カルデラの形成モデル

久野 久(1954)
Williams(1941)Smith & Bailey(1968)
 成層火山が大噴火を起こして、マグマ溜まりが空洞になり、その後陥没、最後に中央火口丘が生まれる、というのが昔のカルデラ火山のイメージでした。一番有名なのがWilliams(1941)の陥没カルデラの形成モデルです。これはアメリカのCrater Lake Calderaの成因を論じた論文で、多量のマグマが噴出した結果生じたマグマ溜まりの空洞部分へ、火山体が崩壊して陥没するという概念です。わが国でも、たとえば久野久の名著『火山及び火山岩』の初版(1954)には右図のような箱根火山の断面図が描かれています。巨大な成層火山の中央に第1回目のカルデラ陥没が起き、古期外輪山が形成され、さらにその中に形成された楯状火山の中央に第2回目の陥没が発生して新期外輪山が生じたとしています。この考えは第2版(1976)では改められています。
 その後、Smith & Bailey(1968)はValles Calderaを研究して、火山体の崩壊ではなくピストンシリンダーのように筒状のまま沈降するモデルを提唱しました。バイアス型カルデラと呼ばれます。日本にもたくさんあります。
Bachmann & Bergantz(2008)
 21世紀に入り、マグマ溜まりの深部構造について詳細なモデルが提唱されました。右図はカリフォルニアのLong Valley Calderaの模式断面図(Bachmann and Bergantz, 2008)です。Long Valley Calderaは76万年前に650m3のマグマを噴出しました。地下5km以深に直径約30km、厚さ約10kmのお饅頭状のマグマ溜まりが想定されています。この図でGranitoidは花崗質岩類、Crystal mushはマグマ中に結晶が50%以上お粥状に混じっているもの、Eruptible magmaは結晶が50%以下で、何時でも噴火できる状態のものです。このモデルだと、桜島のように後カルデラ火山がカルデラの縁に誕生するのは普通のことになります。
陥没カルデラの構造とそのバリエーション(下司,2018)
 わが国でも、原子力発電所の安全基準にカルデラ噴火のような低頻度大規模噴火を考慮することが求められるようになり、カルデラ研究も進み始めました。地学雑誌は、2018年第2号で、「カルデラ噴火研究の現状と今後の課題」という特集号を組んでいます。その総説で下司(2018)は、次のように述べています。
 「陥没カルデラ」の基本構造は
  1. マグマ溜まりからのマグマの流出によって発生したマグマ溜まりの減圧が、
  2. マグマ溜まりの天井を構成する岩石に応力集中と破壊を生じ、
  3. 破壊されたマグマ溜まり天井が断層に囲まれたブロックとなり、
  4. マグマ溜まりの空間に重力的に落ち込み空間の一部あるいは全部を置換することによって
形成されるものである(図A)。
 また、Lipman(1997)を引用して、図Bのようなさまざまなバリエーションのカルデラを紹介しています。ただ、これはあくまでも形態による分類であって、マグマの組成や噴火様式、噴火のメカニズムといった種々の要素を考慮していません。実際にはもっと複雑なのでしょう。
文献:
  1. Bachmann, O. & Bergantz, G. (2008), The Magma Reservoirs That Feed Supereruptions. Elements, Vol.4, p.17-21.
  2. Bachmann, O. & Bergantz, G. (2004), On the Origin of Crystal-poor Rhyolites: Extracted from Batholithic Crystal Mushes. Jour. Petrol., Vol. 45, No. 8, p.1565-1582.
  3. 下司信夫(2018), 陥没カルデラの構造とその形成メカニズム. 地学雑誌, Vol. 127, No. 2, p. 175-189.
  4. 小林哲夫(2014),九州の火山:カルデラ火山の壮大な景色とストーリー. 日本火山学会第21回公開講座, p.1-23.
  5. 久野 久(1954),火山及び火山岩. 岩波全書, 255pp.
  6. Lipman, P. W.(1997), Subsidence of ash-flow calderas: relation to caldera size and magma-chamber geometry. Bull. Volcanology, Vol.59, No.3, p.198-218.
  7. Smith, R.J. and Bailey, R.A. (1968) , Resurgent cauldrons. Geol. Soc. Amer. Mem., 116, p.613-662.
  8. 巽 好幸(2016), 科学通信 巨大カルデラ噴火の予測を目指して : 火山大国に生きていくために. 科学, Vol.86, No.5, p.411-413.
  9. Williams, H. (1941) Calderas and their origin. Univ. Calif., Barkley Publ. Geol. Sci., 25, 239-346.



初出日:2014/12/17
更新日:2018/11/04