1997年鹿児島県北西部地震
鹿児島大学震災調査団
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研究組織地震概要5月13日の地震地質概要アンケート震度災害ストレス|シラス谷埋め造成地の液状化|衛星画像でみる北薩の地形と震源域|被害統計|第2北西部地震被害統計|地震1周年講演会|報告書・論文等
 鹿児島大学内の災害科学関係者によって標記の調査団が結成され、現在鋭意研究に取り組んでいます。調査の途中経過など、このページを通じて逐次お知らせいたします。

研究組織

プロジェクト名称:1997年鹿児島県北西部地震の総合的調査研究
研究代表者:岩松 暉(理学部・地質学)
研究分担者:
地質…大木公彦・井村隆介(理学部・地質学)
地震…角田寿喜・宮町宏樹(理学部・地震学)・後藤和彦(理学部南西島弧地震火山観測所・地震学)
測地…田中 穣(理学部・火山物理学)
土木被害…北村良介・河野健二・吉原 進(工学部・土木工学)
建物被害…徳廣郁夫・皆川洋一(工学部・建築学)
文化財被害…土田充義(工学部・建築学)
斜面災害…下川悦郎・地頭薗隆(農学部・砂防工学)
リモートセンシング…木下紀正(教育学部・物理学)・石黒悦爾(農学部・農業物理学)
災害ストレス…久留一郎(教育学部・治療心理学)
経済的損失…松本 譲(法文学部・経済学)
研究費総額:300万円

地震概要

 理学部地球環境科学科の角田寿喜先生を中心とする地震グループでは、本震直後から現地に入り、余震観測を実施しています。以下、角田先生提供。

南九州の浅発地震列
 九州南部地域にはE-WまたはWNW-ESE走向の浅発地震列が見られます。1989年6月~1993年12月のデータをプロットしたものです。今回の地震もこうしたテクトニク場で発生しました。
 なお、気象研究所地震火山研究部石川有三さん提供のSEIS-PC for Windows95による震源地周辺の1900年以降の震央データはここをクリックすればご覧になれます。石川さんに感謝します。

発震機構
 角田先生が決定した地震のメカニズム解です。左図が今回の地震(1997年3月26日17時31分)で、右図は1994年2月13日2時6分にあった鹿児島県北部地震(大口地震)です。いずれも東西性の左横ずれ断層が動いたことを示しています。

余震分布
 過去に北薩地域であった地震の震央分布に、今回の余震域を重ね合わせたものです。東西に長く延びた地震列が今回の地震で、その北が1994年鹿児島県北部地震(M5.7)です。東方の大きな円は1968年えびの地震(M6.1)と1961年吉松地震(M5.5)の本震の位置です。

地震の発生パターン
 1日当たりの地震回数です。余震が急速に少なくなっています。典型的な本震―余震型を示しています。

主な余震
 下表は主な有感地震のリストです。東大地震研究所の大学院生が科学技術庁の強震ネット(K-NET)のデータを自動処理してインターネットに載せてくれたものです。ボランティアでやってくれているもので、地震研究所の公式発表ではありません。各余震の震度のところをクリックすると、図面と詳細なデータが見られます。

月日時刻 M
K-NETの地震波形から計算された震度
3/2617:316.26弱(阿久根,宮之城),5強(川内),5弱(横川,大口,国分,水俣,蒲生,日吉)
3/2617:395.34(大口,川内,宮之城),3(阿久根,出水,日吉,水俣,横川,上甑,喜入)
3/2618:054.74(宮之城),3(川内,大口,阿久根,日吉,横川,水俣)
3/2618:304.13(宮之城,川内)
3/2619:453.73(宮之城)
3/2621:154.43(上甑)
3/2622:244.54(宮之城),3(水俣,大口,出水,上甑,蒲生,阿久根,横川)
3/2705:194.13(宮之城)
3/2721:263.82(阿久根,宮之城,出水)
3/2802:514.23(宮之城)
3/2922:133.92(宮之城,阿久根,出水,大口)
4/0102:143.73(宮之城)
4/0304:335.55強(川内),4(阿久根,串木野,水俣,日吉,横川,国分,東,蒲生)
4/0402:334.74(大口),3(阿久根,出水,川内)
4/0513:244.94(川内,阿久根,大口,水俣)
4/0604:423.82(阿久根,川内,出水)
4/0817:213.92(大口,水俣)
4/0923:204.75弱(宮之城),4(大口,水俣,横川,阿久根)
4/0923:234.74(大口),3(宮之城,川内,横川,蒲生)
4/2012:344.73(宮之城),2(川内,大口)
4/2100:164.72(阿久根,宮之城,出水,川内)
4/2500:503.63(宮之城),2(川内,大口,日吉)
(東京大学地震研究所大学院生の自主活動による…感謝します)

