2000年3月24日、鹿児島大学理学部地学科最後の卒業生を送り出しましたので、このホームページはこの日をもってフリーズしました。もう更新しません。悪しからず。
 なお、「かだいおうち」は日本における大学研究室ホームページの第1号です。歴史的遺産としてここにアーカイブしておきます。

水文地質学


水文地質学|シラス台地と水|シラスの浸透特性|地下水の塩水化|薩摩焼酎の地質学的研究(付 焼酎マップ)

◆水文地質学

 地質学は地球、しかもとくに岩石を研究対象としてきました。地表の7割も水が覆っているのに、それを無視してきたのです。第二次世界大戦後、海外領土を失ったため、狭い国土で多くの人口を養わなければならなくなり、食糧増産のかけ声の下,大々的に開墾が行われました。灌漑事業を進める中で、当時の農林省の若手地質技師たちが水文地質学を創造していったのです。それまでの地質学、とくに大学での地質学では水の問題なぞ地質学の研究対象ではないと軽視されてきました。学問は生きた現実社会と切りむすぶ中で発展するという実例を、ここでも見て取ることができます。

◆シラス台地と水

 シラスは火砕流堆積物ですから、火山灰や軽石が雑多に混ざり合っていて、極めて透水性が良いのが特徴です。したがって、シラス台地では,不透水性基盤が地下深くにあるため、地下水面が深く、乏水地帯として開発が遅れていました。江戸時代には80mもの深井戸が掘られ、牛馬に釣瓶を引かせたそうです(写真はその様子です)。それ以上深いと手掘りで井戸を掘れませんから、馬に乗って台地下まで水汲みに行くのが日課でした。薩摩隼人に「山坂達者」の精神が強調され、つらい水汲み仕事にも黙々と耐える薩摩おごじょが生まれたのもこうした事情が背景にあるのでしょう。

 シラス台地と一口に言っても、シラスだけからなるもの(単一層型)、下部に溶結部をもつもの(同)、何枚も火砕流が積み重なったもの(複合層型)と、いろいろあります。非溶結層の最下部や火砕流が流れる前の旧地形に堆積した砂礫層中に湧水があり、人々はそれを利用してきました。集落もそうした水の得やすいところに立地しています。今でも台地の麓に横穴を掘り、その湧き水を飲料水に使っているところもあります。どんな干ばつでも涸れず、冷たい良い水が得られるそうです。シラス台地自体が巨大な水瓶になっているのです。鹿児島の川が小さいくせに夏でも水が流れているのもそのためでしょう。

◆シラスの浸透特性

 そこでシラス台地における降雨の浸透状況を調べるために、本講座では電気探査により比抵抗値の変化を調べています。上図はもう卒業された和田卓也さん[現(株)建設技術研究所]の修論です(和田・他,1995)。晴天が続いて乾燥状態の時には、表層の火山灰質土壌に滞留して、地下に浸透しませんが(a)、先行降雨があってある程度表層部分が湿っていると、急速な浸透が起こります(c)。台地の畑に撒かれた肥料成分が地下水まで到達したかどうか、水質検査で詳しく調べると、地下約60mの地下水位まで12時間で到達することがわかりました。
 シラスがけにおける浸透状況は修士2年福田徹也くんのページをご覧ください。

◆地下水の塩水化

 沿岸都市地域では、どこでも多かれ少なかれ、地下水の汲み上げすぎに起因して、地下水が塩水化しています。鹿児島も例外ではありません。左図のようにわずか5年間で塩水化した地域が大きく拡大しました。なお、点線は旧海岸線です。
 鹿児島大学は地下水を利用していますが、構内の井戸のうち海側(生協プレイガイド横)の井戸は味噌汁のように塩辛くなっています。やむなく数年前一番内陸側(農場脇)に新しく井戸を掘りました。この時、本講座が施設部の相談にのりました。

◆薩摩焼酎の地質学的研究

 ご存知の通り、鹿児島は焼酎王国です。サツマイモ(鹿児島ではカライモ[唐芋]と言います)の産地だったことと、シラス台地からの湧水が豊富にあったのが原因でしょう。シラス台地を通ってきた水はシリカ分に富んでいます。シラス地域を流れる河川水で平均60mg/l、深層地下水で70~80mg/lもあります。
 一方、沖縄の泡盛には、琉球石灰岩からの石灰質の水が使われています。灘の生一本が六甲花崗岩の清水に由来するのは有名です。このように各地の地酒と地質との関係を考察するのもまた応用地質学です(ちょっとこじつけかな)。要するに地質屋は調査で旅行することが多いので、うまい地酒を楽しむチャンスがしばしばあるというだけのことです。
 なお、後ほど鹿児島県焼酎マップを入手してきて紹介します。ただし、酒場で宣伝にくれるものですから、入手には軍資金が必要になります。しばらくお待ちください。

おまたせ! 焼酎マップをやっと入手しました。下の縮小版をクリックすると詳細マップがダウンロードできます(352KB)。全銘柄征服に挑戦してみましょう。

鹿児島県焼酎マップ(県酒造組合連合会)


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更新日:1997年3月31日