2000年3月24日、鹿児島大学理学部地学科最後の卒業生を送り出しましたので、このホームページはこの日をもってフリーズしました。もう更新しません。悪しからず。
 なお、「かだいおうち」は日本における大学研究室ホームページの第1号です。歴史的遺産としてここにアーカイブしておきます。

トンネルと地質


トンネルの地質条件|節理と岩盤|シラストンネル

◆トンネルの地質条件

 菊池 寛の小説『恩讐の彼方に』で有名な大分県の「青の洞門」です。僧禅海が、鎖渡しの難所を通らずに済むよう、衆生済度のために30年の歳月をかけて掘ったと言われています。耶馬渓層の凝灰角礫岩ですから多少柔らかいので、ノミでも掘れたのでしょう。このように昔から、トンネルは急峻な山岳地帯をショートカットするために盛んに掘られました。
 しかし、1996年2月にあった北海道古平町の豊浜トンネル事故のようなことが起こっては困ります。これはトンネル内部の落盤ではなく、上部の巨大岩塊がロックシェッドを押しつぶした稀な例ですが、掘削中の落盤事故や出水事故は絶対に起こしてはいけません。当然、硬い岩盤が良いのですが、断層や節理などがなるべく少ないほうが望ましいのです。とくに開口亀裂が問題です。水を伴うことが多いからです。落盤と出水による丹那トンネルの生き埋め事故が有名です。吉村 昭の小説『闇を裂く道』に克明に描かれています。
 また、閉じている亀裂であっても、その方向が落盤しやすい方向か否かが重要になります。ステレオ投影法を応用したキーブロック理論が使われています。要するに2系統の節理面の交線が手前側に傾斜していると、その2面で形成されるくさび状の岩塊が落ちてくる可能性があるという訳です。その他、地中深く掘られたところでは地圧のために側壁が剥がれて飛ぶ山ハネ現象も危険ですし、膨張性泥岩では、側壁や天盤が膨れ出す盤ぶくれも問題になります。

◆節理と岩盤

 北海道豊浜トンネルは水中火砕岩のところに掘られています。陸上で冷えた溶岩や溶結凝灰岩のように、冷却節理(冷える時に出来る割れ目)が発達していないので、トンネルや地下空洞に適した岩盤だと言ってよいと思います。串木野国家地下石油備蓄基地(左写真)も同様の岩石の中に作られています。しかし、その割れ目の少ない点が裏目に出て巨大な岩塊が生産されたのです。
 陸上で冷えたものはこのような柱状節理(兵庫県玄武洞:玄武岩の名前もここに由来)が発達し、落石が生産されやすいので厄介ですが、小さなものが頻繁に落ちるため、大災害にはなりません。柱状節理の太さは岩石の温度や化学成分に依存するため、一概には言えませんが、概して酸性岩ほど細く、溶結凝灰岩は溶岩に比べて太いようです。北海道層雲峡では溶結凝灰岩の転倒崩壊(トップリング)による災害が発生しています。
 この写真は国会議事堂の石を切り出したとして名高い議院石の石切場(広島県倉橋島)です。これは広島型花崗岩ですが、このように地下深部で冷えた深成岩は大まかな立方体に割れます。硬いし割れ目も少ないので、トンネルには適した岩石です。愛媛県菊間や岩手県久慈市の国家地下石油備蓄基地も花崗岩中に作られています。ヨーロッパでは放射性廃棄物の地層処分場としても利用されています。

◆シラストンネル

 鹿児島に多いシラスは岩石と違って柔らかいので、トンネルには適していないと避けられてきました。実際、戦時中防空壕掘りで生き埋め事故が頻発したそうです。しかし、最近ではNATM(New Austrian Tunnelling Method)工法が取り入れられるようになって、安全に施工できるようになりました。少し掘削するごとに直ちにコンクリートを吹き付けたり、ロックボルトで締めたりして、トンネルの壁変位を制御して、地山の緩みを安全に抑える工法です。写真は1988年に完成した国道3号バイパス武岡トンネルです。シラスは水の浸食に弱いので、事前に地下水観測を行い、地下水面上のドライなところを選んで作りました。


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更新日:1997年3月22日