冨山清升の研究概要

1995年〜1997年


小笠原諸島の移入動植物による固有生物相への影響

冨山清升(鹿児島大学・理学部・地球環境科学科)

日本生態学会誌
Viol.48 No.1: 63-72
1998年4月

はじめに


生物地理学的な分類では、島嶼は、大陸島と大洋島の2種類に分けられている。

大陸島とは、大陸周縁部に存在する島を指し、過去に大陸部と陸続きになった歴史があり、動植物相も近隣の大陸と関連が深い。

スンダ列島など東南アジアの多くの島嶼やアンチル諸島などのカリブ海の島々、日本列島や琉球列島は大陸島に分類できる。

これに対し、過去に他の陸塊と繋がった歴史のない島を海洋島という。

ガラパゴス諸島やハワイ諸島は海洋島の代表的な例であり、日本では、大東諸島や小笠原諸島がこれに当たる。

海洋島では、生物が地質学的年代で長期間にわたって隔離される機会が多いため、なんらかの手段で海を渡って島にたどり着いた生物は島内で独自な進化をとげ、多くの固有種が分布する例が多い。

また、島に生物が到達する機会が限られるため、動物・植物共に特定の分類グループに偏った生物相が形成される場合が多い。

さらに、長距離分散や定着の困難さから生物相のニッチが空いている場合が多いこと、哺乳類・爬虫類の捕食者や大型草食獣の欠如のためにそのような動物に対する耐性を持たずに進化している場合が多いこと、生態系の構成要素が貧弱なために食物連鎖が極めて単純であること等の理由で、大洋島の生態系は一般に外来の生物の攪乱に対して極めて脆弱である(CARLQUIST 1974)。


 日本で代表的な海洋島である小笠原諸島も、過去数百万年にわたって他地域から隔離されてきたため、域内で動植物が独自の進化をとげ、多数の固有種が分布している。

例えば、種子植物は309種のうち約40%が固有種であり、樹木に限れば、112種のうち約71%が固有種もしくは固有亜種で構成されている(伊東 1992)。

昆虫類では約800種のうち約31%が固有であり(加藤 1992b)、移動能力の低い陸産貝類では、移入種と化石種を除いた約90種のうち約94%が固有種で占められている(冨山・黒住 1992)。

地域の動植物相がこれだけ多くの固有種で占められる地域は、日本では小笠原諸島以外には存在しない。

しかし、1830年の入植以来、小笠原諸島の固有生態系は開拓によって痛めつけられ、また、数多くの動植物が持ち込まれてきた。

これらの移入動植物の中には小笠原に定着し、現在も小笠原固有の生態系を破壊し続けている種が少なくない。

他の海洋島の生物と同様に、小笠原の固有種生物も、生息地破壊や外来生物による捕食や競争などによって、その数を急速に減らしつつある。


 このような、海洋島における固有生態系の破壊という観点から、小笠原諸島の移入動植物の現状を紹介してみたい。


 小笠原諸島とは、正確な地理学用語では火山列島や南鳥島、沖ノ鳥島を含む広範囲な島々を指すが、本文では、地質学的な年代が古く、独特な固有生物相を持つ、聟島列島・父島列島・母島列島を擁する小笠原群島に属する島々を便宜上「小笠原諸島」と呼ぶことにする。


小笠原諸島の自然の現況


 小笠原諸島の自然林は、主として父島列島の乾燥地域に見られる乾性硬葉低木林と、母島などの湿った地域に見られる湿性広葉高木林の、おおまかに2つの植生タイプに分けられる(SHIMIZU & TABATA 1991)。

しかし、これらの小笠原本来の自然植生は、母島のごく一部の地域と、兄島のような一部の島嶼にしか残存しておらず(清水 1989a)、大半の地域は過去の森林破壊の跡地に生える2次林で覆われている(大野・井関 1991)。


 小笠原に自生している維管束植物約450種のうち固有種とされているものが145種あるが(ONO et.al 1986)、レッドデータブックで絶滅危惧種もしくは危急種とされている種が85種と固有種の58%に達している(小野 1994)。


 小笠原諸島からは約120種の陸産貝類が記録されているが、移入種と化石種を除いた約90種のうち、約70%が現在では絶滅してしまっている(冨山 1992)。

小笠原固有種4種のうち、生き残っているのはメグロApalopteron familiaris のみで、オガサワラガビチョウ Turdus terrestris 、オガサワラマシコ Chaunoproctus ferreirostris 、オガサラワカラスバト Columba versicolor は19世紀に絶滅してしまった(鈴木 1991)。

現在、小笠原で繁殖が確認されている陸鳥は15種に過ぎない(千葉・船津 1991)。

昆虫類は記載されて以来、生息が再確認できない種が多数あり(加藤 1992b)、その大半が絶滅したものと推定される。ここ10年間に限ってみても、父島ではトンボ類の大半の種が絶滅してしまっており、母島のカミキリムシ類で再記録できない種も多い(槙原 1987)。


