2000年3月24日、鹿児島大学理学部地学科最後の卒業生を送り出しましたので、このホームページはこの日をもってフリーズしました。もう更新しません。悪しからず。
 なお、「かだいおうち」は日本における大学研究室ホームページの第1号です。歴史的遺産としてここにアーカイブしておきます。

地球温暖化


ミランコヴィッチサイクル|氷河融解説を検証する|氷河湖に変身|地上気温の経年変化|アメダスによる気温変動|二酸化炭素濃度の経年変化|日本上空のオゾン層|地球温暖化の影響|地球温暖化対策通信簿|総理府世論調査|鹿児島市におけるヒートアイランド現象|地球温暖化防止京都会議|サンゴ白化現象|1998年地球表面平均温度

◆ミランコヴィッチサイクル

 最近は地球温暖化問題が国際政治にまで大きな影響を与えています。しかし、1970年代までは地球は氷河期に向かっているというのが定説でした。セルビアの地球物理学者ミランコヴィッチは、今から数十年前、地球公転の軌道要素が永年変化することに着目して、気候変動の天文学理論をうち立て、地球表面の日射量が2~10万年スケールの長周期変動を行うことを明らかにしました(左図)。当時は検証不可能な仮説としてあまり受け入れられませんでしたが、1970年代に太洋底堆積物や極の氷床コアの研究から実証され、劇的な復活を遂げたのです。それによると氷期と間氷期との温度差は約10度程度とのことですから、今問題になっている地球温暖化も、こうした自然のゆらぎの範囲内の現象だと説く人もいます。
 われわれの採るべき道は二つあると思います。先ず何よりも、一面的な仮定に基づくシミュレーションではなく、もっと地道な実証的研究の積み重ねが必要です。一方、研究結果がどうであれ、人間活動が自然に大きなインパクトを与えているのも事実ですから、転ばぬ先の杖として、温室効果ガスの削減に努めることも大切なのではないでしょうか。

氷河融解説を検証する

 地球が温暖化すると、極地方の氷河が溶けて沿岸低地が水没すると言われています。本当でしょうか。まず北極の氷河や氷山など海に浮いている氷が溶けても、海水は増えません。摂氏0度の水が氷になると体積が約11%増加することは良く知られています。だから氷山は水に浮くのです。その氷山が水に戻ったからといって、海面が上昇したりしません。問題は陸地にある氷です。アルプスやヒマラヤにある氷河の絶対量はごく少ないので、無視して差し支えありません。結局、南極やグリーンランドの大陸氷河が問題になります。しかし、南極は夏でも全域マイナス10度以下ですから、気温が数度上がったとしても溶けません。冷蔵庫の設定温度をマイナス10度からマイナス5度にしても、水浸しにならないと同じ理屈です。それどころか、南極で降雪があるのは夏ですから、温暖化で夏の期間が長くなれば、年間降雪量は増え、かえって氷河の体積は増加する可能性さえあります(野上道男,1999)。
 以下の野上さんの論文を参照してください。地理学の視点から世に風靡している俗論に異議を唱えておられます。
野上道男(1999):地理的発想と地球温暖化問題. AERA MOOK「地理学がわかる。」171-175, 朝日新聞社.

氷河湖に変身

 グリーンピースによると、アラスカ南東部にある北米最大の氷河ベーリング氷河が解けて、ビタス湖(面積70km2)はじめいくつかの巨大な湖が形成されているそうです(讀賣新聞1997.7.28夕刊)。グリーンピースはこれを地球温暖化を裏付ける劇的なケースと言っています。

◆地上気温の経年変化

 気象庁(1996)によれば、地上気温は、長期的には全球平均で100年に約0.6度の割合で上昇しているそうです(左図)。とくに北半球の1970年代以降の気温上昇率が群を抜いています。わが国も例外ではなく、100年に約0.9度の割合で上昇しています(右図)。
 なお、降水量の変化は全球的にはあまり顕著ではありませんが、地域的な偏りがあり、ユーラシア大陸中北部の増加傾向、アフリカサヘル地方の顕著な減少傾向が認められます。

◆アメダスデータから見た気温変動

 1974年以降アメダスAMeDASが全国展開されましたが、上図はアメダスによる季節別平均気温の変化(1976年~1995年)を10年当たりの変化量で示しています。一見して全国的な暖冬傾向が認められます。また、北海道・東北の暖冬・冷夏傾向も見て取れます。

◆二酸化炭素濃度の経年変化

 こうした世界的な温暖化傾向はCO2など温室効果ガスの増加によるとされています。左図はCO2の月平均濃度の経年変化図です。有名なハワイマウナロアと南極におけるデータに岩手県三陸町綾里の観測結果を重ねたものです。産業革命以前の平均濃度は約280ppmvで、1994年は358ppmvでしたから、約30%増加しています。綾里でも1987年の観測開始以来、約1.6ppmv/年(0.5%/年)の割合で増加し続けています。また、メタンも同様、18世紀以前の約70ppbvに比べて、1994年は1721ppbvで約2.5倍になっています。
<注>
 ppmv: parts per million by volume(100万分の1容積比)
 ppbv: oarts per billion by volume(10億分の1容積比)