5月13日の地震

 5月13日14時38分北薩地域で強い地震がありました。左図はアメリカ地質調査所(USGS)によるメカニズム解の速報です。
 九州大学島原地震火山観測所の松島 健さんから次のようなメールが来ました。詳しくは九大島原のホームページをご覧下さい。
 「九大島原で決めた震源要素はM6.0,深さ11kmで,3月26日に発生したMjma6.3の震源域の南西約5kmになります.3月26日の地震の余震は東西にほぼ一直線に(正確には西半分が西北西-東南東に屈曲)分布しており,今回の地震はその直線上には乗りません.メカニズム解は前回とほぼおなじ北東-南西圧縮のストライクスリップですが,余震分布をみると今回は南北方向が破壊面である可能性もあります.」(5/14朝)

地震調査委員会の見解(5月14日開催)

1997年5月13日の鹿児島県北西部の地震について

 5月13日14時38分に鹿児島県北西部でM6.2の被害地震があり、川内市で震度6弱、宮之城町で5強を観測した。この地震は、3月26日の鹿児島県北西部の地震(M6.3)の震央から南西約5kmのところで発生した。この地震の深さは8kmであり、陸域の浅い地震である。
 余震活動の主体は本震の震央から東方向に長さ約10kmにわたって分布している。この他に震央から南方向に長さ約10kmにわたって余震が分布している。余震は14日15時までに80回(内有感地震41回)である。現在までのところ、最大の余震は、14日08時32分のM4.7(暫定)であり、東西方向の余震域内の東端付近で発生した。
 今回の地震は、3月26日の地震と時間・空間的に近接して発生していること、3月の地震と同程度の規模であるが、今回の余震活動が3月と比べてやや不活発であることが特徴である。これらから、今回の地震と3月の地震は関連すると考えられ、3月の地震による応力の変化などにより今回の地震が引き起こされた可能性があるが、その発生要因についての詳細は不明である。余震活動は3月の地震と同じく次第に収まっていくと考えられるものの、今後しばらくはやや大きな余震が発生する可能性がある。なお、この地域で約1ヶ月をおいて被害地震が起こった例には、1968年のえびの地震(M6.1)の1例がある。(5/15朝)

 左図は本学理学部南西島弧地震火山観測所による余震の分布です。○が3月26日以来の第1北西部地震で、□が今回の第2北西部地震です。第1地震に比べて、若干南にずれてL字型に分布していることがわかります。

月日時刻 M
K-NETの地震波形から計算された震度
5/1314:386.15強(川内,出水,串木野),5弱(阿久根,日吉,水俣,国分,大口)
5/1408:324.74(宮之城),3(国分,阿久根,横川,大口,串木野,蒲生,出水,都城)
5/1417:153.83(宮之城),2(川内,阿久根,大口,蒲生)
5/1817:493.52(宮之城,川内)
5/2506:114.44(宮之城,川内),3(出水,阿久根)
6/2714:124.13(宮之城),2(大口,川内,蒲生,喜入,上甑,串木野,横川,出水)
7/2618:364.34(宮之城),3(水俣,大口)
(東京大学地震研究所大学院生の自主活動による)

地質概要

 北薩地方の地質は簡単に次のようにまとめられます。一番古い岩石は、川内川河口に局部的に分布している川内“古生層”です。主として粘板岩からなりますが、砂岩・礫岩等も含みます。原発はこの礫岩の上に立地しています。化石が未発見のため、古生層との直接の証拠はありませんが、秩父“古生層”の岩石に酷似しているので、従来から“古生層”と呼ばれていました。
 次に古いのが出水山地(紫尾山地)です。白亜系(約8,000万年前)四万十層群が広く分布しています。左図で黄色く見えるところです。主として砂岩・粘板岩・玄武岩質溶岩などからなっています。いずれも硬い岩石ですから、今までは雨による土砂災害はあまりありませんでした。また、これらを貫いて中新世(約1,400万年前)の紫尾山花崗岩が貫入しています。花崗岩は風化してマサ(真砂)になりやすいので、しばしば大雨の時山崩れが起きます。風化し残しの玉石は落石の原因ともなります。
 その次はずっと若くなって、青色や赤紫色・橙色・深緑色に塗色してある鮮新・更新統(約200~100万年前)の火山岩類です。これらの岩石は大まかに割れるので、落石がしばしば起きます。最後にピンク色のところが、約25,000年前に鹿児島湾奥部から噴出した入戸火砕流堆積物、いわゆるシラスです。シラス災害があまりにも有名です。その他、溶結凝灰岩や段丘堆積物・扇状地堆積物もあります。

