
南九州の浅発地震列
九州南部地域にはE-WまたはWNW-ESE走向の浅発地震列が見られます。1989年6月~1993年12月のデータをプロットしたものです。今回の地震もこうしたテクトニク場で発生しました。
なお、気象研究所地震火山研究部石川有三さん提供のSEIS-PC for Windows95による震源地周辺の1900年以降の震央データはここをクリックすればご覧になれます。石川さんに感謝します。
発震機構
角田先生が決定した地震のメカニズム解です。左図が今回の地震(1997年3月26日17時31分)で、右図は1994年2月13日2時6分にあった鹿児島県北部地震(大口地震)です。いずれも東西性の左横ずれ断層が動いたことを示しています。
余震分布
過去に北薩地域であった地震の震央分布に、今回の余震域を重ね合わせたものです。東西に長く延びた地震列が今回の地震で、その北が1994年鹿児島県北部地震(M5.7)です。東方の大きな円は1968年えびの地震(M6.1)と1961年吉松地震(M5.5)の本震の位置です。
地震の発生パターン
1日当たりの地震回数です。余震が急速に少なくなっています。典型的な本震―余震型を示しています。
主な余震
下表は主な有感地震のリストです。東大地震研究所の大学院生が科学技術庁の強震ネット(K-NET)のデータを自動処理してインターネットに載せてくれたものです。ボランティアでやってくれているもので、地震研究所の公式発表ではありません。各余震の震度のところをクリックすると、図面と詳細なデータが見られます。
| 月日 | 時刻 | M | |
| 3/26 | 17:31 | 6.2 | 6弱(阿久根,宮之城),5強(川内),5弱(横川,大口,国分,水俣,蒲生,日吉) |
| 3/26 | 17:39 | 5.3 | 4(大口,川内,宮之城),3(阿久根,出水,日吉,水俣,横川,上甑,喜入) |
| 3/26 | 18:05 | 4.7 | 4(宮之城),3(川内,大口,阿久根,日吉,横川,水俣) |
| 3/26 | 18:30 | 4.1 | 3(宮之城,川内) |
| 3/26 | 19:45 | 3.7 | 3(宮之城) |
| 3/26 | 21:15 | 4.4 | 3(上甑) |
| 3/26 | 22:24 | 4.5 | 4(宮之城),3(水俣,大口,出水,上甑,蒲生,阿久根,横川) |
| 3/27 | 05:19 | 4.1 | 3(宮之城) |
| 3/27 | 21:26 | 3.8 | 2(阿久根,宮之城,出水) |
| 3/28 | 02:51 | 4.2 | 3(宮之城) |
| 3/29 | 22:13 | 3.9 | 2(宮之城,阿久根,出水,大口) |
| 4/01 | 02:14 | 3.7 | 3(宮之城) |
| 4/03 | 04:33 | 5.5 | 5強(川内),4(阿久根,串木野,水俣,日吉,横川,国分,東,蒲生) |
| 4/04 | 02:33 | 4.7 | 4(大口),3(阿久根,出水,川内) |
| 4/05 | 13:24 | 4.9 | 4(川内,阿久根,大口,水俣) |
| 4/06 | 04:42 | 3.8 | 2(阿久根,川内,出水) |
| 4/08 | 17:21 | 3.9 | 2(大口,水俣) |
| 4/09 | 23:20 | 4.7 | 5弱(宮之城),4(大口,水俣,横川,阿久根) |
| 4/09 | 23:23 | 4.7 | 4(大口),3(宮之城,川内,横川,蒲生) |
| 4/20 | 12:34 | 4.7 | 3(宮之城),2(川内,大口) |
| 4/21 | 00:16 | 4.7 | 2(阿久根,宮之城,出水,川内) |
| 4/25 | 00:50 | 3.6 | 3(宮之城),2(川内,大口,日吉) |
5月13日14時38分北薩地域で強い地震がありました。左図はアメリカ地質調査所(USGS)によるメカニズム解の速報です。地震調査委員会の見解(5月14日開催)
