2000年3月24日、鹿児島大学理学部地学科最後の卒業生を送り出しましたので、このホームページはこの日をもってフリーズしました。もう更新しません。悪しからず。
 なお、「かだいおうち」は日本における大学研究室ホームページの第1号です。歴史的遺産としてここにアーカイブしておきます。

口頭発表の仕方


卒論発表の仕方|学会発表の仕方|スライドの作り方|OHPの使い方|ポスターセッション|参考文献
 研究結果は論文にして文書で発表するのが原則であるが,学内の談話会や卒論発表会あるいは学外の学会やシンポジウムで発表する機会も多い。要領よく講演しないと折角のすばらしい研究が聴衆に理解されないこともある。こうした口頭発表にはそれなりのテクニックがあるから,ここに簡単に解説する。

1 卒論発表の仕方

 どこの大学でも学年末に卒業試験を兼ねた卒論発表会が行なわれる。学生数にもよるが普通持ち時間は20~30分である。これに質問時間が5~10分加わる。スライドやOHPの使用は一般的には禁止されているようである。私は地質図のような図面はビラにして常に貼っておき,重要な論拠となる露頭の状況については,スライドで示すのがよいと思う。地質調査は何よりも露頭観察が重要なのだから,スライドを禁止してビラだけを強制するのは,展示する地質図の面積だけを競うことになり,結果としてペインター(色塗り地質屋)奨励になっている。

1.1 発表の準備

 発表準備のスタートは早ければ早いほどよい。図が未完成のままリハーサルをやり,前日まで徹夜でビラを作って,当日は寝不足の腫れぼったい顔で発表する学生が跡を絶たない。卒論発表の準備にはまず何よりも図面類が出来ていなければならない。拡大ビラになっていなくとも,その原図だけはなるべく早く完成させる。遅くとも2週間前には仕上がっていること。原図さえあれば,いざというときには他人にビラ書きを頼むこともできる。次の1週間で講演内容を考えるのである。話の進行上新たな図の必要性を感じて作ることもあるから,かなりの時間的余裕が必要である。

1.2 時間の割りふり

 学生にとっては生まれて始めての経験だから緊張するのが当たり前である。あがってしまって何をしゃべったかわからないという事態になる。前置きに時間を取り過ぎて,肝心の結論を大急ぎで素通りしてしまったとなげく声を毎回耳にする。やはり事前に周到な準備をするのが成功のコツである。
 ここでは仮に持ち時間を20分としよう。まず,最初の 2~3分で論文要旨(抄録)に当たる話をしなければならない。つまり,研究目的・方法・結果を簡潔に述べ,初めに聴衆に研究の全容を理解してもらう。中心テーマが理解されていると,論点がつかみやすいからである。いきなり本論に入って細かなことから説明されると,聞いている方にはちっともわからない。なお,ここで若干研究史的な話をし,従来の研究との対比において自分の研究の意義や独創性を際立たせてもよい。次の10分くらいで地質各論の説明や研究結果の話をする。さらに5分くらいかけて考察を述べる。個別のフィールドから引き出された普遍 性のある結論などもここで話す。この部分はいわば目玉商品だから,聴衆に十分理解してもらえるよう,決して端折ってはならない。最後の1~2分は将来の展望や現在未解決で今後に残した課題について述べ,締めくくりとする。

1.3 講演原稿

 頭の中で話の順序を考えておいただけでは,あがったときに収拾がつかなくなる。弁論部でもないかぎり講演には慣れていないはずだから,やはり講演メモを作っておくべきである。最もオーソドックスなやり方を紹介しよう。
 まず,時間の割りふりに応じて話言葉で一字一句全部書いた講演原稿を用意する。「それでは次の柱状図をご覧ください」まで全部書くのである。普通の演説では1分間に400字詰め原稿用紙1枚分話せるという。図を指したりする 時間を入れると300~350字くらいがよいところであろう。用紙は必ずしも正式の原稿用紙を使う必要はない。ノート(ただし,片面のみ)に地質概説・地質構造などと話の区切りごとに見出しを付け少し離して書いておく。
 これを基に話をするわけだが,あまり早口だと十分理解してもらえなくなるし,逆にゆっくり棒読みされてもわかりにくい。そこで,次に原稿中の重要な単語に蛍光ペンなどでマークを付ける。その単語をチラリと見るだけで話す内容がすぐ思い浮かぶようなキーワードを選ぶ。また,話の区切りには目標経過時間を欄外に記入する。こうしておいて,原稿の棒読みではなく自分の言葉で話せるよう何回も何回も練習する。テープに取って聞いてみるのも大変よい。「エート」「…しちゃう」といったあまり好ましくないクセを連発しているのが身にしみてわかり,反省させられる。また「大体」「おそらく」「ぐらい」といったぼかし言葉を連発するのも聞き苦しい。自分のデ-タに確信がない証拠である。