 以上のように小笠原諸島の大半の固有動植物は絶滅の危機にさらされる状況になっている。

環境庁が1997年8月に発表した「絶滅の恐れのある植物リスト(日本版レッドデータブック)」にも、小笠原の植物種が数多く収録されている(清水 1997)。

国際自然保護機構の編集によるレッドデータブックには、小笠原諸島の固有動物のうち陸産貝類の大半が掲載されている(THE WORLD CONSERVATION UNION 1996)。


小笠原諸島の自然破壊の要因


 このように小笠原諸島の動植物が危機的な状態になった原因は、直接的・間接的な人の影響であるが、海洋島生物の特性でもある外的環境の変化に対する脆弱さも一つの要因となっている。

自然破壊が小笠原諸島で特に顕在化した原因は、生息環境の変化や破壊による外的要因と、小笠原固有種が持つ海洋島生息種としての特性に由来する内的要因の2つに大別できる(冨山 1995)。


外的要因で真っ先にあげられるのは、人為的な森林破壊であろう(船越 1992a)。

19世紀後期の開拓による徹底した森林破壊のために、20世紀初頭には小笠原諸島の自然林はほぼ壊滅状態になっていた(清水 1989b)。

外的要因には、他に人為的要因として移入動植物・農薬散布・密猟などが(冨山 1995)、自然要因として気候変化による乾燥化や台風倒木による急激な植生変化などが、挙げられるが(SHIMIZU 1992)、森林伐採という人為的行為が小笠原諸島の自然破壊の最大の要因である事実は疑いようがない(冨山 1997)。

森林破壊の次に大きな自然破壊の要因として、人間が持ち込んだ動植物による生態系破壊が挙げられる。

以下、小笠原諸島の固有生態系を破壊している移入生物を動物と植物に分けて、その現状を要約してみよう。


移入植物

小笠原諸島には人間の移住と同時に多くの植物が持ち込まれ、栽培もしくは植樹されてきた。そのような植物の中には小笠原諸島に定着できた種も少なくない。

現在の小笠原諸島で移入植物の生えていない地域はないといっても差し支えない(清水 1989b)。

その点で大きな破壊を被りながらも山地に手付かずの自然植生を残しているハワイ諸島とは大きく異なる(CARLQUIST 1974)。

小笠原諸島では、1890年代以降、造林事業が計画的に行われるようになり、外来樹種が積極的に導入された(船越 1992a)。

導入された樹種の中には、小笠原諸島で繁殖して、森林の中に入り込んでいる種もある。移入植物がは繁茂している森や地域には、小笠原諸島本来の動物は極端に少ない(冨山 1990)。


a.ギンネム Leucaena leucocephala

 ギンネムの小笠原諸島への導入は古く、1862年に江戸幕府によって行われた文久の開拓事業の際に初めて持ち込まれたとされている(阿部 1864)。

大正年間以降、初期の開拓によって荒廃した裸地を緑化するための事業が営林局によって進められたが、この際、積極的にギンネムの植林が行われた(船越 1987)。

父島と母島では、裸地が形成されると、真っ先にギンネムが繁茂し、数年で一面のギンネム林になってしまう。ギンネムは他感作用物質を出して他種の成長を阻害する働きがあるため、ギンネム林に侵入して新たに生育できる種は、シマモクセイ Osmanthus insulari やタコノキ Pandanus boninensis などのごく少数種に限られる。

このため、ギンネム林は放棄畑や軍施設跡地などに妨害極相林として成立してしまっている(船越 1986)。

反面、ギンネムは、原生林に侵入することはなく、小笠原諸島本来の樹種が生育しにくい急斜面地にも生育して、土壌流亡を防いでいる。

1986年頃からのギンネムキジラミ Heteropsyra cubana の大発生によって、ギンネム林が急速に枯死しつつある現象も観察されている(木村 1989)。

ギンネムの急激な枯死による裸地化によって、母島の急傾斜地では崩落が生じ始めている。


b.リュウキュウマツ Pinus luchuensis

 リュウキュウマツは薪炭材として沖縄地方から導入された。現在は、ヒメツバキ Schima mertnsiana と並んで小笠原諸島の2次林の優占種となっている(SHIMIZU & TABATA 1991)。

乾燥地や乾性低木林に生育しているが、陽樹であるため、親木の周りでは稚樹が育たず、在来種に対する影響は少ない。

むしろ、乾燥地でも突出した林冠を形成して乾燥化を防ぐため、林床に生育する在来種の保全に役立っている側面もある。

1979年に始まり、父島島内に急速に広まったマツノザイセンチュウ Bursaphelenchus xylophilus による被害では、発生から4年でリュウキュウマツの大木の約80%が一斉に枯死してしまい(清水 1984)、リュウキュウマツ・ヒメツバキ林からリュウキュウマツの欠けたヒメツバキ林へと林相が変わった。

