2000年3月24日、鹿児島大学理学部地学科最後の卒業生を送り出しましたので、このホームページはこの日をもってフリーズしました。もう更新しません。悪しからず。
 なお、「かだいおうち」は日本における大学研究室ホームページの第1号です。歴史的遺産としてここにアーカイブしておきます。

1997年鹿児島県北西部地震(速報)

岩松 暉


(『西部地区自然災害資料センターニュース』N0.17, 1997, 印刷中)


はじめに|地震概要|アンケート震度|被害概況|構造物の損壊|斜面崩壊・落石・道路の亀裂|液状化|ライフライン災害とPTSD|研究体制

1. はじめに

 鹿児島県は土砂災害や火山災害は多いものの地震はないと思われてきた。実際、地震 保険の保険料は一番安い一等地だし、建築基準法でも耐震基準が一番緩やかである。ところが去る1997年3月26日夕刻、鹿児島県北西部は突然の地震に見舞われた。まさに天災は忘れた頃にやってくる。しかし、実は北薩地方ではM6前後の地震なら結構起きていたのである。1961年吉松地震(M5.5)・1968年えびの地震(M6.1)・1994年鹿児島県北部地震(大口地震)(M5.7)が挙げられる。

2. 地震概要

図1 余震分布(○:3/26, □:5/13:鹿大観測所提供)
 3月26日17時31分紫尾山付近の北緯32.0度東経130.3度、深さ5~6kmを震源とするM6.2の地震が発生し、宮之城町・川内市阿久根市で震度5強を記録した。発震機構はほぼ東西の左横ずれ断層であった。当初は4月3日4時33分に発生したM5.5の強い余震を筆頭とする余震が頻繁に発生していたが、その後は順調に減衰し安心していた矢先の5月13日14時38分、前回よりやや南を震源とするM6.3の地震が再び発生した。やはり東西性左横ずれ断層であった。しかし、余震の分布は若干異常で、東西方向ばかりでなく、それとは共役の方向の分布も認められた(図1)。この時の震度は川内市で6弱、宮之城町で5強であった。

3. アンケート震度

図2 アンケート震度(3月26日)(井村・他原図)
 詳細な震度と地盤条件の関係を調べるためにアンケートを行った。小学校に依頼して父兄に回答していただいた。3月26日の結果を図2に示す。余震域直上で震度5以上のところが目立つのは当然であるが、川内川沿いの宮之城・鶴田地区および川内市にも震度の高いところが認められる。やはり沖積層が厚いのであろう。

4.被害概況

 これら一連の地震の結果、家屋の倒壊、橋梁・堤防等構造物の損壊、斜面崩壊、落石、液状化、道路の亀裂などの被害が発生した。幸い人的被害は少なく、余震も含めた一連の地震で重傷3名、軽傷77名で済んだ。被害総額は140億円以上と見積もられている。

5.構造物の損壊

図3 宮之城高校の校舎被害
 構造物、とくに家屋の被害は余震域の宮之城町・鶴田町に集中している。宮之城高校や鶴田小学校では鉄筋コンクリートの柱が座屈破壊したのは有名である(図3)。その他、ブロック塀の倒壊や道路擁壁の倒壊、農業用水路の被害、橋梁橋脚の損壊、河川堤防の地割れなどがあった。

6.斜面崩壊・落石・道路の亀裂

図4 マサ土の表層崩壊
 山崩れ・崖崩れは随所で発生した。震源地付近に紫尾山花崗岩体が分布していたため、マサ土の表層崩壊が目立った(図4)。もちろん、四万十層群の分布面積が一番広いから、数としては四万十層群の表層崩壊が圧倒的に多いが。落石も多数発生した。安山岩や溶結凝灰岩のように節理の発達した岩石や球状風化の進んだ花崗岩のコアストーンなどでは、径数mに達する巨大岩塊もあった(図5)。直撃された車が一台もなかったのはまさに僥倖に近いまた、主として道路の盛土部分に亀裂が多数発生した。
図5 溶結凝灰岩巨大岩塊の落石
 こうした崖崩れ・落石・亀裂などにより長期にわたる交通止めを余儀なくされ、一時孤立状態になった集落もあった。

7.液状化

図6 阿久根新港における液状化
 阿久根新港や川内市あるいは米ノ津港など埋立地や沖積低地では、液状化やそれに伴う側方流動が発生した(図6)。

8.ライフライン災害とPTSD

 交通途絶だけでなく、水道の断水や停電などライフラインも被害を受け、生活に支障を来した。また、冒頭述べたように地震がないと信じられていただけに住民のショックも大きかった。度重なる余震と三度の震度5を超す激震に見舞われ、不安のため長期間畑のビニ ールハウスで暮らすお年寄りもあった。阪神大震災の経験に鑑み、大学と行政では早くから心のケアに取り組んだ。

9.研究体制

 地元鹿児島大学では学内特別経費で、理・工・農・教育・法文学部からなる震災調査団を結成し、現在総合的研究に取り組んでいる。また、住民向け講演会も予定している。
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更新日:1997年9月1日