◆日本上空のオゾン層

 気象庁では札幌・つくば・鹿児島・那覇・南鳥島の5個所でオゾン層の観測をしています。左図はオゾン全量の年平均値の変化を示しています。長期減少傾向が認められます。高度別に見ると、各地とも対流圏で増加傾向、下部成層圏で減少傾向が見られるそうです。
 なお、生体に有害なB領域紫外線日射(UV-B)の地上到達量も観測しています。天気に激しく影響されるため、はっきりした傾向はわかりませんが、晴天時だけをとると、オゾン量の減少に対応してUV-B量の増加が認められるそうです。

◆地球温暖化の影響

 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)(1995)では、二酸化炭素が倍増し平衡に達した時の状況を次のように想定しています。
  1. 全森林面積の1/3で植生に変化が生じ、森林消失によって大量のCO2が大気中に放出される。
  2. 水循環に大きな変化が生じ、乾燥・半乾燥地域の水資源が大きな影響を受ける。
  3. 食糧生産量としては増産・減産の両地域があり、全体としては影響はないが、熱帯・亜熱帯、乾燥・半乾燥地域では生産量が低下して、最貧地域で飢餓の危険が増大する。
  4. 海面が現在より50cm程度上昇すると、沿岸で高潮被害を受ける人が現在の4,600万人から倍増する。
  5. 生物媒介性の伝染病(マラリア・デング熱・高熱病・ウイルス性肝炎など)が増加する。また、コレラなどの非生物媒介性伝染病も増加する可能性がある。

◆地球温暖化対策通信簿

 気候変動枠組み条約の特別会合が1997年3月3日からボンで開かれます。これに先立ち世界自然保護基金(WWF)が先進20ヶ国の取り組みを3段階で評価した温暖化対策通信簿を発表しました(左図:南日本新聞による)。表の上から、「CO2排出量を2000年に1990年のレベルに戻せるか」「2000年以降の緊急な対策を求めているか」「1人当たりCO2排出量(1992年)」「国別CO2総排出量(1992年)」の順です。日本は、1人当たりCO2排出量が黄色なだけで、あとは全部不合格の赤、結局、下から3番目の国です。ちなみにオーストリアが最優秀国で、アメリカは全部不合格だそうです。

◆総理府世論調査

 総理府は1997年6月「地球温暖化問題に関する世論調査」を実施しました。それによると、温暖化に危機感を抱いている人が82.2%もいるのに、その対策費が家庭の負担増につながるのを仕方がないと考えている人は32.1%に過ぎないとのことです(南日本新聞1997.9.28)。なお、CO2対策として自動車の性能を規制してもよいと考えている人は多いそうです。

◆鹿児島市におけるヒートアイランド現象

 鹿児島市の人口は1997年11月1日に55万人を突破しました。文字通り押しも押されぬ地方中核都市です。しかし、人口増に伴って顕著なヒートアイランド現象も起きています。鹿児島地方気象台福田佳男観測課長によると、1951年以降、鹿児島市内の最低気温上昇率は100年に3.79度の割合だそうです。地球温暖化の影響を差し引いても鹿児島市は0.3度余計に上昇しているとのことです(南日本新聞1997.11.25)。なお、同じく100年間の最低気温上昇率は、東京で4.9度、福岡で5.3度ですから、鹿児島はまだましなのかも知れません。

◆地球温暖化防止京都会議

 1997年12月11日、地球温暖化防止京都会議が「京都議定書」を採択して閉幕しました。温室効果ガスを先進国全体で1990年比約5%削減することになりました。詳しく見ると、EU-8%、米-7%、日・加-6%、露0%、豪+8%などとかなりでこぼこがあります。
 鹿児島県でもこのまま推移すればCO2排出量は2000年に340万トンになり、1990年比25%増となるのだそうです。この事態を受けて、県ではローカルアジェンダ21を策定すべく準備に入っているとのことです。

◆サンゴ白化現象

 1998年9月になって、種子島西岸・トカラ列島中之島沖・鹿屋市高須海岸・桜島沖など鹿児島近海でサンゴに白化現象が起きていることが次々と報告されています(写真は南日本新聞1998.9.2)。海水温が高くなって、共生していた褐虫藻が逃げ出したため、栄養失調になったのが原因とのこと。直接的には今夏の異常な猛暑と台風による海水のかく乱がなかったことに起因しているようですが、地球温暖化の前触れなのでしょうか。

◆1998年地球表面平均温度過去最高

 アメリカ海洋大気局(NOAA)は、1998年1年間の地球表面平均温度が14.4度を記録し、1880年の観測開始以来最高だったと発表しました。NASAの佐藤研究員によると、これはエルニーニョ現象だけでは説明できず、地球温暖化の影響によるとのことです。

引用文献(上記グラフ類の出典)

気象庁編(1996):『地球温暖化監視レポート1995』 大蔵省印刷局, 47pp.
安成哲三・柏谷健二編(1992):『地球環境変動とミランコヴィッチサイクル』 古今書院, 174pp.


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更新日:1999年6月4日