1983年11月に小笠原を直撃した17号台風はヒメツバキの林冠にも大きな損傷を与えたため、明るくなった林内にはアコウザンショウ Fagara boninsimae やウラジロエノキ Trema orientalis などの陽樹が一斉に発芽し、森林の組成が急速に変化してしまい、多くの固有種が個体数を減らしてしまった(清水 1987)。


c.アカギ Bischofia javanica

 アカギは1910年頃薪炭用の有用樹木として沖縄地方から導入されたが、小笠原諸島本来の植生を破壊する樹種として最も警戒すべき種である。

アカギはもっぱら小笠原諸島の湿性地に生育し、鳥によって種子が散布される。本種は比較的耐陰性があるため、小笠原諸島本来の原生林の中にも侵入し、特に母島の森林はアカギの林に置き換わりつつある(清水 1988)。

母島の学術保護林として湿性タイプの林が保護されてきた桑木山一帯は、アカギの大木が生い茂る林に変容してしまっている。

また、絶滅危惧種を含む小笠原固有植物の自生が集中する母島石門地区にもアカギが侵入し急速に勢力を拡大しつつある。

アカギは他感作用物質を出しているという説もあり、アカギの林床には他種の植物がほとんど生育していない(清水 1994)。

現在、森林総合研究所が中心となって、アカギを駆除する方策が検討されており、今後の研究・事業の展開に期待したい。


d.シマグワ Morus australis

シマグワは、明治期に養蚕のための有用樹種として、八丈島から導入されたという。

種子が鳥によって撒布されるため、現在、小笠原の2次林に広く分布している。

小笠原諸島には、本来オガサワラグワ Morus boninensis という別の固有種が、湿性タイプの林を構成する樹種として自生していた。

オガワサワラグワは直径2mを越える巨木も多数生育していたようで(小笠原島庁 1883)、年輪が2000年以上数えられる木もあったという(豊田1981)。

しかし、明治初期の森林大濫伐時代に有用樹木としてその大半が伐採されてしまった(船越 1992a)。

小笠原では、固有種のオガサワラグワに、外来のシマグワの花粉が受粉してしまい、父島や母島のオガサワラグワはすべて雑種である可能性が高いという(岩槻・下園 1989)。

特定地域の固有種もしくは固有亜種の生息地に交配可能な近縁の外来種が導入されて、雑種が増加してしまい、本来の種が絶滅に追いやられる例が、多くの動植物で知られている。

絶滅に至らないまでも、外来種との交配によって、本来の遺伝特性が失われてしまう場合が多く、小笠原のシマグワとオガサワラグワの交配は遺伝子汚染の典型例であろう。


d.その他の植物


小笠原諸島には主として明治期に数多くの樹木が導入された(豊島 1922)。

モクマオウCasuarina equisetifolia やソウシジュ Acacia confusa は、乾燥した2次林を中心に広がっている。

チトセラン(とらのお) Sansevieria nilotica やメダケ Pleioblastus simoniiは土壌流亡した不毛地の緑化植物として積極的に移植され、父島の大神山や三日月山などで岩櫟地に生育している。

シイ類などのブナ科の樹種の移植も試みられたが、種子散布であったため、根菌類の存在しない小笠原諸島では生育できなかった。

ガジュマル Ficus microcarpa やアコウFicus superba var. japonica は島内各地の集落跡地に多く生えているが、受粉に関与するイヌビワコバチ類がいないために結実せず、繁殖はしていない。

最近、ガジュマルを結実させるコバチが父島に入ったという情報があり(大川内私信)、ガジュマルの繁茂が危惧されている。

大戦前の集落跡地には、インドゴムノキ Ficus elastica 、オレンジの一種 Citrus sp. 、マンゴー Mangifera indica 、ビンロウ Areca catechu 、クジャクヤシ Caryota urens 、ダイサンチク Bambusa vulgaris 、などが見られるが自生地は拡大していない。

キバンジロウ Psidium cattleianum は湿性の二次林で繁茂し、林冠のかなりの部分を占めるにまでなっている(清水 1987)。

マンゴスチンの一種Garcinea sp. が父島の桑木山西側の湿性二次林で繁殖している。


草本類では、小笠原諸島から149種の移入種雑草が記録されている(榎本 1992)。

アオノリュウゼツラン Agave americana 、セイロンベンケイソウ Bryophyllum pinnatum 、ホナガソウ Stachytarpheta jamaicensis 、シチヘンゲ (ランタナ)Lantana camara 、サイザルアサ Agave sisalana などは、乾燥地の裸地に繁茂している。

また、父島の放棄畑跡地などでは、ジュズサンゴ Rivina humilis 、ヤハズカズラ Thunbergia alata 、アイダガヤ Bothriochloa glabra haenkei 、コウセンガヤ Chloris radiata 、ムラサキカタバミ Oxalis corymbosa 、パパイヤ Carica papaya 、ダンチク Arundo donax などが目立つ。