1.4 リハーサル

 過不足なく決められた時間に話ができる自信がついたら,今度は友人たちに聴衆になってもらい,実際にビラを貼ってそれを指し示しながら本番そのままのリハーサルを行なう。この段階では講演原稿をやめ,カードに切り替える。一つの項目に1枚のカード(片面のみ)を使い,見出しと先ほどのキーワードを記入する。これを「単語メモ」という。その他,どの図のどこの部分を指差すといった心覚えも別の色で記入しておく。欄外に目標経過時間を書くのは同様である。単語メモはチラリと見る程度に止め,話を中断してじっと目読したりするのは感心しない。これが原稿用紙やノートのままだと,該当箇所を探し出すのに手間取り,あわてて冷静さを失う原因となる。なお,ビデオがあったら友人に撮影してもらい,後で見てみるのも一法である。下ばかり向いて聴衆に話しかけていないなど,反省点が見つかる。
 終わったら友人たちから質問を出してもらい,説明がわかりにくかったところを手直しする。できれば専門の違う友人に忌憚のない意見を言ってもらうのがよい。これは当日の口頭試問の想定問答にもなる。予想される質問に関連した事項をメモカードの裏面に書いておくと大変役に立つ。測定数など空で憶えておれない数字類も質問に備えてメモしておく。
 前夜はよく睡眠をとり当日すっきりした頭で会場に臨むのが大切である。このくらい十分な準備をすれば,自信もついてきてまずあがる心配はなくなる。

1.5 図・写真・サンプルなど

 限られた時間に盛りだくさんの話をするためには「図に語らせる」のが得策である。百万言費やすより一枚の図や写真の方が雄弁ということもある。ただし,数字のままの表はなるべく避け,グラフなど見やすく表現する。
(1) ビラ
 ビラ類は教室の一番後ろからでも見えるよう,なるべく大きく描く。細かく精密に描かれていても見えなければ何にもならない。ただし,あまり大胆に省略されマンガ的になっても困る。また,文字は楷書ではっきりと書き,彩色はていねいに行なう。もちろん,誤字やミススペルは厳禁,教養を疑われる。
 地質図は縮尺1万分の1くらいが頃合の大きさである。最近の市町村役場には大抵1万分の1地形図があるから,これをもらって来て直接記入する。地形も入っていた方がごまかしがきかなくてよい。地質図の彩色にフェルトペンの縞模様を多用したり,毒々しい原色のポスターカラーで塗ったりするのは見苦しい。美的センスも要求される。やはり色鉛筆で縞にならないようていねいに塗り,重要な鍵層だけ色フェルトペンで彩色するのがよいようである。色は,地質時代と岩質と共に判別できるよう,模様と併用するなどして工夫すること。走向傾斜は大きく見やすく書く。地層境界線は中細フェルトペンの点線で,断層や褶曲軸は太実線で記入し,わかりやすくする。もちろん,凡例や縮尺・方位を付けるのを忘れないように。
 総合模式柱状図あるいは地質総括表はぜひ欲しい。これがあると地質概説の説明が楽だし,地質各論を聞くときもその位置付けがよくわかる。柱状図は岩質を示す模様を黒色で記入し,累層あるいは部層ごとに地質図と同じ色で塗るとわかりやすい。この場合は地質図の凡例も兼ねられる。その他断面図なども色を地質図と統一して欲しい。グラフなども模造紙に大きく描き,記号の凡例は必ず添える。
(2) 写真・サンプル
 重要な論拠となる露頭はスライドで示す。不許可の場合は,スケッチと説明を添えた写真を回覧するとよい。聴衆が多いときはスケッチをビラにして掲示する。また,必要なら化石や岩石・鉱物のサンプルを回覧してもよい。もちろん,サンプル箱に入れて説明を添える。ただ,こうした回覧を行なうのは,聴衆の注意が講演からそらされる恐れが強いので,よほど重要なものに限るべきであろう。

