグに規則性があれば、雨量からだけでも予測が出来ます。鹿児島県に長期観測を引き継いだのですが、幸か不幸か温暖化に伴って梅雨末期の豪雨前線が北上して北部九州方面に停滞するようになり、鹿児島では大規模な災害が起きなくなりましたので、観測は中止になったようです。

文献:
  1. 春山元寿・下川悦郎(1977), 鹿児島市竜ヶ水・上ノ原地区山地崩壊災害調査及び防災対策に関する報告. 鹿児島県林務部治山課, 26pp.
  2. 春山元寿・下川悦郎(1978), 鹿児島市吉野町竜ケ水地区の山地崩壊・土石流災害について. 新砂防, Vol.107, No.4, p.33-38.
  3. 木場彬仁・地頭薗隆・角之上真由・宮本祐成・西村富美佳・水流竜馬・清﨑淳子(2018), 姶良カルデラ壁における渓流水・湧水を活用した崩壊予測. 平成30年度砂防学会研究発表会概要集, p.601-602.
  4. 小林哲夫・岩松 暉・露木利貞(1977), 姶良カルデラ壁の火山地質と山くずれ災害. 鹿児島大学理学部紀要(地学・生物学), Vol.10, p.53-73.
  5. 佐伯和人・武田大典・下川悦郎(2008), . 第4回土砂災害に関するシンポジウム論文集, p..
  6. 采女博文(2005), 自然災害と自治体の責任(2). 奄美ニューズレター , Vol.22, No., p.11-17.
  7. 安江朝光・青木義光・桜井 孝(1977), 鹿児島市竜ヶ水の土砂災害. 地すべり, Vol.14, No.3, p.22-25.
  8. 横田修一郎・岩松 暉(1998), ボーリング調査に基づく鹿児島湾竜ヶ水急崖の地質構造. 応用地質, Vol.39, No.2, p.193-201.
  9. (), . , Vol., No., p..
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初出日:2016/06/25
更新日:2020/07/15