観葉植物として持ち込まれたシマクワズイモ Alecasia cucullata やゲットウ Alpinia speciosa 、シュクシャ Hedychium coronarium は天然林の湿性地に繁茂している。

母島や父島の一部の湿地には食用として持ち込まれたミズイモ Colocasia esculenta が繁茂している。

シュロガヤツリ Cyperus alternifolius は湿地を中心に繁茂している。デリスDerris ellipticaは殺虫剤を作るために導入されたつる性の木本であるが、伐採跡地や放棄畑跡地を中心に繁茂している。

父島や母島の裸地には、まっさきにこれらの移入植物が侵入して繁茂している。

これに対して、小笠原諸島本来の自然生態系が良好に保存されている兄島では、畑地跡などの裸地には、シマギョウギシバ Digitaria platycarpha やシマカモノハシ Ischaemum ischaemoides 、ムニンナキリスゲ Carex hattoriana などの固有種草本類が生えている(船越 1992b; 清水 1991)。


移入動物

移入動物による小笠原諸島固有生態系の攪乱も進行している。

移入動物による攪乱は、植食性動物による植物の食害、固有動物の直接捕食、固有動物との競争排除などが挙げられる。


a.ヤギ Capra aegarus

ヤギの小笠原への移入の歴史は古く、18世紀には欧米捕鯨船が食料用として放したらしい(高橋 1989)。

1853年に日本に開国を迫ったペリーの艦隊が小笠原に立ち寄った時には、既に弟島に数千頭のヤギが生息しており、岩角に鈴なりの状態であったとの記録がある(WILLIAMS 1910)。

現在、ヤギは聟島列島と父島列島の各島々で繁殖している。1992年の段階で、聟島(面積307ha)で1040頭、媒島(158ha)で500頭という非常な高密度で植生を破壊している(市川 1992)。

特に媒島では森林破壊の結果、表土が流亡しつつあり、一部は岩盤が露出するまでになっている。

ヤギによる森林破壊は小笠原では以下のような経過を経て生じている(清水 1993)。

ヤギの生息密度が一定以上になると、食害によって稚樹が生育できない状態になり、森林の更新が停止する。成木が主に台風によって倒れるとそのまま裸地となる。

このため、風害を受けやすい林縁部から徐々に森林が縮小していく。1992年には干ばつが続き、媒島では水に飢えたヤギがウドノキ Pisonia umbellifera の大木を直接噛り倒すという被害も観察された。

森林が消失し、草原化した後、オキナワミチシバ Chrysopogon aciculatus のような根の深い移入草本が自生している聟島などでは草地がヤギの被食圧に耐えて草原が維持されているが、コウライシバ Zoysia tenuifolia などの根の浅い草本しか自生していなかった媒島では、食害による裸地化が急速に進行して土壌流亡が加速されている。

媒島では流出した赤褐色の土が海岸に流入し、海岸生物相が壊滅状態となっている。

媒島では、土壌がすべて流出してしまい岩礫地になった不毛地が拡大しつつある。放牧による植生破壊の結果、表土が流亡してしまい、岩だけの状態になってしまった不毛地は東島や南島にその典型例が見られる。

南島では1970年から1971年にかけてヤギの一斉駆除が行われた。その後の南島での植生回復には著しいものがある(豊田ら 1993)。

ヤギによる被害は森林破壊が見た目には派手で目立つが、父島や兄島では、ウチダシクロキ Symplocos kawakamii 、ウラジロコムラサキ Callicarpa nishimurae、オオハマギキョウ Lobelia boninensis 、ユズリハワダン Crepidiastrum ameristophyllum 、オガサワラアザミ Cirsium boninense などの特定の固有種に被害が集中しており、これらの絶滅危惧種の減少を加速している(船越1992b;小野 1994)。

1997年から環境庁の事業で、野生化ヤギの被害が著しい媒島でヤギの根絶作戦が展開されている。


b.ブタ Sus scrofa

ヤギとならんで、小笠原諸島へのブタの移入も歴史が古い。

ペリー艦隊が小笠原諸島を訪れた際に、父島と兄島に多数の野生化ブタがみられたというから(WILLIAMS 1910)、ヤギと同様に捕鯨船が食料補給用に放したものが起源なのだろう。

現在は、野生化ブタは弟島にのみみられる。ブタは、土をほじくり返して食物を探索するという習性を持つため、弟島の林床はいたるところブタによって堀り返されている。

このため、弟島の林床生物相はかなりのダメージを受けており、特に、固有種の陸産貝類は直接被食によって壊滅状態となっている(冨山 1991)。


c.その他の哺乳類


 父島や母島ではペットとして飼育されていたネコ Feris catus の一部が野生化して自然林を徘徊している。

母島のネコの糞には、メグロやメジロ Zosterops palpebrosa など羽毛が多数混入しており、糞は羽色のために緑色を呈している。ネコによる鳥類の捕食圧はかなり高いものと推定される(上田ら 1992)。