1997年5月13日の鹿児島県北西部の地震について
5月13日14時38分に鹿児島県北西部でM6.2の被害地震があり、川内市で震度6弱、宮之城町で5強を観測した。この地震は、3月26日の鹿児島県北西部の地震(M6.3)の震央から南西約5kmのところで発生した。この地震の深さは8kmであり、陸域の浅い地震である。
余震活動の主体は本震の震央から東方向に長さ約10kmにわたって分布している。この他に震央から南方向に長さ約10kmにわたって余震が分布している。余震は14日15時までに80回(内有感地震41回)である。現在までのところ、最大の余震は、14日08時32分のM4.7(暫定)であり、東西方向の余震域内の東端付近で発生した。
今回の地震は、3月26日の地震と時間・空間的に近接して発生していること、3月の地震と同程度の規模であるが、今回の余震活動が3月と比べてやや不活発であることが特徴である。これらから、今回の地震と3月の地震は関連すると考えられ、3月の地震による応力の変化などにより今回の地震が引き起こされた可能性があるが、その発生要因についての詳細は不明である。余震活動は3月の地震と同じく次第に収まっていくと考えられるものの、今後しばらくはやや大きな余震が発生する可能性がある。なお、この地域で約1ヶ月をおいて被害地震が起こった例には、1968年のえびの地震(M6.1)の1例がある。(5/15朝)
左図は本学理学部南西島弧地震火山観測所による余震の分布です。○が3月26日以来の第1北西部地震で、□が今回の第2北西部地震です。第1地震に比べて、若干南にずれてL字型に分布していることがわかります。
| 月日 | 時刻 | M | |
| 5/13 | 14:38 | 6.1 | 5強(川内,出水,串木野),5弱(阿久根,日吉,水俣,国分,大口) |
| 5/14 | 08:32 | 4.7 | 4(宮之城),3(国分,阿久根,横川,大口,串木野,蒲生,出水,都城) |
| 5/14 | 17:15 | 3.8 | 3(宮之城),2(川内,阿久根,大口,蒲生) |
| 5/18 | 17:49 | 3.5 | 2(宮之城,川内) |
| 5/25 | 06:11 | 4.4 | 4(宮之城,川内),3(出水,阿久根) |
| 6/27 | 14:12 | 4.1 | 3(宮之城),2(大口,川内,蒲生,喜入,上甑,串木野,横川,出水) |
| 7/26 | 18:36 | 4.3 | 4(宮之城),3(水俣,大口) |
北薩地方の地質は簡単に次のようにまとめられます。一番古い岩石は、川内川河口に局部的に分布している川内“古生層”です。主として粘板岩からなりますが、砂岩・礫岩等も含みます。原発はこの礫岩の上に立地しています。化石が未発見のため、古生層との直接の証拠はありませんが、秩父“古生層”の岩石に酷似しているので、従来から“古生層”と呼ばれていました。
理学部地球環境科学科の井村隆介先生を中心とする地質グループでは、小学校を通じてアンケートを実施し、詳細なアンケート震度を求めました。得られた震度と地盤の地質条件との関連を研究するのが目的です。地元の皆さんのご協力に感謝いたします。
まだ続いている余震、経済的打撃による生活不安など、たとえ怪我はなくとも被災者の方々は不安な毎日を送っておられます。放置するとPTSD(心的外傷後ストレス症候群)になる恐れがあります。教育学部治療心理学研究室の久留一郎先生のグループでは、単に実態調査を実施するだけでなく、『被災者の心のケアのガイドライン』というパンフレット(左図)をこの研究費で印刷して配布すると同時に、被災者の相談にものるそうです。
