2000年3月24日、鹿児島大学理学部地学科最後の卒業生を送り出しましたので、このホームページはこの日をもってフリーズしました。もう更新しません。悪しからず。
 なお、「かだいおうち」は日本における大学研究室ホームページの第1号です。歴史的遺産としてここにアーカイブしておきます。

地質汚染


地質汚染とは|農薬問題|シラス台地の硝酸態窒素汚染|進む川の汚染|身近な地質汚染診断法|鹿児島でも地下水汚染|地質汚染と土地評価

◆地質汚染とは

 地質汚染とは、地層汚染・地下水汚染・地下空気汚染の総称です。近年、重金属・有機塩素化合物・農薬などによる汚染が深刻になっています。これはトリクロロエチレンなど発ガン性物質による地質汚染機構のモデルです(千葉県水質保全研究所地質環境研究室)。もっとも重い原液帯(紫色)は透水層の下面に沈殿しています。濃い赤色の部分は不飽和原液帯です。これらが難透水層の切れ目から下位の地層に浸透している様子がよくわかります。ピンク色の部分はそのために地下水が汚染されているところです。一方、溶液からガスが揮散すると、地下水面より上では、地下の空気が汚染されてしまいます(橙色)。
 鹿児島は化学工場があまりないからと安心していてよいでしょうか。九州はシリコンアイランドを標榜するほどIC関連工場がたくさんあります。ここではメッキや洗浄にさまざまな薬品が使われています。身近なところでは、ドライクリーニングの洗浄剤も有機塩素化合物なのです。

◆農薬問題

 鹿児島は農業県ですから、農薬や家畜の糞尿(畜産廃棄物)による地下水汚染が問題になっています。この新聞記事(南日本新聞1997年2月5日付)は沖永良部島における地下水汚染を報じたものです。沖永良部島は永良部百合やフリージアで有名な花の島です。花は見栄えが生命ですから、虫食いだったりすると商品価値が落ちます。口にする野菜と違ってついつい農薬を大量に使用しがちで、1996年には島内で年間120トン使われました。三重大学谷山鉄郎教授の調査によれば、地下水からダイアジノンが、水道水の安全基準5ppbに達しないものの、3.3ppb検出されたそうです。
 大きな河川のない離島では飲料水を地下水に頼っていますし、沖縄の宮古島や鹿児島の喜界島のように地下ダムがあるところでは、水を循環使用する訳ですから、とくに農薬使用量の削減が求められます。

◆シラス台地における地下水の硝酸態窒素汚染

 鹿児島空港のある十三塚原台地は溝辺茶の産地です。このシラス台地の下には豊富な湧水があり、水道水に使われているところもあります。和田卓也さん(1993修論)によれば、一番汚染されているところは、西光寺川の水源であるS-1地点(赤丸および赤枠)です。NO3-N濃度が最高17mg/lを記録しました。特徴はNO3濃度が高く、SO42-・Ca2+・Mg2+も多いことです。これはお茶畑で施肥されている硫安(NH4)2SO4や苦土石灰CaMgCO3の化学組成をそのまま反映しています。どうしてここが一番汚染がひどいのでしょうか。台地地下の地質構造からして集水面積が一番広いからです。この上の農家の方が肥料を特別大量使用したのではなく、広い面積から肥料分の溶け込んだ地下水を集めてきたのです。やはり地質汚染の研究には地質調査は欠かせません。

◆進む川の汚染

 鹿児島県内最大のお茶どころ頴娃(えい)町では河川の窒素汚染が深刻になっています(1997年3月24日付朝日新聞)。集川における1996年の窒素濃度は1リットル当たり年平均12.5mgに達し、池田湖の環境基準1.2mgと比べて桁違いです。そこで、県では総事業費約7億円で、ホテイアオイ浄化作戦を展開することになったそうです。
 この記事によれば、数年前まで、年間に10アール当たり窒素分だけで90kg(水田は7kg)も撒いていたとか。そう言えば、一昔前、お茶農家の学生がいましたが、彼はお茶のことを「農薬ジュース」と言って飲みませんでした。自家用は別に無農薬のものを作っているのだそうです。合鴨農法など無農薬農業がもてはやされる時代になりましたが、現在ではどうなっているのでしょうか。

◆身近な地質汚染診断法

 揮発性汚染物質による地質汚染を調べる簡便な方法が、千葉県君津市の鈴木喜計さんのグループによって開発されました。君津式表層汚染調査法です(写真はアーバンクボタNo.34による)。まず地面に孔をあけ、孔の底にガス検知管を挿入して、地下空気汚染を測定するのです。検知管の種類を換えることによって、いろいろな汚染物質を調べることができます。

◆鹿児島でも地下水汚染

 1998年6月27日、鹿児島松下電子(本社・日置郡伊集院町)の井戸水から有機塩素系有害物質トリクロロエチレンが0.26mg検出されていたと報道されました。これは環境基準(0.03mg/l)の8.7倍に当たります。なお、1985年には既に基準値の約21倍ものトリクロロエチレンが見つかっており、県環境管理課の指導で地下水をくみ出して活性炭に染み込ませたり、汚染土壌を除去するなどの対策を講じた結果、現在の値まで下がってきたのだそうです。しかし、本学地球環境科学科の坂元先生のお話では、この値でも十分危険とのことです。
 鹿児島にはこの種の工場は他にたくさんあります。欧米に製品を輸出するためにはISO14001(いわゆる環境ISO)取得が義務付けられている時代です。全工場の調査点検と情報公開が求められているのではないでしょうか。

◆地質汚染と土地評価

 日本経済新聞1999年5月11日号によると、ISOでは、工場跡地などの評価額に土壌や地下水の汚染状況を含めることになったそうです。2001年にISO14000シリーズの一部として制定される見通しとのことです。当然、土地売買や金融機関の担保価値評価には、今後地質汚染調査が必須となるでしょう。地質コンサルタントの重要な業務の一つになると思われます。

参考文献

日本地質学会環境地質委員会(1997): 『大地のいたみを感じよう―地質汚染Geo-Pllutions―』 日本地質学会リーフレット, \300

関連サイト


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更新日:1999年5月12日