小笠原諸島では自然林に完全に野生化したクマネズミ Rattus rattus が生息しており、聟島、父島、母島に多い(矢部・松本 1980)。

自然の林で野生化クマネズミが見られるのは日本では小笠原だけではなかろうか。

クマネズミによる直接食害は、固有種の陸産貝類で観察されている。クマネズミの巣には、多数の殻頂部をかじられた陸産貝類が見られる(冨山 1990)。

タコノキ Pandanus boninensis の実も相当数がクマネズミによって食害されており(岡 1991)、植物への直接被害も大きいものと推定されるが、具体的な報告例が乏しい。

小笠原には他にイエハツカネズミ Mus domesticus も野生化している(矢部1992)。


1968年、小笠原諸島が日本復帰した当初は、弟島と父島に野生化ウシが、父島にマリアナジカ Cervus mariannus が生息していた。

弟島ではウシによる植生の草原化も記録されている(蓮尾 1970)。

弟島のウシは島民によって定期的に食用として捕獲されていたが、現在では両島の集団とも消滅している。

マリアナジカも現在は見られない。

兄島には1960年に14頭のアナウサギが放され、一時期繁殖もしていたが、現在は消滅している。

これはオガサワラノスリ Buteo buteo toyoshimae の捕食によるものと推定されている (船越1992b)。


1989年頃、観光用にタイワンリスを父島に導入しようという計画が持ち上がったが、識者の反対により立ち消えになった。


e.グリーンアノール Anoris carolinensis

フロリダ原産のグリーンアノールは、ペット用としてグアム島経由で1970年頃に父島に持ち込まれた。

母島には同じくペットとして1970年代に父島から持ち込まれた(宮下1980)。

両島で、生息地を拡大しつつあり、1991年の段階で、父島では最南部のごく狭い範囲を除いて全島に生息地を拡大してしまった。

グリーンアノールは、小笠原本来のトカゲであるオガサワラトカゲと競合関係にあり、オガサワラトカゲ Cryptoblepharus boutoniはその生息数を減らしている(宮下 1991)。

グルーンアノールは小笠原の固有種昆虫類を多数捕食しており、母島の固有種カミキリムシ類の減少の主要因ではないかとされている(槙原,1987)。

父島ではグリーンアノールを捕食するイソヒヨドリ Monticola solitariusやモズ Lanius bucephalus が増えている(鈴木 1991b)。