鹿児島にはシラス台地の山を崩し谷を埋めて団地を造成したところがたくさんあります(写真は武岡ハイランド)。岩松(1976)は鹿児島市紫原団地の彦四郎谷を調査して、こうした谷埋め造成地では、切り盛りの境界に亀裂が入っていることを指摘し、乱したシラスは地震時に液状化しやすいそうだから、地震時要注意であると警告しました。それから2年後の1978年、宮城県沖地震で白石市緑ヶ丘団地(右図:東北大地質学古生物学教室,1979)の谷埋め造成地が地すべりを起こし、このような造成方法が問題視されるようになりました。
しかし、ここの地質はシラスではありません。ところが今回、シラス谷埋め造成地で液状化災害が発生してしまいました。入来町副田愛宕地区です(左図:入来町役場提供)。数ヶ所で液状化が発生、道路が陥没しています。残念ながら警告が的中したことになります。ここは20年以上前に民間業者によって造成されたのだそうですが、1993年6月23日にも梅雨前線豪雨により地すべりが発生したところです。木下紀正・前田利久/教育学部・磯貝浩一/資源・環境観測解析センター調査研究部
山岳地帯の地形をみるため、太陽高度の低い1989年1月5日のLANDSAT-5/TMデータを選び、北薩の地震被害地域の画像を作成しました(10時7分:太陽の仰角28゜,方位角147゜)。衛星データ提供:資源・環境観測解析センター
TM-4の近赤外画像で、植生に覆われた地域は陰影から土地の起伏が読み取れる。川内川(S.R.)が鶴田ダムを通って屈曲し河口に到っている。原データを回転・平滑化処理して1/3に縮小。画像の左上は観測シーンの限界。
TM-3,5,7をカラーB,G,Rで表示した画像で、左右は1/50000地形図「宮之城」(130゜15'E-130゜30'E)と大体一致し、上下はこの地形図より狭く、南方を大幅にカットしたもの。画像の上部中央の紫尾山の山脈を遮るように泊野の谷が横切っている。南北を地形図に合わせるため、原データを線形補完により回転処理した等倍画像。
鹿大震災調査団の地質グループと鹿児島県地質調査業協会では協力して、5万分の1地質図に家屋損壊・斜面崩壊・落石・液状化などの被災個所をプロットした「1997年鹿児島県北西部地震震災地質図」を刊行しました。左図は宮之城町泊野地区の部分です。地震グループの余震観測結果と地質グループのアンケート震度も収録されています。頒価3,500円です。下記で取り扱っています。
人的被害
| 区分 | 3/26 | 4/3 | 計 |
| 重傷 | 1人 | 1人 | 2人 |
| 軽傷 | 30人 | 4人 | 34人 |
| 計 | 31人 | 5人 | 36人 |
建物被害
| 区分 | 住家被害 | 非住家被害 |
| 全壊 | 4棟 | 7棟 |
| 半壊 | 33棟 | 1棟 |
| 一部破損 | 2,184棟 | 227棟 |
| 計 | 2,421棟 | 258棟 |
被害額(単位:千円)
| 区分 | 金額 | 区分 | 金額 |
| 環境生活 | 640 | 保健福祉 | 203,299 |
| 商工労働 | 398,693 | 農業 | 1,068,286 |
| 林務水産 | 2,095,060 | 土木 | 4,053,451 |
| 庁舎 | 8,046 | 教育 | 1,012,733 |
人的被害
| 重傷 | 軽傷 | 計 |
| 1人 | 42人 | 43人 |
建物被害
| 区分 | 住家被害 | 非住家被害 |
| 全壊 | 4棟 | 11棟 |
| 半壊 | 29棟 | 23棟 |
| 一部破損 | 4,944棟 | 674棟 |
| 計 | 4,977棟 | 708棟 |
被害額(単位:千円)
| 区分 | 金額 | 区分 | 金額 |
| 環境生活 | 33,740 | 保健福祉 | 88,667 |
| 商工労働 | 994,224 | 農政 | 1,390,674 |
| 林務水産 | 737,411 | 土木 | 3,979,868 |
| 庁舎 | 12,013 | 学校 | 7,139,619 |
研究の途中経過でも広く世の中に知らせたほうがよい事項がありましたら、下記宛メールをください。直ちに掲載いたします。