冨山清升の博士論文研究の概要

1987〜1990年(博士論文研究)

博士論文研究のテーマ「アフリカマイマイの繁殖生態の研究」

【要旨】 有肺類に属するカタツムリは動物では珍しい同時的雌雄同体生物である。有肺類の繁殖については多くの研究があるが、進化生態学的観点から繁殖行動を研究した例はまったくない。

アフリカマイマイは東アフリカを原産地とする大型の有肺類で、日本では琉球列島と小笠原諸島で繁殖している。本種は野外での繁殖行動の観察が容易であることから行動生態学の研究材料として適している。しかし、その生態に関しては膨大な研究例があるにもかかわらず、本種の繁殖行動に関する研究はない。私は本種の成長,成熟,交尾行動,および卵形成などの調査をおこない、今まで未知であった本種の繁殖生態を明らかにした。

【成長と成熟】

本種は孵化後約2年成長を続け、成長を停止する。成長停止をするサイズは非常にばらつきがある。成長停止の有無は殻口部の厚さを測定することによって推定し、成熟のを解剖によって確認した。その結果、本種は孵化後約1年で生殖器が形成され繁殖をおこなうようになるが、殻の成長はその後約1年継続する。殻の成長がおこなわれている間は精子の生産しかせず、卵形成をおこなわない。成長の停止と共に活発に卵形成をおこなうようになり、完全な雌雄同体となる。一腹卵数は3〜200個で、一腹平均卵体積は35〜80mm3とどちらも他の有肺類に比して非常にばらつきがある。一腹卵数は他の有肺類に比して著しく多い。一腹卵数と一腹平均卵体積には地域や季節による相違はなかった。一腹卵数と一腹平均卵体積には体長と相関があった。本研究では生殖器未形成のものを「未成熟個体」、繁殖をおこなうが成長中のものを「亜成熟個体」、成長が停止して卵形成もおこなっているものを「成熟個体」と3つに区分した。 

【移動行動】

亜成熟個体と成熟個体の移動様式の違いを明らかにするために、電波標識法を用いて移動行動の調査をおこなった。本種は夜行性であり、一日の移動距離は個体の成熟程度によって異なっていた。未成熟個体は直線的に長距離移動する傾向があり、6カ月で直線距離にして約500m移動した個体もあった。しかし、亜成熟個体と成熟個体はほぼ決まったを持ち、その位置も6カ月間著しくずれることはなかった。ほとんどの個体は重複したを持つので、本種にはなわばり性はない。亜成熟個体は成熟個体に比べてより広い範囲を動きまわるのに対し、成熟個体は定住性が強く、明確な帰巣性もみられた。

【交尾行動】

本種は雌雄同体であるが自家受精はおこなわない。したがって、卵を受精させるためには交尾をし、交尾相手から精子をもらう必要がある。交尾は夜間に行われ、交尾時間は平均約4時間であった。交尾時間の長さは注入した精液量と相関していた。本種の交尾前行動は一連のきまった行動に様式化することができた。交尾は求愛する側と求愛を受け入れる側とで行動様式がまったく異なっていた。求愛後、交尾に成功する交尾対は10%程度であった。交尾の拒否は大半が求愛を受け入れる側によって行われた。交尾の成功・不成功を決めている要因は体長の発達状態であった。求愛を受け入れる成熟個体は、交尾相手として体長が大きな個体を選択していた。亜成熟個体は相手に注入する精液量が成熟個体よりも多かった。亜成熟個体(求愛することが多い)も体長の大きな個体を交尾相手として選択していた。成熟個体・亜成熟個体共に、体長が著しく異なる交尾対では交尾が不成功に終わることが多かった。亜成熟個体は成熟個体に比し交尾回数が多く、より頻繁に求愛行動をおこなっていた。

《考察》

有肺類は一般に同時的雌雄同体とみなされているが、本研究で明らかになったようにアフリカマイマイでは雄性先熟的性表現を示した。つまり、殻の成長がまだ行われている状態で生殖器を形成し、精子の提供で繁殖を行う。すなわち、本種は他の有肺類には例の少ない、成長と生殖器形成のがずれた成長様式をもつ。亜成熟個体は精子の生産でしか繁殖投資ができないので、オス的にふるまう。このため、卵を生産できる個体を求めて、より広い範囲を動きまわり、頻繁に求愛し、数多くの個体と交尾するといった繁殖行動をとっているものと考えられる。それに対し、成熟個体は卵と精子の両方の形で繁殖投資ができるためオス的にもメス的にもふるまえる。成熟個体は交尾相手を求めて徘徊することに-を費やすよりも定住的になって交尾相手がやってくるのを待つ行動様式をとっているものと思われる。また、成熟個体・亜成熟個体共に交尾相手として産卵数の多い個体を好んで選ぶよう、交尾拒否行動を発達させていると考えられる。


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