f.オオヒキガエル Bufo marinus

 1940年代に米軍の軍事物資と共にオオムカデが小笠原に侵入し、不快害虫として被害をもたらした(高野 1991)。

1949年にオオムカデの捕食者として10匹のオオヒキガエルがサイパン島から父島に導入された。

母島には1974年にオオムカデ退治のために父島から移入された。

小笠原でのオオヒキガエルの繁殖シーズンは3月から11月までの長期間におよび、一雌が一回に3万個もの卵を産むなど極めて増殖率が高い。

また小笠原には有力な捕食者が存在しなかったこともあって、父島では全島に高密度に増えてしまった(宮下1980)。

現在、オオヒキガエルは主に父島と母島の平地部で繁殖しているが(草野ら 1991)、小笠原本来の土壌動物をかなり捕食している。

近年は、河川改修によって産卵地が減少し、生息数を減らしている(冨山 1997)。


g.鳥類

小笠原諸島で記録のある鳥類は約150種であるが、この中で繁殖が確認された種は26種に過ぎず、陸鳥は15種と少ない。

小笠原諸島には過去、鳥類が外部から侵入する機会は多かったであろうし、定着できなかった多くが絶滅していったであろう。

現在も外部からの鳥類の侵入と定着のプロセスは繰り返されているらしい。

例えば、メジロは飼育鳥として人間が持ち込んだもので、日本人が本格的に入植する1900年代までは生息していなかったとされている。

兄島に「野鶏」が生息していたという記録があるが(小花 1863)、現在は見られない。

また、人為的移入種でない鳥でも近年新たに小笠原諸島に定着できた種も存在する。

トラツグミ Turdus dauma は1945年以前には記録がなく、大戦後に定着したものと推定されている。

ごく最近では、1985年以降、モズが父島に定着している(千葉1992)。

トラツグミは土壌動物を捕食し(鈴木1991c)、モズは昆虫類やトカゲ類を捕食している(鈴木 1991b)。

このような新たな鳥類の定着によって生物相も何等かの影響を受けていると推定できる。


h.その他の脊椎動物

父島には、一部の池にミシシッピーアカミミガメ 、ミナミイシガメ、ウシガエルが生息している。

オガサワラヤモリやホオグロヤモリは人間活動によって持ち込まれたとされているが(長谷川 1992)、その詳細は不明である。

ブラーミニメクラヘビは父島に生息しているが、人為活動で土壌と共に持ち込まれたものと推定されている(長谷川 1992)。

ニホンマムシ Agkistrodon blomhoffi が日本本土から父島に導入されたという記録があるが(東京府 1929)、定着していない。

小笠原には大きな河川がないため純淡水性の魚類は分布していなかったが、現在では、一部の河川に外来のカダヤシ Gambsia affinis が生息している。

父島の八瀬川や大村川の河口付近には東アフリカ原産のナイルテラピアOreochromis niloticus も繁殖している。


i.セイヨウミツバチ Apis mellifera

セイヨウミツバチは、養蜂用として明治初期に導入された。現在、日本で飼育されているセイヨウミツバチの大半は、小笠原諸島から分蜂されたものである。

日本本土では、スズメバチ類の捕食圧によってセイヨウミツバチは野外に定着できないが、小笠原諸島にはスズメバチ類が生息していないため、父島と母島、兄島の一部で繁殖している。

セイヨウミツバチは小笠原諸島固有のハナバチ類と競争関係にあり、父島では大型のオガサワラクマバチ Mesotrichia ogasawarensis を除く在来種を駆逐してしまっている。

一方、セイヨウミツバチがあまり定着していない兄島では、固有のハナバチ類相が良好に保全されている。

父島や母島でセイヨウミツバチが定着した原因としては、蜜資源として、ホナガソウ、ギンネム、セイロンベンケイソウなどの移入植物の繁茂が挙げられる。

父島では在来の送粉昆虫の絶滅によってムニンタツナミソウ Scutellaria longituba などの一部固有植物種の結実が阻害されている。

植物と送粉昆虫のパートナーシップという側面からも父島・母島の自然は著しく劣化しているといえる(加藤 1992a).


j.その他の節足動物


 オオムカデ Scolopendra subspinipes subspinipes は、1945年に小笠原諸島を占領した米軍の物資に混じって父島に侵入したものと推定され、同島で昆虫類を捕食している(高野 1991)。

小笠原諸島に移入した昆虫類のうち、農業害虫は比較的良くモニタリングされている。

ミカンコミバエ Dacus dorsalis は東京都の防除事業によって1985年に根絶された。

現在、サツマイモを食害するアリモドキゾウムシ Cylas formicarius とイモゾウムシEuscepes postfasciatus が特殊病害虫として小笠原諸島に定着している。サトウキビやヤシ類を食害するカンショオサゾウムシ Rhabdoscelus obscurus 、バナナを食害するバショウオサゾウムシ Cosmopolites sordidus 、ヤシ類に被害を与えるキムネクロナガハムシBrontispa longissima 、野菜に被害を与えるミナミアオカメムシ Nezara viridula なども定着している。

1980年代に太平洋全域ではギンネムに寄生するギンネムキジラミHeteropsyra cubana が分布域を拡大し、1986年には小笠原でも大発生し、現在でも定着している。

ナミアゲハ Papilio xuthus は、裸地の先駆植物であるアコウザンショウFagara boninsimae を食草として大発生している。その他、ヤガ科の蛾類やアザミウマ類も10数種が害虫として定着している(小谷野・竹内 1992)。


1990年から大型狩りバチであるチャイロネッタイスズバチ Delta pyriforme ssp. が父島に定着し(山根 1991)、固有種昆虫類への影響が危惧されている。

この他に、硫黄島を含む小笠原諸島には、Xylocopa sonorina(新大陸系のクマバチ)、ナンヨウチビアシナガバチ Ropalidia marginata sundaica 、 Pachodynerus nasidens (新大陸系のドロバチ)が侵入あるいは定着しており、今後のなりゆきが注目される(山根 1991; YAMANE et.al1996)。


父島には大戦後、古材木に紛れてイエシロアリ Coptotermes formasanus が侵入し、住宅などに深刻な被害を及ぼしている。

父島の自然林の枯木もほとんどがイエシロアリによって食害されており、小笠原諸島の固有甲虫類の中で高い割合を占める材木穿孔性甲虫類(中根1992)と競合していると推定される。


ジョウジョウバエ類は、これまでに8属27種が小笠原諸島から記録されているが、固有種10種以外は、移入・定着・絶滅が繰り返されている。

父島と母島での平衡種数はそれぞれ15、20種程度であり、父島では3-6年ごとに、母島では約4年に1種の割合で種の置き換わりが起きている(戸田・松長 1991)。


k.アフリカマイマイ Achatina fulica


アフリカマイマイは1935年に薬用として父島に導入された。1936年には特殊病害虫の指定を受け、以後、その移動は厳しく禁じられている。

小笠原諸島では、母島・弟島・東島・兄島で繁殖した記録があるが(MEAD 1960)、現在では,母島と父島でのみ繁殖している(冨山 1987)。

母島では一部絶滅危惧植物を食害するという被害が報告された(小林 1987)。

本種は殻長15cmを越える大型の陸産貝類であるが、1960年代から70年代にかけて父島の林縁部では1m×1mに100個体以上という高密度で生息し、農作物に被害を与える大害虫として猛威をふるった。