アンケート震度

 理学部地球環境科学科の井村隆介先生を中心とする地質グループでは、小学校を通じてアンケートを実施し、詳細なアンケート震度を求めました。得られた震度と地盤の地質条件との関連を研究するのが目的です。地元の皆さんのご協力に感謝いたします。
 アンケート震度の求め方は太田裕・他(1979)の方法に準拠しました。基本的には築年の比較的新しい木造1階建て住宅におけるゆれの程度に換算したものです。
 左図は3月26日の地震の震度ですが、震源域直上の地域の震度が大きいのは当然としても、川内川沿いの川内市内・宮之城町・鶴田町に局地的に震度の大きいところが見られます。やはり、局所的な地盤の影響があるのでしょう。
 なお、広域のデータ(3-26a.jpg 164Kb)5月13日のデータ(5-13.jpg 72Kb)はそれぞれのところをクリックしてご覧ください。

災害ストレス

 まだ続いている余震、経済的打撃による生活不安など、たとえ怪我はなくとも被災者の方々は不安な毎日を送っておられます。放置するとPTSD(心的外傷後ストレス症候群)になる恐れがあります。教育学部治療心理学研究室の久留一郎先生のグループでは、単に実態調査を実施するだけでなく、『被災者の心のケアのガイドライン』というパンフレット(左図)をこの研究費で印刷して配布すると同時に、被災者の相談にものるそうです。
 現在、学生達とボランティアグループを作り、医師会や保健所と連携して活動されておられます(右図:南日本新聞)。
 なお、鹿児島県でも『災害時の精神保健活動の手引』というパンフレットを配布したそうです。

シラス谷埋め造成地の液状化

 鹿児島にはシラス台地の山を崩し谷を埋めて団地を造成したところがたくさんあります(写真は武岡ハイランド)。岩松(1976)は鹿児島市紫原団地の彦四郎谷を調査して、こうした谷埋め造成地では、切り盛りの境界に亀裂が入っていることを指摘し、乱したシラスは地震時に液状化しやすいそうだから、地震時要注意であると警告しました。それから2年後の1978年、宮城県沖地震で白石市緑ヶ丘団地(右図:東北大地質学古生物学教室,1979)の谷埋め造成地が地すべりを起こし、このような造成方法が問題視されるようになりました。
 しかし、ここの地質はシラスではありません。ところが今回、シラス谷埋め造成地で液状化災害が発生してしまいました。入来町副田愛宕地区です(左図:入来町役場提供)。数ヶ所で液状化が発生、道路が陥没しています。残念ながら警告が的中したことになります。ここは20年以上前に民間業者によって造成されたのだそうですが、1993年6月23日にも梅雨前線豪雨により地すべりが発生したところです。
 このような造成地は鹿児島市内いたるところにあります。最新工法では、グラベルドレインを入れたり、十分転圧するなど注意しているようですが、大丈夫なのでしょうか。

