伊藤稔 (Minoru ITOH)

理学部2号館4階419号室
鹿児島大学理学部 数理情報科学科

in English

論文

  1. Explicit Newton's formulas for $\mathfrak{gl}_n$, J. Algebra 208 (1998), 687--697.
  2. On central elements in the universal enveloping algebras of the orthogonal Lie algebras, Compositio Math. 127 (2001), 333--359. (with Tôru Umeda)
  3. Capelli elements for the orthogonal Lie algebras, J. Lie Theory 10 (2000), 463--489.
  4. A Cayley--Hamilton theorem for the skew Capelli elements, J. Algebra 242 (2001), 740--761.
  5. Correspondences of the Gelfand invariants in reductive dual pairs, J. Austral. Math. Soc. 75 (2003), 263--277.
  6. Capelli identities for the dual pair $(O_M, Sp_N)$, Math. Z. 246 (2004), 125--154.
  7. Capelli identities for reductive dual pairs, Adv. Math. 194 (2005), 345--397
  8. Two determinants in the universal enveloping algebras of the orthogonal Lie algebras, J. Algebra 314 (2007) 479--506.
  9. Two permanents in the universal enveloping algebras of the symplectic Lie algebras, Internat. J. Math. 20 (2009), 339--368.
  10. Schur type functions associated with polynomial sequences of binomial type, Selecta Math. (N.S.) 14 (2009), 247--274.
  11. Extensions of the tensor algebra and their applications, Comm. Algebra 40 (2012), 3442--3493.
  12. A $q$-analogue of derivations on the tensor algebra and the $q$-Schur-Weyl duality, Lett. Math. Phys. 105 (2015), 1467--1477.
  13. Invariant theory in exterior algebras and Amitsur-Levitzki type theorems, Adv. Math. 288 (2016), 679--701.
  14. Twisted immanant and matrices with anticommuting entries, arXiv:1504.04689v2, to appear in Linear Multilinear Algebra.

研究紹介(学生さん向け)

研究室には折り紙で作った多面体の模型がいろいろあります (そういうのが好きな方はどうぞ見にいらしてください)。 これらは基本的には趣味で、研究に直接は関係ないのですが、 でも「対称性」というキーワードでは関連しています。

最近の研究では、 いろいろな対称性を 代数で(足し算や掛け算などで)扱うことについて考えています。

対称という概念はなんとなくイメージできると思います。 線対称や点対称という概念は小学校で学びました。 正多面体は高い対称性を持った図形ですし、球はさらに高い対称性を持っています。 雪の結晶も、美しさの秘密はその対称性にあるように感じます。 図形以外にも対称性を持つものはいろいろあります。 対称性というのは 一定の操作・変換で変わらない性質のことといってよいでしょう。 極端にいうと、規則性と呼ばれているものの多くは 対称性と言い換えられるように思います。

代数というのは、 おおざっぱにいうと 演算を持つ体系のことです。 普通の数は、足し算・掛け算などの演算ができますから一種の代数です。 高校で学ぶ行列も、やはり独自の足し算・掛け算を持った体系ですから、 これもまた一つの代数です。 他にもいろいろな演算を持ついろいろな代数が考えられます。 それぞれの代数はそれ自身の対称性を持っています。 たとえば演算だけに注目しても、大抵の演算には 可換法則「xy = yx」や分配法則「a(x+y) = ax + ay」などの 何らかの規則性があります。 こういう規則性も広い意味での対称性といってよいと思います。

このような代数の対称性を利用して 世の中のいろいろな対称性をとらえられないか、 ということを考えています。 たとえば 「あるものがどんな対称性を持っているか」 「対称的なものにどんな性質があるか」 「ある対称性を持つものがどれくらいたくさんあるか」 といったことを計算で調べられないでしょうか。

以上は大体「表現論」という数学の分野の基本的な考え方なのですが(たぶん)、 以下ではもう少し私の研究に特徴的なことを述べます。

最近は演算の規則的な交換関係に惹かれています。 順番を入れ替えても変わらない操作は世の中にいろいろあります。 たとえば普通の数の掛け算は順番を変えても結果は同じです (3倍してから5倍しても、5倍してから3倍しても同じ)。 でもそうでない操作もたくさんあります。 たとえば3を足してから2倍するのと、2倍してから3を足すのでは 結果は一致しませんね。 こんなふうな二つの操作を入れ替えたときの違いや、 その違いの規則性(交換関係)に興味があります。 もう少し複雑な例を考えてみましょう。 xの函数f(x)に対して、まずxを掛け算してからxで微分するのと、 先にxで微分してからxを掛けるのとではどんな違いがあるでしょうか。 計算してみるとすぐわかりますが、 差はちょうどf(x)自身になります。 違う結果にはなりますが、 その「違い方」は非常に規則的です。 この微分と変数の掛け算の規則性は「正準交換関係」と呼ばれています。 こういう規則的な交換関係に魅力を感じるのです。 こういう規則性を利用して、何かの対称性をうまく扱えないでしょうか。

これまで私はカペリ恒等式という不思議な関係式について研究してきました。 カペリ恒等式というのは、いま述べたような微分や変数の掛け算に関する関係式で、 正準交換関係に由来する特徴的な形をしています。 このカペリ恒等式が 不思議な感じにある種の対称性を司っているように見えるのです。 たとえばこの関係式を見つめると「ある対称性を持つものがどれくらいたくさんあるか」 ということがわかってしまうのです。 いろいろと不思議な等式なのですが、そのしくみはいまひとつよくわかりません。 正準交換関係とカペリ恒等式の司る対称性は なんとなく関連しているような気もするのですが、 今はまだもうひとつよくわかりません。 私はこのあたりを明らかにして、 カペリ恒等式のように対称性を司る関係式を自分でも作りたいと思っています。 さらに最近は、 そういう関係式を持つような代数(対称性を司る代数?)を作りたいとも思っています。