2000年3月24日、鹿児島大学理学部地学科最後の卒業生を送り出しましたので、このホームページはこの日をもってフリーズしました。もう更新しません。悪しからず。
 なお、「かだいおうち」は日本における大学研究室ホームページの第1号です。歴史的遺産としてここにアーカイブしておきます。

廃棄物処分


廃棄物処分場問題|ゴミ問題の解決策|産業廃棄物処分場|鹿児島県の産業廃棄物|人工島計画|産廃住民投票|産廃世論調査|ゴミ地盤と示準化石|太古の廃棄物処分場|ドイツの処分場|城取ゴミ焼却場

◆廃棄物処分場問題

 人間が生活している以上、廃棄物は必ず出ます。廃棄物処分場反対運動もありますが、トイレのない家はありません。どこかに必ず作らなければならないのです。まさか他の町や他国に捨てる訳にはいきません。しかし、作るからには安全無公害の施設にする必要があります。間違っても地質汚染を引き起こすようなことがあってはなりません。地下地質や地下水理をきちんと調査した上で設計することが肝要です。写真は鹿児島市内某埋立処分場からの排水です。パイプの左側は清浄な水ですから、コントラストがはっきりしています。

◆ゴミ問題の解決策

 神奈川県川崎市の産業廃棄物を大隅半島に捨てるというので大問題になりました。産廃船が1ヶ月接岸できず、もめた末、川崎に持ち帰りました。誰でもゴミ捨て場の近くに住みたいとは思わないでしょうが、だから田舎に捨てればいいというのは都会人のエゴです。かといってゴミは毎日出る訳ですから、どうしたらよいでしょうか。もちろん、徹底してリサイクルをやり、ゴミの量を最小限に抑えることが先決です。
 それでもやはりゴミ処分場は必要です。東京都の「処分場建設反対日の出町民の会」の人たちは、水源地になっている山の中ではなく、左図のように街の真ん中、市役所の隣のコミュニティー広場にコンパクトな「ゴミ管理センター」を作る案を考えました。小規模分散型処理の考え方です。何時満杯になるか日々知らされますから、住民のよい教材となり、ゴミを安易に出さなくなるだろうという訳です。これも一つの見識ではないでしょうか。ただし、量的にこれで間に合うかが問題でしょうが。

◆産業廃棄物処分場

 廃棄物は家庭ゴミなどの一般廃棄物と産業廃棄物に分けられます。産業廃棄物最終処分場には3種類あります。安定型(上図右)は、有害物質を含まない安定5品目(廃プラスティック・ゴムくず・金属くず・ガラスくず・建設廃材)を埋めておくところです。廃棄物の流出・腐食防止のため、擁壁や堰堤を備えています。遮断型(上図左)は、基準を超える特別管理産業廃棄物(爆発性・毒性・感染性のあるもの)を埋めておくところですから、もっとも厳重な対策が求められます。地表水流入防止のための開渠とコンクリート外周仕 切壁が必要です。管理型(上図中)は、前2者の中間で、基準を超えない特別管理産業廃棄物の処分場です。コンクリートの代わりにゴムシートなどによって地下水汚染防止が図られています。このゴムシートが破れて地下水が汚染されるケースがままあり、しばしば社会問題化しています。写真は茨城県竜ヶ崎市に建設中の処分場ですが、底部に排水施設が設置されているのがよくわかります。なお、緑色の部分が厚さ1cmのゴムシートです。
 こうした廃棄物処分場建設に伴う地質調査も応用地質学の範ちゅうです。水を溜めるダムで培った知識や技術が役に立つに違いありません。地上の環境だけでなく地下の環境にも配慮した適地の選択が重要です。

◆鹿児島県の産業廃棄物

 鹿児島県における産業廃棄物の発生量は年間約1,000tです(1993年度)。家庭から発生する一般廃棄物が約108tですから、およそ9倍にもなります。その大部分が家畜の糞尿です。さすが畜産王国というべきでしょう。堆肥としての再利用や無害化など研究されていますが、コスト高が零細畜産農家の大きな負担になっています。中には林地にそのままばらまかれているひどい例もあります。
 なお、県外から搬入される産業廃棄物の量と搬入される量との比較は下表の通りで、搬出のほうがはるかに上回っています。川崎市は自分のところのゴミを他県に捨てに来てケシカランなどと、偉そうな口が利けないのが実情です。実は、九州管内で管理型最終処分場がないのは鹿児島県だけなのです。
産業廃棄物の種類別移動量(1991)
種 類搬入(t)割合(%)搬出(t)割合(%)
汚 泥5,89022.38,09124.8
動植物性残滓1,6176.1  
動物の糞尿1,1224.37,43922.9
廃酸・廃アルカリ4,32116.43,63311.1
廃プラスティック類12,91849.03681.1
廃 油4921.91,2873.9
ガラスくず等40.011,66935.8
その他100.01280.4
合 計26,374100.032,615100.0

◆人工島計画

 運輸省は鹿児島港中央港区に桜島の土石流土砂や建設廃土などを受け入れて廃棄物処分場を作るフロンティアアイランド事業の新規導入を決めたそうです(南日本新聞1997.8.28)。従来、多くの廃棄物処分場は河川源流部に作られるのが普通でした。人が住んでいない未利用地が多いからです。しかし、源流部では河川や地下水の汚染を引き起こす可能性がありますので、慎重な配慮が必要です。地質学の原理から言えば、上流は浸食地域であり、堆積物は必ず海底にたまるのです(大陸などでは例外的に山間盆地に堆積することもありますが)。その点から見れば、廃棄物処分場を海岸に作るのは地質学に適ってはいます。もちろん、海洋汚染を引き起こさないようにしなければなりません。海底生物への影響はあるでしょうが、どこかに必ず作らなければならない施設ですから、やむを得ない選択でしょう。