衛星画像でみる北薩の地形と震源域

木下紀正・前田利久/教育学部・磯貝浩一/資源・環境観測解析センター調査研究部

 山岳地帯の地形をみるため、太陽高度の低い1989年1月5日のLANDSAT-5/TMデータを選び、北薩の地震被害地域の画像を作成しました(10時7分:太陽の仰角28゜,方位角147゜)。衛星データ提供:資源・環境観測解析センター
 衛星画像についてのご意見やご要望は、e-mail:kisei@rikei.edu.kagoshima-u.ac.jpにお寄せ下さい。
 なお、様々なスケールによる衛星画像については、衛星画像ネットワーク鹿児島グループの一般向けF.西日本の地形と1997年鹿児島県北西部地震地域として掲載しております。
(a) 北薩の地形(拡大画像:a-hokusa.jpg 440*420 70KB)
 TM-4の近赤外画像で、植生に覆われた地域は陰影から土地の起伏が読み取れる。川内川(S.R.)が鶴田ダムを通って屈曲し河口に到っている。原データを回転・平滑化処理して1/3に縮小。画像の左上は観測シーンの限界。
(b) 震源地周辺(拡大画像:b-singen.jpg 830*500 143KB)
 TM-3,5,7をカラーB,G,Rで表示した画像で、左右は1/50000地形図「宮之城」(130゜15'E-130゜30'E)と大体一致し、上下はこの地形図より狭く、南方を大幅にカットしたもの。画像の上部中央の紫尾山の山脈を遮るように泊野の谷が横切っている。南北を地形図に合わせるため、原データを線形補完により回転処理した等倍画像。

震災地質図発行

 鹿大震災調査団の地質グループと鹿児島県地質調査業協会では協力して、5万分の1地質図に家屋損壊・斜面崩壊・落石・液状化などの被災個所をプロットした「1997年鹿児島県北西部地震震災地質図」を刊行しました。左図は宮之城町泊野地区の部分です。地震グループの余震観測結果と地質グループのアンケート震度も収録されています。頒価3,500円です。下記で取り扱っています。
<申込先>
鹿児島地図センター(徳田屋書店) TEL. 099-222-3264 FAX. 099-224-2663

鹿児島県北西部地震被害統計

 鹿児島県総務部消防防災課の資料によると、被害統計(6月13日13時現在)は次の通りです。なお、第2北西部地震以降は別統計にするそうです。

人的被害
区分3/264/3
重傷1人1人2人
軽傷30人4人34人
31人5人36人

建物被害
区分住家被害非住家被害
全壊4棟7棟
半壊33棟1棟
一部破損2,184棟227棟
2,421棟258棟

被害額(単位:千円)
区分金額区分金額
環境生活640保健福祉203,299
商工労働398,693農業1,068,286
林務水産2,095,060土木4,053,451
庁舎8,046教育1,012,733
総額8,840,208千円

第2北西部地震被害統計

 鹿児島県総務部消防防災課の資料(6月13日13時現在)によると、被害は次の通りです。

人的被害
重傷軽傷
1人42人43人

建物被害
区分住家被害非住家被害
全壊4棟11棟
半壊29棟23棟
一部破損4,944棟674棟
4,977棟708棟

被害額(単位:千円)
区分金額区分金額
環境生活33,740保健福祉88,667
商工労働994,224農政1,390,674
林務水産737,411土木3,979,868
庁舎12,013学校7,139,619
総額14,376,216千円(調査中が多く今後増加する見込み)

鹿児島県北西部地震1周年講演会

日時:1998年3月2日午後1時30分~5時
場所:宮之城町総合体育館
主催:鹿児島大学自然災害研究会・宮之城町
地震活動の特徴…角田寿喜(理学部地球環境科学科)
地質条件と被害との関係…井村隆介(理学部地球環境科学科)
建物被害…徳廣育夫(工学部建築学科)
地震による地盤災害(工学部海洋土木工学科)
地震による斜面崩壊…下川悦郎(農学部生物環境学科)
災害後のストレス障害…久留一郎(教育学部治療心理学研究室)
震災に備える…岩松 暉(理学部地球環境科学科)

報告書・論文等


調査団メンバーの方へ

 研究の途中経過でも広く世の中に知らせたほうがよい事項がありましたら、下記宛メールをください。直ちに掲載いたします。


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★ 関連サイト ★
地震調査研究推進本部地震調査委員会…記者発表の詳細があります。
最新有感地震情報…1日に2度自動的に計測震度を発表。テロップは常時更新。
地震加速度情報…地震予知総合研究振興会の速報です。
防災科学技術研究所強震ネット(K-NET)…強震記録や観測点の地質データが得られます。
鹿児島県北西部の地震活動(地震予知連絡会)
平成9年3月及び5月の鹿児島県北西部の地震活動(国土地理院)
九州大学島原地震火山観測所…3月26日および5月13日の地震の総括が見られます。
鹿大応用地質学講座WWW「1997年第2鹿児島県北西部地震」
鹿大応用地質学講座WWW「1997年鹿児島県北西部地震」
鹿大応用地質学講座WWW「1997年鹿児島県北西部地震被害写真集」
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連絡先:iwamatsu@sci.kagoshima-u.ac.jp

更新日:1998年3月19日