2000年3月24日、鹿児島大学理学部地学科最後の卒業生を送り出しましたので、このホームページはこの日をもってフリーズしました。もう更新しません。悪しからず。
 なお、「かだいおうち」は日本における大学研究室ホームページの第1号です。歴史的遺産としてここにアーカイブしておきます。

岩石の風化


風化と劣化|岩盤クリープ|玉ねぎ風化|節理に由来する風化のシミュレーション|岩石の風化と色|亜熱帯の赤色風化

◆風化と劣化

 新鮮で硬い岩石も長い間地表で風雨にさらされると、やがてぼろぼろに風化してきます。風化作用(weathering)には、温度差による差別的膨張や水の凍結膨張などに起因する機械的風化作用(disintegration)と、変質して粘土鉱物を生じる化学的風化作用(decomposition)とがあります。鹿児島のような湿潤温暖な地方では、主として後者の作用が活発です。
 このように岩石の組織が変化するだけでなく、地表付近で岩盤がゆるむ現象も含めて劣化(deterioration)ということがあります。なお、断層運動による岩石の破砕や熱水活動による岩石の軟質化も広義には劣化に含めることもあります。

◆岩盤クリープ

 斜面上の岩盤がゆるんで少しずつ下方に動く現象をクリープと言います。力学で定義されるクリープとこのような地質学上のクリープとは内容が異なりますから注意してください。粘板岩や結晶片岩のようなぺらぺら剥げやすい片状岩が受け盤(写真のように地層の傾斜方向が斜面の傾斜方向と反対の場合のこと)をなすところでしばしば見られます。斜面表層が少しずつ滑る訳ですから、樹木は根曲がりを起こすことがあります。林道など山腹の露頭では、地層の傾斜が比較的緩いのはこのクリープによる場合が多いので、あまり信用しないほうが無難です。参考値程度と考えておきましょう。
 なお、大規模な岩盤クリープについては大規模崩壊のページをご覧ください。

◆玉ねぎ風化

 花崗岩やアルコーズ質砂岩・安山岩のような比較的均質な岩石では、しばしば玉ねぎ状に風化するコアストーン構造(玉石)が見られます。地表付近が一番風化していて、深部に行くほど新鮮になるのは当然ですが、コアストーンは上右図のように中間帯(Zone B)で典型的に発達します(福井克樹,1997修論)。一つ一つのコアストーンを見ると、外形は節理系に支配され、節理に近いほど風化が進んで砂状になっていますが、芯にあるコア部との中間に玉ねぎの皮に当たる球状剥離部が発達します。節理に沿って地下水が浸透したため、風化が進んだのでしょう。顕微鏡のオーダーでも、やはり割れ目から風化が進むことが観察されます。ここでも自然界がフラクタルなことが分かります。

◆節理に由来する風化のシミュレーション

 そこで、横田修一郎島根大学総合理工学部教授(元本講座助教授)は、節理に由来する風化の過程をコンピュータシミュレーションで再現しました(Yokota, 1993)。時間の経過と共に、節理面付近から風化が進行していくことがよく分かります。

◆岩石の風化と色

 岩石は風化すると褐色系へ色が変化します。色彩色差計を用いればそれを定量的に示すことが可能です(満下・他,1994)。左図はL*a*b*色空間(CIELAB色空間)による表示の仕方を示します(国際照明委員会,1976)。L*は明度、a*は赤緑系、b*は黄青系です。
 鹿児島市甲突川に架かる石橋の風化が進んでいるというので、土木学会で調べたことがあります。奇しくも水害で流れる直前でした。廃材の溶結凝灰岩を利用して表面からどのくらい風化が進んだか調べるために、針貫入試験やショア硬度試験と共に色彩色差計による測定も実施しました。その結果、表面から0.75cm付近でL*が急落することがわかりました。江戸時代末期から今までにそのくらい風化が進んだのでしょう。

◆亜熱帯の赤色風化

 奄美諸島や沖縄は亜熱帯に属します。新鮮なときには真っ黒な泥岩でも、このような暖かい地方では赤褐色に風化します。地学事典には「粘土と結合している加水酸化鉄の部分的脱水により生じ、赤鉄鉱の生成と密接に関係する」と解説しありますが、要するに酸化鉄により赤~赤褐色を呈するのです。珊瑚礁の赤土汚染が問題になっていますが、赤色風化した岩石を開発で剥き出しにしたのが原因です。
 なお、内地でも赤色土壌が高位段丘以上の地形面にしばしば見られます。段丘礫まで腐って、ハンマーやシャベルで容易に削ることができます。いわゆる「くさり礫」です。この地形面が形成された当時の日本列島は、今よりずっと暖かだったと言われています。


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更新日:1997年2月23日