しかし、1987年頃から急速に減少し、今ではわずかに生息が認められる程度にまで減っている(冨山 1997)。

本種の個体数が激減した正確な原因は不明だが、沖縄を含む太平洋地域一帯で減少していることから、なんらかの天敵・病気の定着・流行が想定されている。

ノミバエの一種が幼貝を捕食しているという報告(冨山 1995)もあるが定かではない。


アフリカマイマイが生息している地域には固有陸産貝類はまったく生息していない。

生息場所や食物の競合が主たる要因と考えられるが(冨山 1991)、直接生息を阻害している可能性も高い。

本種の粘液には、他感作用物質があるらしく、本種の粘液で小笠原固有種の死亡率が著しく増加する(冨山 1994)。


アフリカマイマイは温暖期には10日から2週間の周期で産卵を繰り返すが、小笠原では十分に成長した個体は1回に平均100個程度産卵する(TOMIYAMA 1993a)。

これに対して、固有陸産貝類の繁殖率は著しく低い。小笠原固有陸産貝類として代表的なカタマイマイ類Mandarina spp. は、巨大な卵を1回に1個だけしか産卵しない(黒住 1988)。

それも毎年産卵はしていないようだ(冨山 1991)。

島嶼の動物では、強い種内競争のために、産卵数を減らして子のサイズを大きくするような選択圧がかかる例が多いとされているが(MACAHUR & WILSON 1967)、一腹卵数が1という例は陸産貝類でも稀である。

他には、ハワイ諸島のハワイマイマイ類(TOMPA 1984)や琉球列島のリュウキュウギセル類(UESHIMA 1993)で知られているくらいであろう。


アフリカマイマイは、半年で500m以上移動できる能力を持っている(TOMIYAMA 1993b)。

これに対して、固有種のカタマイマイ Mandarina mandarina は、年間を通してほとんど移動しない。

小笠原諸島では、原生林に隣接した2次林でもほとんど固有陸産貝類が生息していない(黒住 1988)。

これは、一度植生が回復した後で、原生林からの固有種の再侵入と定着がまったく行われていないことを示している(冨山 1990)。

本土の二次林での陸産貝類の回復が非常に速やかである事実とは対照的である(冨山 1991)。


また、海洋島の陸産貝類は、成熟するまでに長時間を要する例が多い。

ハワイマイマイ類 Achatinella spp. は性成熟するまでに10数年もかかることが知られている(Kobayashi & Hadfield 1996)。

小笠原諸島の固有種でも、オガサワラヤマキサゴ類Ogasawarana spp. は殻の生長が極端に遅く繁殖までに数年かかる(冨山 1994)。

これに対してアフリカマイマイは小笠原諸島では孵化後1年足らずで繁殖を開始する(TOMIYAMA1993a)。


アフリカマイマイは、自然林には生息せず、人為的に攪乱された畑地やヤブ、林縁部に高密度で生息するという習性を持つ(冨山 1991)。

このため、森林破壊の進んだ父島や母島で大繁殖できたものと推定できる(冨山 1992)。

これに対して、小笠原の固有種陸産貝類は、固有樹種の落葉に強く依存しており、外来樹種の落葉で飼育した場合、著しく成長率が落ちることが判っている(冨山 1994)。


海洋島では単系統群の陸産貝類種群が適応放散によって、細かいニッチ分化を示す例が多い。

小笠原諸島の固有種陸産貝類では、エンザガイ類 Hirasea spp. 、オガサワラヤマキサゴ類、カタマイマイ類でこのような傾向が著しく形態的にも生態的にも適応放散を示している (千葉 1991;冨山・黒住 1992)。

生息場所にも、樹上性や地表性、岩礫地性、落葉性、団粒土壌性、草地嗜好、湿性林嗜好、乾性林嗜好、等々の細分化が生じている。

狭い地域での生息場所環のさらなる細分化は、各種の生息できるニッチ範囲がそれだけ狭い事を示唆しており、したがってこうした種は環境の激変に脆弱であると推定できる(冨山1991)。

これに対して、アフリカマイマイは、環境の安定した自然林以外の地域では、地理的にも環境的にも、広い範囲に生息している。


父島ではアフリカマイマイが繁殖することで、野外における死殻の量が極端に増加した。

小笠原諸島には4種のオカヤドカリ類が生息していたが、父島のオカヤドカリ類Coenobita spp. はアフリカマイマイの殻を利用することで体サイズが巨大化している(林ら 1990)。

これは、本来は貝の殻という資源が体サイズの限定要因となっていた地域に、本種が殻資源を多量に持ち込んだ事によって生じた一種の攪乱現象であろう。


l.その他の陸産・淡水産貝類

小笠原諸島では、アフリカマイマイ以外にも約20種の移入陸産貝類が記録されている(冨山・黒住 1992)。

特に、オナジマイマイ Bradybaena similaris とヤマナメクジ Meghimatium fruhstorferi は広く二次林に生息しており、固有陸産貝類の強力な競争相手になっていると推定できる(冨山 1991)。