1.6 発表本番

 当日は,聴衆に不快感を与えないよう,また,自分の気持ちを引き締めるためにも,こざっぱりした服装で来る。汚い白衣や作業服は不可である。かと言って日頃着慣れない三揃えの背広にネクタイではかえってあがってしまう。自分の番がくるまでなるべく会場内にいて友人の発表ぶりを見学する。人の振り見てわが振り直せ,他人の発表は大いに参考になる。自分の番になったら,ビラの貼る場所が話の順序通りになるよう気を配る。他人まかせにしておき,どこに貼ってあるかわからずにウロウロして,そのためますますあがってしまう学生が毎年いる。話をするときは,聴衆に背を向けてビラの方ばかり向いたり,終始頭を上げず原稿を読み上げたりするのはよくない。また,ポケットに手を突っ込んだまま話をするのも聴衆に失礼である。なるべく前を向いて大きくはっきりした声でゆっくり話すよう努める。ベルの音にも注意し,1鈴が鳴ったらまとめに入る。ベルが鳴るとトタンに平静さを失い,支離滅裂になる人がいる。あわてないこと。逆にベルを全く無視して,質問時間まで食い込んで平気なのも困る。

1.7 質問

 卒論発表は口頭試問も兼ねているから,先生方から質問があると緊張してしまう。何よりも質問の趣旨をよく理解するよう,落ち着いて注意深く聴くことが大切である。もしも質問の意味がわからなかったら,ていねいにもう一度聞き直す。わかった振りをしてトンチンカンな答えをするよりましである。一人の人から複数の質問事項があったときには,メモを取り落ちがないように答える。回答は具体的に事実に即して行なう。誤魔化したりすると,突っ込まれて馬脚を現わすから,わからないことはわからないと正直に答える。

2 学会発表の仕方

 学会発表の意義は研究成果を広く知ってもらうことにだけあるのではない。自分の所属する講座・大学といったいわば身内の中で議論していたのでは,偏った見方に陥っても気が付かないことがある。学会で他学派の人々に討論してもらうことは啓発されることが多く大変有意義である。他流試合のつもりで学内発表以上に十分な準備をして行く必要がある。それはまた多額の旅費を使って集まって来た聴衆に対するエチケットでもある。

2.1 時間の割りふり

 発表時間は卒論発表などよりずっと短く,日本地質学会では交代や質問時間も含めてわずか15分である。したがって,正味の講演時間は12,3分しかない。それゆえ,卒論発表のように研究してきたこと全てを出すのではなく,枝葉は切り捨てて研究の核心だけを要領よく伝える工夫が要求される。前節で述べた講演原稿を半分に圧縮する必要がある。しかし,前置きなどを省略して結論部分だけ話すのは困る。どんなに短い話でも起承転結は踏んでいなければならない。内容を凝縮するのである。文章と同じくカンナかけが重要になる。特に導入部分は十分推敲して欲しい。卒論発表と異なり聴衆は聴く義務があるわけではないから,自分のテーマが聴くに値する重要な研究であると認識してもらう必要がある。まずこちらのペースに引き込まなければならない。
 もちろん,質問封じのためわざと時間ギリギリまでしゃべるのは,前述の意義にもとるから,厳に慎むべきである。

