『地すべり学入門』

岩松 暉


はじめに

 わが国は、太平洋プレートがアジアプレートに対してもぐり込む沈み込み帯に位置している若い変動帯である。雲仙普賢岳の噴火や兵庫県南部地震など活発な地震火山活動が見られるのは、現在もこの運動が続いている証拠といえよう。
 地震火山活動だけでなく、地質現象にも若い変動帯の証拠がたくさん見られる。隆起沈降など活発な構造運動があったため、急峻な地形が多い。脊梁山岳地帯は第四紀以降2,000mも隆起したと言われている。明治初期のお雇い外国人デレーケが常願寺川を見て、「これは川ではない。滝だ。」と言ったとか。また同時に、新しい堆積盆地も形成されたから、固結の不十分ないわゆる軟岩も広く分布する。軟弱な岩石が急峻な地形をなしていることは、地すべりなどマスムーブメントを起こしやすい素因が存在することを示している。
 さらに、日本列島は北西太平洋季節風帯(モンスーン帯)にも位置しているから、梅雨前線が停滞しやすく、台風の常襲地帯でもある。冬季には大陸からの季節風が豪雪をもたらす。マスムーブメントの誘因もまた多い。
 その結果、毎年のように土砂災害が発生している。自然災害犠牲者のうち半数ががけ崩れ・地すべり・土石流などの斜面災害によっている。地すべりは運動速度が比較的緩慢なため犠牲者数は少ないが、規模が大きく物的損失が大きい。従来は山村地帯で起きるためあまりマスコミ等で報道されることは少なかったが、都会の団地でもしばしば発生するようになり、問題視されるようになってきた。近年の都市の肥大化に伴う宅地の丘陵地帯への進出が原因である。1985年7月26日に発生した長野市地附山の地すべり(写真)が典型といえよう。地すべりは麓に造成された新興の湯谷団地を襲い、老人ホーム松寿園のお年寄りが犠牲となった。
 また、近年高速道路網も横断道の時代になってきた。縦貫線のうちは海岸平野を走っていたから、主として地盤沈下や液状化のことが問題になっていた。しかし、横断道ではどうしても山岳地帯を走らなければならない。切土に伴う地すべりが問題となっている。

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更新日:1997年1月1日