『地すべり学入門』

岩松 暉


第4章 地すべり地形と地すべりの形態

1.地すべり地各部の名称

 地すべり地各部について、それぞれ名称が付けられている。一番有名なVernes(1978)のものを紹介しよう。
①冠頂
滑落崖の上部の原地盤の部分。滑落崖に平行な数条の引張亀裂が見られることがある。
②滑落崖
地すべり地の最上部に現れる比較的急峻な崖面。馬蹄型をなすことが多く、条痕が付いていることもある。 ③頭部
移動層の滑落崖に沿った部分。多くの場合窪地になっており、池や沼あるいは湿地帯が見られる。
④すべり面
移動層と原地盤との境界。ベントナイトなど粘土層を伴うことが多い。
⑤脚
すべり面下端と原地盤との交線。普通は崩土に覆われていて見られない。
⑥舌部
脚より下方の移動層。先端隆起
⑦舌端部
先端

2.地すべりの諸形態

◎地形図上での判読

馬蹄型滑落崖
等高線不整
谷型斜面の先が凸型になる
山腹に台地状地形
河川の屈曲
押し出しによる

◎地すべりタイプと地形

地すべりの傾斜
新潟…11゜~20゜
長野…16゜~25゜
徳島…25゜~30゜
起伏量
新潟…200m~300m
徳島…300m~600m
 新潟・長野は第三紀層地すべりで徳島はいわゆる破砕帯地すべりである。このような明瞭な地形の相異は岩質の差を反映している。前者は新第三系泥岩などの軟岩からなる緩やかな丘陵地帯であるのに対し、後者は硬い三波川結晶片岩からなる急峻な山岳地帯だからである。

◎地すべりと棚田

 地すべり地は山間部では平坦地が得られる稀なところなため、棚田や桑畑として利用されることが多い。地すべり地は水が豊富で、地すべりによって天然に深耕が行われるから水田には適しているのだろう。新潟のこしひかりのような米は大規模耕作の行われている平野ではなく、このような山間部の棚田で生産されているものが一番うまい。
 図は新潟県刈羽郡の山中背斜である。単に地形図上で水田を着色しただけである。背斜軸が曲がっているのまで忠実に反映している。このように地形図で地類を塗色すると,地すべり地の分布やひいては褶曲軸や断層の位置が分かることもある。関東山地の鶴川断層では桑畑の分布が見事に断層線を示している。

◎地すべりの地形発達史的分類

 渡(1975)は地すべりをDAVISの地形発達史になぞらえて、次のように分類した。
岩盤すべり(幼年型)
一次すべり、予測困難
風化岩すべり(青年型)
岩盤型の再活動
結晶片岩地帯に多い
崩積土地すべり(壮年型)
もっとも一般的、ブロック化
第三紀層地すべりに多い
粘質土地すべり(老年型)
クリープ型の動き


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更新日:1997年1月1日