2000年3月24日、鹿児島大学理学部地学科最後の卒業生を送り出しましたので、このホームページはこの日をもってフリーズしました。もう更新しません。悪しからず。
 なお、「かだいおうち」は日本における大学研究室ホームページの第1号です。歴史的遺産としてここにアーカイブしておきます。

姶良カルデラ壁の土石流災害


姶良カルデラ壁での土石流災害|JR日豊線の運転規制基準|吉野台地での学術ボーリング|吉野台地の地下水理|地下水観測結果|行政監察

姶良カルデラ壁での土石流災害

 姶良カルデラ壁、とくに鹿児島市竜ヶ水地区と垂水市牛根麓地区では、しばしば土石流災害が発生します。1993年の豪雨災害でも日豊線竜ヶ水駅ではJRの列車が2両潰れましたし、国道では数百台の車が立ち往生しました。夜間、海上からの救出騒ぎがあったことは記憶に新しいところです。この付近では10年弱に1回は犠牲者を出すような大災害が発生しています。写真左上、黄緑色の草地が1977年の崩壊跡です。この災害では9名の犠牲者を出しました。

JR日豊線の運転規制基準

 前述の大災害時には、保線区長の勘で運転中止命令が出され、被害を最小限に食い止めることが出来ましたが、JRの基準ではまだ運転中止の雨量には達していなかったのだそうです。
 上記の災害後、JRでは運転規制基準を改めました(左図)。連続雨量と時間雨量を加味して規制するやり方です。でも降雨量だけによる基準ですから、これでは気象屋さんだけいればよくて、地質屋さんも砂防屋さんも土木屋さんも用なしです。もちろん、基準値を決めるに際しては、地質地形条件なども考慮したのでしょうが。

吉野台地での学術ボーリング

吉野台地(●印がボーリング位置)[(株)パスコ提供]
竜ヶ水地区地質図
 カルデラ壁ですから、上の写真のように台地は反対側に傾斜しているため、ここの沢の集水面積は極めて小さいのですが、出てくる沢の水は考えれないほど多量です。つまり、地下水が関与しているのです。実際、地質図に示されているように、流域内に湧水点が何個所も確認されています。少なくとも吉野火砕流(溶結凝灰岩:樺色)下底と玄武岩(藍色)下底の2層準に帯水層がありそうです。
 そこで、竜ヶ水の上の崖っぷちにボーリングを実施して多段式水位計を設置すると共に、沢の出口でも流量観測を行って、地下水を考慮したもう少し実態に即した警報システムができないものかと考えました。幸い平成7年度の補正予算で科研費がついたため、手始めにオールコアボーリングを実施することにしました。
吉野台地での高密度電気探査
 同じボーリングをするなら、地下の水みちの真ん中にしたいものです。先ず高密度電気探査を実施しました[(株)パスコ実施]。上図の青色のところが比抵抗の低いところ、つまり、水分を多く含んでいるところです。矢印のところにボーリング位置を選定しました。

 約200mボーリングを実施し、オールコアを採取する[(株)アーステクノ実施]と共に、ボアホールテレビでも観察しました[(株)建設技術研究所実施]。上のコア写真は地下水の出だした深度付近の花倉層最上部層です。また、テレビでは地下水が滲み出てくる様子や、安山岩の節理から水が抜け出ていく様子が鮮明に見えました。
 引き続き上記の水位および流量の長期観測を実施し、このデータをオンラインで市役所火山防災対策課に集中して、的確な警報が出せるようなシステムを構築したいと、県や市と相談しているところです。

吉野台地の地下水理

 左図は上記のボーリング(KU-2)や温泉ボーリングのデータから推定した吉野台地の地下構造です(横田原図)。基盤(四万十層群)との不整合面はカルデラ中心部のほうに傾斜していますが、新しい地層は逆の方向に傾斜しています。ですから、普段は地下水はカルデラと反対の方向に流れているはずです。豪雨の時、とくに先行降雨が大きくて地面が飽和状態にある時には、カルデラ壁のほうにオーバーフローしてきて、土石流を引き起こすのではないでしょうか。現に普段は水無し沢なのに豪雨時だけ流れる沢がたくさんあります。

地下水観測結果

 幸い鹿児島県土木部のご好意で、ボーリング孔に多段式水位計を入れていただきました。左図は1997年7月~8月の観測結果です。7月7~10日に日雨量数10mmを超す雨が降り、7月17日にも50mm程度の降雨がありました。ご覧のように普段竜ヶ水谷はほとんど水が流れていませんが、雨が降ると水が流れます。当然、雨量と流量には相関があります。しかし、地下水位の増加は多少ずれます。平常よりも2m上昇したのが7月23日頃で、それが10日ほど続きました。それよりさらに遅れて、7月30日頃から雨も降っていないのにかなり大量の水が流れ、しばらく続きました。
 以上の観測結果は、やはり予想を裏付けるものです。降雨後、じんわりと地下水が上昇し、さらにしばらくしてから河川の流量が増えるのです。1993年の土石流災害の時も、JRの運転規制基準では通行可の雨量だったのに土石流が発生したのは、こうしたからくりがあったからなのでしょう。気象台発表の雨量だけを頼りに警報を出すのは考えものです。これからも観測を続けて、降雨→地下水位→河川流量の関係を解明して、より実用的な警報システムにしたいと考えています。

行政監察

 1998年7月16日、九州行政監察局は鉄道の防災対策の現状を監査した結果、竜ヶ水地区については豪雨時に土石流のおそれがあるとして、九州運輸局に早急に指導するよう要請したそうです。(1998.7.17付南日本新聞)

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更新日:1998年7月17日