2000年3月24日、鹿児島大学理学部地学科最後の卒業生を送り出しましたので、このホームページはこの日をもってフリーズしました。もう更新しません。悪しからず。
 なお、「かだいおうち」は日本における大学研究室ホームページの第1号です。歴史的遺産としてここにアーカイブしておきます。

がけ崩れ


日本のがけ崩れ|急傾斜地崩壊対策|法面設計と地質学|斜面対策工の種類|代表的斜面対策工

◆日本のがけ崩れ

 がけ崩れ・山崩れは、「地すべり」のページでも述べたように、地質の如何に関わらず急傾斜地で起きます。とはいっても、やはり地域性があります。左図は建設省のまとめたものです。がけ崩れ危険個所数の上位にくる県は西南日本に偏っていますが、これらは花崗岩や火山岩・火山性堆積物がひろく分布しているところです。花崗岩は深層風化によりマサ化しやすい岩石ですし、火山岩は割れ目が発達していて崩れやすいからです。シラスのような火山性堆積物が崩れやすいことは「シラス災害」のページで触れました。
 もちろん、がけ崩れは主として降雨が誘因となって起きますから、これらの諸県は降水量の多いところでもあります。過去10年間(1987-1996)の発生件数が九州で圧倒的に多いのは、集中豪雨に見舞われやすい地理的位置にあるからでしょう。中でも鹿児島がダントツです。まさに九州が災害アイランドであることを示しています。

◆急傾斜地崩壊対策

 全国で約9万箇所といわれるがけ崩れ危険個所に対して、国では急傾斜地崩壊危険区域を指定し、斜面対策工などのハード的な対策を行っています。もちろん、緑地保全地区の指定やがけ地近接等危険住宅移転事業など都市計画的な対策も同時に行っています。最近では、斜面カルテに基づく警戒避難体制などソフト的な対策にも力を入れるようになりました。

◆法面設計と地質学

 盛土の設計は土質力学の知識だけでできますが、自然斜面となると一筋縄ではいきません。やはり、地質学の知識と経験が必要です。自然斜面のがけ崩れ対策だけでなく、最近は横断道建設の時代になり、人工の切土斜面についても地質屋さんがタッチする機会が増えてきました。地質調査だけでなく、法面設計まで担当する機会が多くなったのです。地質図は描けるが力学はからっきしダメという地質屋さんでは勤まらない時代になったと言えましょう。工法に関する最低限の知識くらい身につけていなければ、土木屋さんと会話さえできません。そこで、以下に簡単な解説を述べます。

◆斜面対策工の種類

抑制工排水工
植生工
吹付工
張工
法枠工
切土工
抑止工擁壁工
アンカー工
杭工
押さえ盛土工
その他
の工法
柵工
蛇籠工
待受け工
落石防止工
雪崩防止工
仮設防護工
 斜面対策工を大別すると、すべりを止めることを目的とする抑止工(prevention works)と、すべりの原因を取り除くことを目的とした抑制工(control works)があります(左表)。もちろん、両者を兼ねた工法もあります。斜面の傾斜角や法高、その場所の地質や気候条件などに応じて、適切な工法を選択します。また、いくつかの工法を併用することもあります。最近は環境や景観に配慮して、緑化工法を採用するケースが増えてきました。写真はアンカー工の法面にコスモスなど草花を植えた例です(種子島)。
 なお、地すべり防止工法については「地すべり」のページをご覧ください。

◆代表的斜面対策工

排水工

 雨水による侵食を防止するために、速やかに地表水を排水しようとするのが目的です。写真は法面の小段に設置された排水溝ですが、吹き付け前に動き出したため、中程(伸縮計設置位置)が曲がっています。

植生工

 植生によって雨水による侵食を防止する工法です。凍上防止効果や根系による土壌緊縛効果などもあります。比較的斜面傾斜の緩いところで採用されます。種子吹き付け工、植生マット工、張り芝工などいろいろあります。乾燥に耐え痩せ地でもよく生長するというので、昔はweeping love grassなどの外来種を多用しましたが、生態系を乱すとの批判が高まり、最近では在来種を使うようになりました。草花を使うこともあります。

吹付工

 コンクリートやモルタルを吹き付けた法面はよく見かけると思います。斜面の風化や浸食を防止するのが目的です。補強鉄筋や金網を被せた上にモルタル等を吹き付けます。吹付工の効果を向上させるために排水は重要で、水抜き穴を2m2に1個所以上設けます。植生工が使えない比較的急傾斜のところで採用されています。写真は工事中の様子です(中岳ダム)。

法枠工

 現場打ちコンクリート法枠工とプレキャスト法枠工とがあります。法面に枠を組み、その内部を植生やコンクリート張りで被って、法面の風化・浸食を防止する工法です。フリーフレーム工法など、安全迅速な施工を目的とした特殊現場打ちコンクリート法枠工も工夫されています。鹿児島のシラスがけで多用されています。

擁壁工

 石積みやブロック積み、あるいは重力式コンクリート擁壁など、力で崩壊を押さえ込む方法です。写真は鹿児島市玉里ですが、裾部でがっちり支えているのが擁壁工です。左の法面上部は吹付工と法枠工です。

アンカー工

 節理など割れ目の多い岩盤や不安定な表層土を、直接安定な地盤に緊縛して地山と一体化し、崩落を防止するのが目的です。現場打ち法枠工などと併用されます。アンカーの長さや角度を適切に選ばないと、十分な効果が得られません。図は(株)エスイーの広告より引用。

蛇籠工

 玉石やぐり石を針金で束ねて、それを斜面裾部に積み上げたものです。地下水を自由に逃がして、土砂だけは力で押さえ込む方法で、護岸などには明治以前から使われてきました。先人の知恵です。

待受け工

 斜面から少し離れたところに擁壁を作り、崩れてきた土砂をそこで食い止める工法です。写真は鹿児島県喜入町のシラスがけです。昔はシラス崩れのため鉄道が不通になるのが年中行事でしたが、線路を海側に移設し待ち受け擁壁を作ることで解決しました。

落石防止工

 落石の発生を未然に防いだり、落ちてきた岩石が道路面などに飛び出さないようにするのが目的です。写真右奥のようなワイヤーロープで作られた落石防止ネットはよく見かけると思います。

ページ先頭|日本のがけ崩れ|急傾斜地崩壊対策|法面設計と地質学|斜面対策工の種類|代表的斜面対策工
鹿大応用地質学講座ホームページ
鹿大応用地質学講座WWWもくじ
地学関係WWWリスト

連絡先:iwamatsu@sci.kagoshima-u.ac.jp

更新日:1999年1月28日