2000年3月24日、鹿児島大学理学部地学科最後の卒業生を送り出しましたので、このホームページはこの日をもってフリーズしました。もう更新しません。悪しからず。
 なお、「かだいおうち」は日本における大学研究室ホームページの第1号です。歴史的遺産としてここにアーカイブしておきます。

ダムと地質


ダムの種類と地質|関連地質調査|中岳ダム|輝北ダム|喜界島地下ダム|三峡ダム

◆ダムの種類と地質

 1994年の渇水では四国の早明浦ダムのことが連日報道されました。ダムには貯水用の他、発電ダム・農業用ダム・洪水調節ダムなど様々な用途があり、私達はダムのお世話にならずには一日として暮らせません。ダムのタイプもいろいろあります。大きく分けてアーチダム(左)・重力ダム(中)・フィルダム(右)に分類されます(絵は宮崎県広渡ダム管理事務所から引用)。それぞれ要求される地質条件が異なります。その他に全く違う範疇に属するものとして地下ダムがあります。これは後で解説します。
これは日本で初めてのアーチダム(1955年竣工)として有名な宮崎県上椎葉ダムです。水圧をアーチ作用によって左右の岩盤で支えるため、谷幅が狭く、両袖の岩盤が上から下まで強固なことが要求されます。四万十層群の中に作られました。
 鹿児島県の川内川にある鶴田ダムです。重力ダムといい、水圧に対し堤体の自重および基礎岩盤のせん断強度で抵抗する構造物です(構造は下の輝北ダム参照)。したがって、高い強度の基礎岩盤が必要です。コンクリートを大量に使用するため、谷幅が狭いことも重要です。このダムも四万十層群の砂岩に作られました。
 鹿児島空港のそばにある竹山ダムです。土や石を積んで水をせき止めるタイプでフィルダムと呼ばれます(構造は下の中岳ダム参照)。底面積が広くなるため、単位面積当たりの力が小さくなりますから、地盤の悪いところに作るのに適しています。それ故、あまり力学的な条件は厳しくありませんが、地盤の遮水性(水漏れを防ぐ性質)が問題となります。石や土を大量に使うため、その材料が近くで調達できることも大切です。原石山と言います。
 わが国では地質の良いところはほとんど作り尽くされ、地質条件の厳しいところに作らざるを得なくなっていますから、現在ではフィルダムが主流になってきました。

◆ダム建設に付随する地質調査

 ダムの計画・設計・施工の各段階に応じて詳細な地質調査が行われます。上に述べたような点を中心に調査します。しかし、ダムという構造物が出来さえすれば良いという訳にはいきません。水を貯めたとき漏水したり、地下水位が上がったことに伴って地すべりが発生したりしたら困るからです。この写真はイタリアのバイオントダムです。水を溜めてから約1年後の1993年10月9日地すべりが発生、崩土がダム湖に流入したため、溢れた水が下流の村々を襲って死者2,125名の大惨事になりました。写真は上流のダム湖側から見たものです。ダムとしては完全に放棄されています。

◆中岳ダム

 大隅半島は広大な農業地帯ですが、火山灰土に覆われて農業水利が未整備です。そこで、国営土地改良事業の一環として末吉町に中岳ダムが企画されました。四万十帯を基盤としたロックフィルダムです。左図は断面図ですが、堤体中央茶色の部分が水を通さない細粒の土質材料からなるコアです。これを中心にフィルターゾーン・トランジョンゾーン・ロックゾーンなどからなっています。それぞれの土質・岩石材料は近くの山から調達するのが原則です。堤体下にもコンクリートミルクを注入して水漏れを防ぎます。グラウトと呼ばれます。現在、建設中です。

◆輝北ダム

 やはり大隅半島の国営土地改良事業として計画された重力ダムです。シラス地帯の中ですが、四万十層群に基礎を置くように設計されています。左図は断面図ですが、重力ダムの特徴をよく示しています。

◇喜界島地下ダム

 高い山のない小さな離島は大きな河川がなく慢性的な水不足に悩まされています。そこで、空隙の多い岩石の中に雨水を貯留しておく地下ダムが考え出されました。実際に沖縄県宮古島では実用に供されています。そこに行っても何の変哲もない畑で、ダム湖のないダムです。ここでは空隙の多い琉球石灰岩が水瓶の役割を果たしています。でも水を漏らさない洗面器がなければ溜まりません。これには基盤の第三紀島尻層群が使われました。地下ダムの地質調査の要点は、琉球石灰岩堆積前の旧地形、つまりの不整合面の形態です。洗面器のような盆状か谷状の地形を見つけださなければなりません。図は鹿児島県喜界島地下ダム模式断面図(九州農政局パンフより)です。地質構成は宮古島と同じです。地中の谷状地形の下流側に地中壁を作って水を溜めようという訳です。


◆三峡ダム

 現在建設中のダムで世界最大のダムは中国揚子江の三峡ダムです。洪水調節・発電・船運改善などを目的とした重力ダムで、2009年に完成した暁には、ダム湖の面積(湛水面積)1,084km2、発電能力18,200MW、10,000t級船舶通行可能と、とてつもなく巨大なものになります。水没のため移住させられる人口は725,500人とこれまた桁違いです。先カンブリア紀の花崗岩中に作られました。詳しくは第30回IGC特集(その2)をご覧ください。


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更新日:1997年1月6日