2.2 スライドと講演メモ

 日本地質学会の場合は,OHPの使用は許されていなくスライド使用(最大16枚)が原則となっている(スライドの作り方は後述)。普通スライド1枚説明するのに1分かかる。したがって,スライドが10枚以上あるとスライドの説明だけで時間がなくなってしまう。逆に言えば,話の順序に沿って適切なスライドを並べると,その説明をしていくだけでほぼ話の筋書きから逸脱せずに,時間通りに話を進めることができる。なお,前出のスライドをもう一度写してもらって説明するのは,係に迷惑をかけるし,第一見苦しい。必要なら同じものを2枚作っておいて,それぞれ適切なところに挿入しておけばよい。
 講演メモのカードはスライドごとに作り,上欄にスライド番号と見出しを書く。スライドの場合,場内が暗いからメモを読むのは難しい。何回もリハーサルを重ねてメモに頼らなくてもよいようにしておく。メモは万一あがって話すことを忘れたときの安全弁と考えた方がよい。説明し終わったスライドのカードは机の上に少しずつずらして並べ,手元には常に現在説明中のスライドのカードを持っておくように。これがずれると,あがったとき目的のカードを探すのにますますあわててしまう。また,メモの字は暗闇でもすぐ目につくようなるべく大きく書いておく。その点,スライドはブルースライドより,抜けのよい白黒スライドの方が周囲が明るくて便利である。手元ライトがない会場もあるから,ベビーライトなど小さな懐中電灯を持参するとよい。なお,黒板に字や図を書くのは,質問に答えるとき以外なるべくよしたほうがよい。カードを机に並べておくのは,質問に答えるときの資料として役立つからである。

2.3 マイク

 大きな会場ではマイクを使うこともある。音量が適切かどうかに気を配るゆとりが欲しい。マイクに口を近づけ過ぎてガナリ立てると,聴衆が大変迷惑する。マイクと口との距離を一定に保つように心がける。マイクを持った腕を脇腹にしっかり付け,親指を顎に付けてマイクを固定するとよい。スタンド式の場合も,スライドを説明したりする都合上マイクは手に持った方がよい。

3 スライドの作り方

 スライドは話の内容を聴衆によりよく理解してもらうために使う小道具である。どうもこの根本がわかっていないのか,双眼鏡で見ないと読み取れない代物を平気で出す人が多い。また,フリーハンドで書いたきたない図面も不可である。スライドは見る人の身になって作って欲しい。

3.1 スライドの種類

 露頭や化石などの実物あるいは顕微鏡写真をカラースライドで見せる場合と,図・表をスライドにする場合とある。後者には,使用フィルムによって,次のようないろいろな種類がある。
(1) 白黒反転フィルム
 硬調の超微粒子フィルムを用いて撮影し反転したものである。白地に黒文字が浮かび上がり大変見やすい。会場で手元が明るくなる利点もある。最もオーソドックスなものと言えよう。やや手間がかかるのが難点。反転作業を省力化したのがカルバーフィルムである。これは正規の反転フィルムほどシャープな仕上がりにならない。軟調の写真用フィルムもあるが,カラー時代にこれを使う人はまずいない。
(2) インスタントスライド
 ポラロイドやパナコピーといったインスタントにスライドを作る機械が開発され大変便利になった。特別な技術も不要で1分も経たずに出来上がる。ただ白地の抜けがやや甘くシャープさに欠ける。また青色も黒く出るため,方眼紙に原図を描くと背景まで写り見にくい。グラフの場合,かえって座標が読み取りやすくなる利点もある。パナコピーにはカラースライドやブルースライドを作れる機種もある。
(3) カラースライド
 白紙に墨で図を描いたりタイプしたものをそのままカラーリバーサルフィルムで撮影したものである。現像などすべて写真屋まかせだから,手間はかからない。しかし,光源ムラもなく白地がきれいに白く抜けたものをあまり見たことがない。露出時間やライティングなどが悪いためである。なお,PowerPointのようなプレゼンテーションソフトで作成した図面を直接スライドにする機械もあるが,今のところ高価であまり普及していない。
 もちろん,多色刷り地質図など色物はカラーに限る。どうせカラーで撮るなら,図やグラフも墨を止め,色サインペンを使ってカラフルにすると見栄えがする。コンピュータのCRT画面をそのまま撮影しても結構見れる(この場合にはTV用フィルターを使用するとよく写る)。グリーンの黒板に色チョークで図・表を書き,そのままカラースライドにしても目先が変って面白い。ラフな説明用の図なら製図の手間がかからず簡便である。
(4) ブルースライド
 白黒フィルムをカルバーにかける際,ジアゾフィルムを用いると,青地に白文字のブルースライドができる。写すとき手元が暗くなるのと,細かな文字や線が判別しにくい欠点があるためか,最近はあまり見かけなくなった。凝った人は反転したフィルムを使って,同じ方法で白地に青文字のスライドを作る人もいる。フィルムを替えればオレンジやグリーンのものも出来る。

