2000年3月24日、鹿児島大学理学部地学科最後の卒業生を送り出しましたので、このホームページはこの日をもってフリーズしました。もう更新しません。悪しからず。
なお、「かだいおうち」は日本における大学研究室ホームページの第1号です。歴史的遺産としてここにアーカイブしておきます。
骨材資源
コンクリート文明と骨材|
日本の骨材資源|
骨材資源の地域性|
粗骨材の地質条件|
細骨材の地質条件|
アルカリ骨材反応|
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鹿児島の骨材資源
コンクリート文明と骨材
現代はコンクリート文明の時代と言われています。超高層ビルやダム・橋梁など、どれ一つとってもコンクリートなしには存在し得ません。現代土木技術はコンクリートに支えられているのです。コンクリート工学という独立した学問分野があるくらいです。しかし、コンクリートは純然たる人工物ではありません。セメントに砂利や砂などの骨材と水を混ぜて作るからです。もっともそのセメントも元はと言えば、石灰岩と頁岩起源の粘土を焼いて作ったものです。結局、コンクリート文明も天然資源に依存していたと言えましょう。
今、その骨材資源が不足しています。高度成長期に過剰採取され、環境に著しい悪影響を与えたため、1964年以降、さまざまな規制が行われるようになったからです。アルカリ骨材反応という言葉をお聞きになったことがあると思います。良好な砂利が少なくなって、アルカリ分に富む材料を使った結果です。砂などの細骨材も不足しています。川砂はもうとっくになくなりましたし、塩分を含んでいて厄介な海砂も、少なくなっています。最近、海砂の盗掘がしばしば新聞紙上に登場するのも、やはり不足気味だからなのです。砂など砂漠に行けば無尽蔵にあるではないかと思われるかも知れませんが、そう簡単ではありません。砂漠は大陸中央部にあるため、運搬にコストがかかりすぎてペイしないのです。21世紀は骨材の面からも資源制約に直面しています。
日本の骨材資源
骨材は単価が安く重いので、消費地の近くで生産されます。したがって、生産される骨材の岩石種は、その地域の地質に強く影響を受けます。とはいっても岩石なら何でもよい訳ではありません。コンクリート用にしろ道路の路床材にしろ、固くて割れにくく擦り減りにくいことが要求されます。比重・空隙率・含水率・硬度・強度などの物理的性質がJIS基準を満たしていなければなりません。左図は砕石原料岩石の生産比率(1986)を示しています(小野,1988)。砂岩と安山岩が圧倒的に多いことがわかります。前者は中・古生層分布域、後者は北海道や九州などの活火山地域や日本海沿岸のグリーンタフ地帯で使われています。その他、石灰岩が石灰岩台地の存在する地方で生産されています。
生産量は景気に左右されますが、年間約8億トンも生産されています。1960年代までは川砂利がほとんどでしたが、1970年代以降砕石の占める割合が増え、現在ではほぼ6割に達しています。
骨材資源の地域性
それでは具体的に地域性を見てみましょう。これらのグラフは1993年生コンクリート製造業実態調査報告書から作りました。粗骨材の中で砕石の占める割合には、明らかに西高東低の傾向が認められます。大きな河川がないからでしょう。しかし、近年粗骨材の砕石への移行は関東・東北にも急速に及んでいるそうです。
細骨材に関しても、東西で明確に異なります。西日本が海砂に依存している様子がわかります。東日本も良好な川砂が少なくなって、山砂の比重が高まっています。
粗骨材の地質条件
コンクリート用砕石の材質基準 (JIS A5005) |
比重 | 2.5以上 |
吸水率 | 3%以下 |
安定性 | 12%以下 |
すりへり減量 | 40%以下 |
5mmふるいに85%以上とどまる骨材と定義されています。俗に砂利と言われるものです。しかし、普通コンクリートとダムコンクリートに使用する粗骨材としては若干異なり、前者は20~5mm、後者は150,80~5mmです。最大限充填することのできる体積割合を実績率と言いますが、粗骨材の場合60%程度です。実績率は粒子の形状や粒径分布に左右されますから、こうした要素が重要な意味を持ちます。もちろん、上述のように、固くて割れにくく擦り減りにくいことが求められるのは当然です。砕石の場合、表のような基準が設けられています。一般に、比重が大きいほど、吸水率やすりへり減量が共に小さくなる傾向があります。
細骨材の地質条件
10mmふるいを全量通過し,5mmふるいを85%以上通過する骨材と定義されています。いわゆる砂です。骨材としてみた場合には、a)堅固である、b)石質が安定している、c)粒形が丸みを帯びている、d)粒度が適切、e)清浄の5条件を満足していることが求められているそうです(川上,1982)。砂の粒度組成については、粗粒率が2.6~3.1の範囲で、粗粒砂の卓越した砂が細骨材として適切であると言われています(有田,1988)。その点、川砂は理想的でしたが、今では資源が枯渇して山砂や海砂に頼るようになってきました。とくに西日本では細骨材資源の大部分を海砂に依存しています。海砂は塩分を含むため、鉄筋を腐食させますから、よく洗浄することが求められていますが、不十分な例も多く、西日本の構造物が比較的新しくても、劣化が激しいと言われている原因の一つになっています。その他、海砂には貝殻や軽石(とくに九州)など非骨材物質の混入もあり、その上、海洋環境破壊などを引き起こすため、いろいろ問題が多いのです。将来的には、大陸棚のより深い部分へ資源を求めざるを得なくなるでしょう。
アルカリ骨材反応
セメント中のアルカリと骨材中の珪酸が反応して、コンクリートにひび割れなどを生じる現象をアルカリ骨材反応といい、近年問題になっています。こうした反応を起こしやすい鉱物には、オパール・玉髄・クリストバル石・燐珪石・火山ガラスなどがあります。したがって、流紋岩・安山岩・玄武岩・凝灰岩のような火山岩やチャート・熱水変質した岩石などが要注意です。
写真は鹿児島市内のある建物です。巨大な建物なので、いろいろなところの骨材を使用したそうですが、使用骨材の違いによって、健全なところとひび割れのひどいところと出たそうです。
鹿児島で砕石として利用されているのは、四万十層群の砂岩や緑色岩あるいは第四紀の安山岩などです。安山岩には細かな柱状節理や板状節理が発達しているため、小割りする手間がかからないなどの利点もあります。火山岩頸(火山が噴出した時のマグマの通路)などでは柱状節理が発達していますから、しばしば砕石場になっています。
<関連サイト>
<参考文献>
- 小林一輔(1999): 『コンクリートが危ない』 岩波新書616, 230p.
- 川内砕石編(1999): 『環境保全型土木用新材料―その特性と施工―』 南方新社, 78p.
- 中井 裕(1980): 『新版 砕石』 技術書院, 313p.
- (社)日本砕石協会(1999): 『21世紀を迎える砕石業の経営戦略化ビジョン―新しい経営像と新市場構築を求めて―』 (社)日本砕石協会, 144p.
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更新日:1999年12月2日