移入種が生息する場所には固有種はほとんど生息していない(冨山,1991)。

母島の原生林にはオナジマイマイがかなり侵入している(黒住 1988)。

ヤマヒタチオビガイ Euglandina rosea は、北米フロリダ地方を原産とする肉食性陸産貝類で、アフリカマイマイの天敵として、1960年代にハワイ経由で導入された(MEAD 1979)。

しかし、結果的にはアフリカマイマイの防除にはほとんど役に立たず、むしろ固有種の捕食が深刻である(冨山 1991)。

ヤマヒタチオビガイは同様に太平洋の各島にもアフリカマイマイの天敵として安易に導入され(MEAD 1979)、ハワイ諸島ではハワイマイマイ科、ポリネシア諸島ではポリネシアマイマイ類 Partula spp. 絶滅の主要原因になっている(MURRAY et.al 1988;KOBAYASHI & HADFIELD 1996)。

小笠原には固有淡水産貝類としてはオガサワラカワニナの1種のみが分布している。

父島や母島の河川にはサカマキガイ Physa acuta 、インドヒラマキガイ Indoplanorbis exustus が生息しているが、人家付近に限られる。

父島ではスクミリンゴガイ Pomacea canaliculata が飼育されていたが、定着することなく1986年頃に駆除された。


m.その他の動物


アフリカマイマイの天敵として有名なニューギニア産の陸生コウガイビルの一種Platydemus manokwariが1990年頃から父島に定着してしまっている(冨山 1995)。

このコウガイビルは陸産貝類にとって極めて強力な捕食者で、グアム島近辺の小島で行われた実験では、島に生息していた陸産貝類を完全に全滅させた(MEAD 1979)。

あまりにも固有生物相に対する影響が甚大であるという理由で導入天敵としては使用が躊躇されてきた種である。

どのような経緯で父島に本種が移入されたのか今のところ不明であるが、近い将来、父島の固有陸産貝類が絶滅させられてしまうことが強く懸念される。


小笠原諸島には現在、9種のミミズ類が分布していることが知られているが、そのすべてが、人間活動によって侵入した種である。

ミミズ類は現在の小笠原土壌動物群集で主要な位置を占めるが、ミミズが侵入する以前の小笠原の土壌動物群集は、現在とはまったく異なったものであったと推定できる(NAKAMURA 1994)。


おわりに


以上のように、小笠原諸島の生態系は人間が入植して以来わずか170年の間に、さまざまな移入動植物によって攪乱され続けてきたし、今後もその圧力が弱まる事はないであろう。

アカギの定着にともなう固有植物の駆逐に代表されるように、小笠原諸島を含む海洋島の固有生態系は外来の移入種に対しては極めて脆弱である(CARLQUIST 1974)。

小笠原諸島のような海洋島の自然を保全する方策としては、本土の各地で行われている以上のより厳重な保全政策が求められる。

1997年になってようやくヤギの根絶事業が実施されたが、このような施策は依然極めて不十分である。

また、新たな動植物の導入も、特殊病害虫を除いて1997年現在でも野放し状態である。

捕食性コウガイビルの定着に代表されるような新たな移入動植物の定着も進行している。

小笠原諸島では、これ以上の動植物の持ち込みを規制する新たなルール作りと、移入動植物の動態を監視するモニタリングの確立、および、侵入した動植物の駆除方法の確立と実行が求められている。


また、小笠原諸島には大小あわせて約180あまりの島嶼が存在するが、人間による直接的な自然破壊や移入動植物による攪乱の程度は島によって異なっている。

聟島列島、弟島、父島、西島、母島などは移入動植物による被害が深刻であるが、兄島や向島、妹島などには小笠原本来の生態系がうまく保存されている。

したがって、移入動物の被害が大きい島々では、その防除対策と生態系復元に重点を置き、小笠原本来の生態系が保存されている島々ではその厳重な保全と外来生物の侵入防止に重点を置くいったように、島によっても現状に対応して保護施策を違える細かな保全計画が強く求められる。


最後に、小笠原諸島の固有生物種を含む動植物の研究は、これまではおもに新種記載や分布報告に代表されるような分類学的生物地理学的見地からのエクスペディション型の研究が多かった。

今後は、このような立場の研究に加え、島の生態系をより深く解明する長期的視野に立った研究が求められる。


謝辞

本小文の原稿に目を通して下さった、山根正気、鈴木英治(鹿児島大学理学部)、清水善和(駒沢大学自然科学教室)、小笠原の生物保全事業に関する情報を寄せて下さった大川内勇(森林総合研究所)、小笠原の移入植物に関して情報を下さった船越眞樹(信州大学理学部)の各氏に御礼申し上げます。


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