3.2 露頭写真・顕微鏡写真

 最初からスライド用ポジフィルムを使用した方がよいが,ネガカラーの反転でも最近は色が良くなった。図版に使う写真と違って,スライドにする写真はトリミングができないから,撮影時からそのつもりで撮らなければならない。何をこの写真で説明したいのかすぐわかるようなものが望ましい。できるだけアップで撮り,画面一杯に写すのがコツである。普通の撮影位置より一歩前進と心得ておくとよい。また,2枚続きの写真も好ましくない。先ほどのスライドの右側です,などと言われてもピンとこない。広角レンズを用いて1枚に収めること。なお,二度と撮れないような貴重な写真の場合は,両面をガラス板で保護したプラスティックスライドマウントに入れ直しておく。プロジェクターの中でひっかかって破損するケースがままあるからである。
 顕微鏡写真は何よりも色温度に気を付けて欲しい。青味がかったり赤味がかったりしているのはいただけない。自動露光装置を使うのならあまり問題はない。また,低倍率の場合はピントが甘くなりがちだから十分注意する。

3.3 図のスライド

 論文付図とスライド用図面とは全く別物と心得ておいた方がよい。細かな論文用図面をそのままスライドにして見せられても,まず判読不可能である。スライド用原図の作り方の注意を以下に列挙する。
(1) なるべくシンプルに
 何でもゴタゴタ書き込むのは厳禁である。特に強調したいところが浮き出すように枝葉の部分は省略する(下図参照,AAPG Slide Manual, 1970より引用)。

堆積盆の中心が移動したことが重要なら,どちらほうがより印象が強いか自明であろう。

左図はごたごた不要な情報まで入っていて見にくい。グラフ線が埋没している。
(2) 太く・大きく・枠一杯に
 線はなるべく太くして,文字はなるべく大きく書く。35mmスライドの縦横比を考えて,枠一杯になるように図をアレンジする。折角集めたデータを全部見せたい気持ちを押さえて,話に必要なところだけ原図の一部を抜き出す必要も出てくる(上図参照)。撮影のときもなるべく枠一杯に大きく撮る。
(3) タイトル・凡例を入れる
 図面の記号や模様あるいはグラフの点の意味を口頭で説明する人がいる。聞きもらすと何のことだかさっぱりわからなくなる。凡例を同じスライド中に明記する。タイトルが付いていればその図のねらいもわかる。図だけ見ればたとえ聞きもらしても話の内容が理解できるようにするのがコツである。グラフの場合には,測定箇所の模式図や理論式なども併記されているとわかりやすい。
(4) なるべく縦型は避ける
 普通の会場では横型のスライドに合わせてプロジェクターがセットしてある。縦型だと天地を切られる恐れが強い。係に方向を間違われてやり直しに時間を取られる可能性も高くなる。やむをえない場合を除き,なるべく工夫して横型にアレンジするとよい。

3.4 表のスライド

 膨大な化石リストや分析表を見せても誰れも読み取れない。コンピュータのドットプリンターで打ち出したものなど最低である。なるべくグラフ化するように心がける。できない場合は代表的なものをピックアップするとよい。数式のように文字でなければ示されないものは,1枚のスライドにせいぜい7~8行程度とする(縦型の場合は11行以内)。これを物理学界ではCrossの第一法則というのだそうである(中村輝太郎氏による)。この7~8行が画面一杯になるような大きさに書くのである。英字でタイプライトするのなら,35ストローク,ダブルスペースでちょうどこの大きさになる。ゴシック体の大文字にすると見やすい。もちろん上質紙にカーボンリボンを用いて清打ちする。当然,式中の変数の意味などは必ず同一スライド中に示しておく。ちなみに第二法則は,2枚前のスライドの再映写を要求してはならないことである。
 なお,表ではないが前置きの話をする際,話の目次や結論を箇条書にしたスライドを写すのもなかなか効果的である。

