2000年3月24日、鹿児島大学理学部地学科最後の卒業生を送り出しましたので、このホームページはこの日をもってフリーズしました。もう更新しません。悪しからず。
 なお、「かだいおうち」は日本における大学研究室ホームページの第1号です。歴史的遺産としてここにアーカイブしておきます。

大規模崩壊


九州山地の大規模崩壊|地形的特徴|地質的特徴|発生過程|大規模崩壊の予知

◆九州山地の大規模崩壊

 九州山地にはしばしば大規模崩壊が発生します。ここでいう大規模崩壊とは、崩壊土量が数10万m3規模のもので通常の地すべりより大規模なものを言います。崩壊性地すべりとか地すべり性崩壊という別名があるように、地すべりのように緩慢にすべるのではなく、急速崩壊するため被害が大きいのが特徴です。
 左の写真は宮崎県南郷村松の内谷の写真です。1971年8月台風23号に伴う日雨量605mmに達する豪雨によって、約2.9haに及ぶ大きな崩壊が発生し、松の内川をせき止めました。さらに1977年8月の台風7号によって崩壊が山頂に向かって1.2ha拡大しました。以上の崩壊による土量は19万m3と推定されています。

◆大規模崩壊の地形的特徴

 これは宮崎県椎葉村大河内の写真です。一見して一番よくわかるのは、山腹にいわゆる「はらみ出し」地形が見られることでしょう。この部分には崖錐堆積物(崩壊土砂)が厚くたまっており、幹曲がり樹木も見られます。常時ずるずる滑っている(クリープしている)証拠です。植物の背地性という言葉を思い出してください。幼木の時地面のすべりによって傾いたため、真っ直ぐ上へ伸びようとして曲がったのです。
 また、山頂部を歩くとクラックや二重山稜(尾根)も観察されます。山腹がクリープしてずり落ちたため、頂部に引張の力が働いたことがわかります。さらに、下部には小規模な崩壊が見られます。山腹のはらみ出しに伴う末端崩壊です。これを単なる小さな山崩れだと見過ごすと大変です。この斜面はまだ大規模な崩壊を起こしていませんが、はらみ出し部分がせり出してきて耐えきれなくなると、いずれ一気に崩壊する恐れが強いと思います。

◆大規模崩壊の地質的特徴

 上記大河内の地質断面図です。チャートラミナイトとはチャート(珪岩)と頁岩がmm以下の細かな互層をした、スレートのようにペラペラ剥げやすい岩石です。片状砂岩も海底地すべり堆積物もやはり層理面に沿って剥げやすい性質があります。それらの岩石が斜面と反対の山側に傾斜しています。受け盤と言います。斜面と同じ方向に傾斜していた(流れ盤)なら、滑りやすいですからとっくに地すべりを起こしたのでしょうが、受け盤なのですべりには抵抗力があります。がんばってしまってクリープしたのでしょう。そして耐えきれなくなると、上述のように一気に大規模崩壊を起こすのです。そのため、クリープ性大規模崩壊とも言われます。

◆大規模崩壊の発生過程

 以上の観察事実から、大規模崩壊の発生過程は次のようにまとめられます。
①200~300haにも及ぶかなり広範囲の斜面が全体にわたってクリープし、少しずつ下方へ移動する。
②斜面前方では、後方からの押し出しに伴う地盤のゆるみによって、小規模な末端崩壊がしばしば発生する。
③斜面上の尾根付近では、引張亀裂が発生し、多重山稜や線状凹地あるいは階段状地形が発達する。
④斜面下方への移動が蓄積して地盤のゆるみが大きくなり、臨界状態に達すると、数~十数haの中規模崩壊が発生する。…(この説明は省略しました)
⑤こうした中規模崩壊がクリープ域内で場所を変えながら発生し、やがて大規模な崩壊へと発展していく。
⑥火山灰編年や植生の樹齢から、中・大規模崩壊は100~1,000年オーダーで発生しているらしい。小規模末端崩壊は10~100年オーダーで繰り返し起きている。
⑦以上のようなサイクルがクリープ域が消滅し斜面が安定するまで繰り返す。

◆大規模崩壊の予知

 次のような特徴に注意して空中写真判読や現地踏査を行えば、比較的容易にハザードマップを作成することができます。
①片状岩分布域は、全体として要注意地域で精査が必要である。
②山腹から山頂にかけて緩斜面が存在しており、尾根が丸味をおびている。
③尾根部に多重山稜や線状凹地・階段状地形が発達している。
④滑落崖が存在する。
⑤山頂や山腹部に新しい引張亀裂が存在する。
⑥はらみ出しを示す凸状の山腹面が存在する。
⑦樹木の幹曲がりがしばしば見られる。
⑧中・大規模の崩壊跡地が存在する。
⑨クリープ域斜面下方で末端崩壊がしばしば見られる。
⑩斜面後方からの押し出しによる河川の対岸側への湾曲が見られることがある。

以上、岩松・下川(1986)による


ページ先頭|九州山地の大規模崩壊|地形的特徴|地質的特徴|発生過程|大規模崩壊の予知
鹿大応用地質学講座ホームページ
鹿大応用地質学講座WWWもくじ
地学関係WWWリスト

連絡先:iwamatsu@sci.kagoshima-u.ac.jp

更新日:1996年11月15日