◆産廃住民投票

 1997年11月16日、宮崎県小林市で同市東方に建設中の産業廃棄物処理施設(写真は朝日新聞による)建設是非を巡る住民投票が行われました。結果は反対票が投票総数の58.69%を占めました。投票率は75.86%だったそうです(鹿児島新報1997.11.18)。産廃を巡る住民投票は岐阜県御嵩町に次いで2番目です。
 産廃処理施設はいわゆる“迷惑施設”ですから、住民投票をやればこうした結論になるのは目に見えています。かといって、どこかには必ず作らなければならない必要不可欠な施設です。さてどうしたものでしょうか。名案はありませんが、計画段階からの情報公開と徹底した議論が必要でしょう。反対を恐れて密かに計画し、突然力づくで建設する強権的なやり方も、頭から絶対反対で聞く耳も持たない姿勢も、両方とも生産的ではないと思います。

◆産廃世論調査

 南日本新聞社では、産廃処分場に関して世論調査を実施しました(1999.1.1付)。自分のまちに産廃処分場建設計画があった場合、情報公開など一定の条件付きも含め受け入れてもよいと答えた人が81%に上ったそうです(左図左)。また、県内産廃は県内処理すべきという答えは81.8%と高率でした(左図中)。現在、鹿児島県が県外からの産廃搬入を原則禁止していることに対しては、48.1%がおかしいと思っています(左図右)。なお、ゴミ減量のために何かしている人は94.2%もいました。
関連サイト南日本新聞ニュースフラッシュ(1999/1/1)

◆ゴミ地盤と示準化石

 ゴミの埋立地では、毎日人工の地層が形成されています。これは東京都の中央防波堤埋立処分場で行われているサンドイッチ工法の模式図です。ゴミの飛散・臭気拡散・害虫発生などを防止するために、ゴミの厚さが約3mになると50cmの覆土をする方法です。ゴミと土の互層ができる訳です。未来の地質学者は何層と名付けるでしょうか。年代を示す示準化石にはカルピスの瓶が有効だそうです。製造年月日が書いてありますし、悪くならないうちにすぐ飲むので、製造と廃棄の時間差が少ないからだとか。未来の博物館に、粗大ゴミなどが化石として展示されている様子を想像すると愉快です。真空管ラジオは20世紀前半、アナログ式カラーテレビは20世紀後半といった具合です。しかし、「浪費は美徳、飽食の時代などと言われていた悪しき日本の象徴」といった解説文が付くかも知れません。

◆太古の廃棄物処分場

 これは縄文時代の貝塚です。穴を掘って、食べた貝の貝殻を捨てたのでしょう。元祖廃棄物処分場と言えます。貝塚の中身を調べることによって、当時の人々の食生活や暮らしぶりがわかり、考古学の研究に大変貢献しています。

◆ドイツの処分場

 南日本新聞の特集記事(1999.1.16)によると、ドイツでは埋立処分場建設の第一条件に地質構造を挙げているそうです。水を通しにくい地層の上に、厚さ1mの粘土層を人工的に造り、さらにその上にシートを二重に敷くとのことです。
 わが国では、残念ながら管理型処分場でも薄いゴムシートを張っただけのものが大部分です。これでは固い物の角でも当たれば破れる可能性があります。なお、日本でもベントナイトなど粘土を処分場の底に敷き詰めるアイデアがあり、それを特許にしている会社もあります。

◆城取ゴミ焼却場

 人的被害を出した最初のゴミ焼却場として有名な茨城県の城取清掃工場は、1971年に完成した古いタイプのゴミ焼却場です(写真の煙突)。筑波台地の南端、竜ヶ崎中位面に位置しています。当時の焼却場は公害対策が不十分でしたが、その上老朽化が進んでいましたので、高濃度のダイオキシンが発生、深刻な被害を出しました。猛毒のダイオキシンを含んだ黒煙は、筑波おろしによって拡散し、主として南側の地区を汚染したのです。南側半径2km以内のすべての地点で土壌1g当たり5,000ピコグラムを超える高濃度のダイオキシン類が検出されました(宮田摂南大学教授による)。このため、新利根町根本地区や竜ヶ崎市塗戸地区ではガン死亡者が多発したといわれています。ガン死亡率の全国平均は28.5%ですが、焼却炉から1,130m以内の住民約650人中の死亡者57人のうち、ガン死は43.7%に上ったそうです(川名,1998)。なお、焼却灰は谷地に埋め立てられ、モトクロス場になっていました(上写真手前)。正面に見える崖を削って成田層の砂を覆土に用いたようですが、この谷地の下流にある小野川の汚染も心配です。
 また、焼却場に隣接する水田で大規模な圃場整備工事が行われていました(左写真)。単なる圃場整備ではなく、汚染対策が真の狙いだと推察されます。汚染した土壌を入れ換えるのか、新しい土を覆土して封じ込めるのか、さらには上下撹拌して濃度を下げようとしているのかわかりませんでした。竜ヶ崎市地内だけで行われており、もっと汚染のひどい新利根町では水田のまま放置されているのも問題です。風は行政区画と無関係に吹くのですから。
測定物質水道水の基準浅井戸水(20m)
水銀0.0005以下0.001
0.05以下1
ヒ素0.01以下0.1
マンガン0.05以下0.8
 1999年3月7日付朝日新聞(茨城県南部版)によると、工場周辺の地下水から水道水の基準を超す重金属類が検出され、飲用不適であることが判明したそうです。また、工場わき貯留池の沈殿土壌の分析でも、同様の重金属類が大量に検出されたとのことです。

参考文献

関連サイト
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更新日:1999年3月22日