3.5 撮影上の注意

 使用する機材によって具体的なやり方は異なるから,ここでは一般的な注意を述べる。
(1) 適正露光
 何よりも露出が正確でなければならない。カメラ内蔵の露出計を過信すると痛い目に合う。背景の白地が多い場合にはどうしても露出不足気味になる。絞りを何段階か変えて撮ってみるとよい。カラーでは色温度に気を配る。露光量light valueが同じでもシャッタースピードと絞りの組み合わせが異なると違った色合いに仕上がる。
(2) ライティング
 光源ムラが一番見苦しい。強力な照明球を2個用意して影ができないように注意する。球にさわるとヤケドするから要注意。カラーの場合は,屋外の自然光で撮ると意外とよく写ることが多い。ただし,朝夕は青味がかったり赤味がかったりするから,フィルターで補正する。なるべくなら正午頃がよいが,自分の影が写る恐れがある。コンピュータのCRT画面を写す場合には,TV用フィルターを使うとうまくゆく。
(3) 画面一杯に
 折角大きく書いても真ん中にこじんまり写しては何もならない。接写レンズを駆使して画面一杯になるように収める。手ごろなレンズがないときは原図の方を拡大コピーする手もある。もちろん,ピントは正確でシャープでなければならない。

3.6 指示の記入

 折角苦労してきれいなスライドを作っても,上下逆さまになったりして,正しく映写されないようでは,貴重な持ち時間を浪費し十分な発表ができない。本人もあわててあがってしまうし,聴衆にも迷惑をかける。映写係がわかるように,スライド枠にはっきりと天地を示す赤マークを付け,講演番号・氏名・映写の順番を記入する。記入方法は学会によって習慣が異なるから,講演要綱に従うこと。

4 OHPの使い方

 この頃はOHPを使ってよい学会が増えてきた。スライドとの併用が認められていることも多い。図面はOHP,露頭写真や顕微鏡写真,標本や実験装置など実物の写真でなければならないものはスライド,と使い分けるのである。OHPの利点は,何よりも部屋が明るくてもよいところにある。聴衆にとってはメモを取ったり講演要旨を読んだりすることができる。

4.1 OHPの作り方

 図面をフィルムにコピーすればすぐできるから,スライドより簡便だとばかり,論文の付図をそのまま使う人がいるが,前節で述べたと同様,不可である。やはり,OHPの利点を生かして,カラフルで見やすいものを作って欲しい。しかし,いくらカラフルがよいといっても,サインペンで書きなぐったものをよく見かけるが,大変見苦しいし,第一失礼である。
 図表については,前節のスライドと同様,最重要箇所がクローズアップされるように配慮した原図を作成する。最近はPowerPointなどプレゼンテーションソフトがあるから,これで作るのが一番簡単である。カラープリンターで直接OHP用紙に印刷すればよい。地質図などは原図のコピーに着色して分りやすくしてもよい。彩色には透明のカラートーンが便利である。周辺部をカラートーンで囲み,白いグラフや図表を際立たせる使い方もある。

4.2 OHPの使い方

 スライドのように人に操作してもらうのと違い,自分で取り替えるのだから,同じ図面を何度も使ったり,一部を隠して話の内容に応じて順に示したり,さらには2枚の図面を同時に見せたり,自由自在の使い方ができる。しかし,往々にして,多数の図面の中から目的のものを見つけるのに手間取って,聴衆をイライラさせる人がいる。人前であがるとますます見つからなくなる。やはり,スライドと同様,話の順序に応じて,同じ図面でも複数枚用意し,順序よく重ねておくほうがよい。また,2枚のフィルムを重ねて,一致点や不一致点を強調することもしばしば行われるが,これまた,得てしてキチンと重ね合わせるのに時間を取る人が多い。これは,事前に正確に重ね合わせた上で,セロファンテープで一方の端を止めておけば解決する。最初に開いておいて説明した後,閉じて重ねるのである。
 なお,縁に不透明部分のあるフィルムやボール紙の枠があるものでは,通し番号や図のタイトルあるいは説明用のキーワードなどをメモしておけば便利である。また,機械の電源スイッチや照明の強弱スイッチがどこにあるか分らなくてまごつく人が結構多い。日頃自分の使っている機種と違う場合には,前の講演者が使うときによく注意して観察しておこう。

