『地すべり学入門』

岩松 暉


第9章 地すべりの予知予測

1.時間的予知と空間的予知

 一般的に言って、災害の予知予測には空間的予知と時間的予知がある。前者は「どこが危ないか」を予測することであり、後者は「いつ危ないか」を予知することである。
 地すべりの場合、空間的予知は比較的簡単である。前述したように、多くは化石地すべりの再活動だから、地形判読により地すべり地分布図を作成すればよい。多くの自治体で地すべり指定地分布図程度なら既に作成されている。しかし、化石地すべり全部を危険と見なすようでは狼少年のそしりを免れない。やはり危険度のランク付けが必要になる。
 危険度の高い場所については地元に地すべりモニターを置くなどして、変動徴候の発見に努めなければならない。冠頂部に新たな亀裂が見出された時は危険である。いつ発生するかの時間的予知には伸縮計やひずみ計を設置して観測を続け、避難命令など適切な警報を出す必要がある。この場合、機器観測データから自動的にサイレンを鳴らすよりも、専門家の判定を経てから警報を出すシステムのほうがよい。猪が伸縮計に触ってサイレンが鳴ったケースもある。

2.クリープ破壊理論による崩壊予測

 いつ破壊的な地すべりが発生するかを予知することは重要である。斉藤迪孝は,定常クリープのひずみ速度と破壊時間との間に左図のような関係を見出した(Saito,1965)。機器観測により定常ひずみ速度が分かれば、第3次クリープ段階に入ってからの破壊時間が予測できる。
 また、斉藤は第3次クリープ領域で、ひずみ速度と崩壊までの余裕時間に逆比例関係があることを見出した。
tr:破壊時間、C:定数
 未知数が3個だから、クリープ曲線上の3点の座標値から破壊時間trが求められる。左図の図式解法が簡便である。なお、計算式は次式で与えられる。


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更新日:1997年1月1日