4.3 液晶ビジョン

 プレゼンテーションソフトなどのパソコン画面を直接スクリーンに投影する機械も登場した。しかし,まだ高価すぎて用意してある会場は少ない。設置してある場合には,どの機種のパソコンが使えるか(どのケーブルが使えるか),事前に問い合わせておき,その機種のノートパソコンとケーブルを用意する。パソコンまで設置してある場合には,フロッピーを持参する。

5 ポスターセッション

 最近は口頭発表の他に,ポスターセッションを行う学会が増えてきた。決められた面積の壁に図表や写真を展示しておき,その前に立って説明するのである。口頭発表は極めて限られた時間の発表と極く短い質問時間しか与えられないから,一方的にしゃべっておしまいという例が多くなり,形式的に流れやすいとの反省から出てきた方式であろう。多くの人に話すというよりは,自分の研究に強い関心を示してくれる人とじっくり議論ができる。自分の大学とは異なる学風の人や違った発想の人たちと議論することは大変有益である。他流試合の場として絶好だから,若い人にはぜひお勧めしたい。

5.1 ポスターの準備

 まず,どんな内容の発表なのか,人の興味をそそらなければ,誰も立止まってくれない。一番上に大きな字で標題を書く。次に,要約を箇条書にして拡大コピーしたものを1枚用意する。重要箇所やキーワードには蛍光ペンでアンダーラインなどして目立つように強調しておく。図表は,スライドなどと違って,すぐそばでじっくり見ることができるのだから,簡略化したものではなく,精密にきれいに仕上げておかなければならない。もちろん,彩色して見やすくしておく。写真なども用意し,なるべく視覚に訴えるよう工夫する。文字ばかりだと誰も見てくれない。文字は,もちろんきれいな字で書く。ワープロ文字の拡大コピーでもよいが,あまり小さすぎたり,行が混んでいて全体として真黒な印象を与えるようなものは好ましくない。

5.2 発表当日の心掛け

 普通,ポスターは会期中展示したままにしておき,自由に閲覧できるようになっているが,ある特定の時間帯だけは,出展者がそばに付いていることが義務付けられる。この時に,キチンと会場にいることが最低限のエチケットである。話しかけてくる人がいないからといって,他の人のところを見にでかけたり,友人を見つけてロビーで話し込んだりしている者を見かける。こんな失礼なことは絶対にしてはいけない。
 立止まってくれる人がいたら,知らん顔していずに,あまりしつこくない程度に「ご説明いたしましょうか」と積極的に申し出て,議論してもらうとよい。口頭発表の質疑のような形式的な一問一答と異なり,相手の論点を十分聞くこともできるし,事実を挙げて丁寧に説得することもできる。また,小さなサンプルならば,持参して実際に見てもらうこともできる。いずれにせよ,冒頭述べたように,他人の胸を借りるつもりで,ディスカッションに臨み,時には逆に質問してアドバイスをいただくのもよい。最後にお礼の言葉を忘れないこと。

参考文献

砂原善文(1985): 科学者のための研究発表のしかた. 朝倉書店, 東京, 118pp.
中村輝太郎編著(1982): 英語口頭発表のすべて. 丸善, 東京, 270pp.
森川 陽・大倉一郎・高橋孝志(1990): 学会発表の上手な準備―ポスター・OHP・スライドのてぎわよい作り方. 講談社, 74pp.
A.A.P.G. Committee on preparation of projection Slides(1970): Slide manual. rev. ed., Am. Asoc. Petrol. Geol., Tulsa, 32pp.

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更新日:1996年12月23日