2000年3月24日、鹿児島大学理学部地学科最後の卒業生を送り出しましたので、このホームページはこの日をもってフリーズしました。もう更新しません。悪しからず。
 なお、「かだいおうち」は日本における大学研究室ホームページの第1号です。歴史的遺産としてここにアーカイブしておきます。

桜島の降灰


純粋の天災?|豪灰で高速道路ダウン|5年ぶりのドカ灰|年間降灰量|降灰と健康|クリーンキャンパスデー|桜島火山灰も国際的?|火山灰の利用|降灰の効用|火山灰プレゼント

純粋の天災?

桜島の降灰
 上の写真は岩松が撮影したものです。大変美しくて芸術的?だと、ある本が掲載してくれました。実は火山灰が降り注いでいるところを撮った写真で、とてもとても芸術的な光景ではありません。あの真下には、晴れでも傘をさし(日傘ならぬ灰傘です)、ハンカチで口を覆って足早に家路に急ぐ人がいるはずです。眼はチカチカ、鼻はムズムズ、口はジャリジャリ、髪は灰色(歳のせいではないですぞ)、それはそれは大変です。

鹿大構内駐車場にて
 火山灰は火山ガラスですから尖っていて、洗濯物に付くとチクチクします。赤ん坊のいる家庭では乾燥機が欠かせません。冷房も他都市に比べてずっと早く普及したとか(注)。農業被害も深刻で、桜島の特産である島ミカンやビワが大打撃を受けています。健康被害については後で述べます。テレビでは、昼日中ライトを点けて走る車や、街の中をロードスイーパー(掃除機のお化けのような車)が灰を収集しているところを映し出します。ですから観光客もガタ減りしました。こうした間接的な被害もあるのです。鹿児島にとって大事な観光シンボルの桜島も、正直言って有難迷惑的な存在でもあります。痛し痒しです。
 災害というと、多かれ少なかれ人災的要素があるものですが、これこそまったく人為の絡んでいない純粋の自然災害と言えます。

降灰によるミカンの裂果
[注] 冷房は機械のため?
 鹿大には20年以上前から集中冷房が入っています。火山灰で機械が傷むという理由で大蔵省が特別に認めたのだそうです。人間のためではありませんから、文科系研究棟は一切ダメ、理系でも講義室はダメという厳しい制限があった由です。講義室は講義実験室、教官研究室は教官実験室、学生控室は学生実験室などと全部実験室という名称を付けて通そうとしたのだそうですが、大学だというのに学部に1個所も講義室がないのは変ですから、一番大きな階段教室だけ講義室と届けたそうです。その結果、今でも階段教室だけ冷房が入っていません。なお、活火山法が数年前に出来て、今では文系の先生方の部屋にも冷房が入っています。

◆豪灰で高速道路ダウン

25日付南日本新聞
 1995年8月23日深夜、桜島南岳が久しぶりに爆発、噴煙が折からの台風7号による南風に乗って加治木地方を直撃しました。そのため、九州自動車道鹿児島―加治木間(約29Km)が2日間不通となりました。降灰によるスリップ事故が心配されるからです。京大桜島火山観測所によると、錦江湾奥のマグマ溜まりが膨らんできており、今後活動が活発化する恐れがあるとのことです。

◆5年ぶりのドカ灰

 1999年6月9日、鹿児島市は久しぶりのドカ灰に見舞われました。折からの梅雨空、灰雨となって降り注ぎ、車のフロントガラスにこびりついたり、洋服に着いたりと大変でした。鹿児島地方気象台の観測によると10日午前9時までの24時間降灰量は1m2あたり138gと、1994年8月21日に159gを観測して以来、最高だということです。
<参照サイト> 南日本新聞ニュースフラッシュ

◆桜島の火山活動と降灰量

(「鹿児島のすがた」による)
 桜島火山は、1972年頃から活発な活動を再開、多いときで年に400回以上、今でも年200回程度爆発し、噴煙を高く噴き上げます。爆発には空震を伴うことが多く、10kmも離れた鹿大でも窓ガラスがビリビリ振るえ、半開きのドアがバタンと閉まることがあります。爆発を伴わない噴煙活動、俗に言う音なしの"へ"(灰のことを鹿児島弁で"へ"と言います。ブンブン飛ぶうるさいハエも"へ"、屁も"へ"です。)もあります。火山活動や火山性地震の解説は他の専門講座に任せて、降灰のことに移りましょう。
 夏と冬の風向きは正反対ですから、季節によって降灰量が違います。夏は鹿児島市側、冬は大隅半島側が大変です。そこで、鹿児島地方気象台では、桜島上空の風向き予報を毎日出しています。主婦はこれをみて洗濯物を外に干すかどうか決める訳です。
 火山灰の堆積量は上図の通りですが、粒径は場所によって違います。当然、近距離は粗く、桜島島内では径1-3mm程度の大きさのものが降り、傘に当たるとパラパラ音がします。鹿児島市内ではもう少し細かく、時に1mm程度のものも降りますが、大抵は眼がチカチカする程度です。

◆降灰と健康

 鹿大生は東大生に比べて気管支喘息罹患率が3倍だと新聞紙上を賑わしたことがありました。小学校の学童の場合も、喘息やアレルギー症状は、非暴露地域の学童に比べて暴露地域の学童に高い有病率を示すそうです(泊・波多野,1992)。しかし、地面すれすれを歩いている野良犬の肺は、解剖してみると大変きれいで、たばこ飲みの肺のほうが何倍も汚いそうです。どうも降灰と病気の因果関係は、まだ諸説あってはっきりしていないようです。目薬は他都市に比べてよく売れているそうですが。
 なお、呼吸器系統の病気は桜島から30km程度離れたドーナツ圏が罹患率が高いそうです。粗ければ鼻毛や鼻汁でストップされますから、肺に吸い込まれる程度の細かい灰が降るところが要注意個所という訳です。そういう次第で、鹿児島は10km圏ですから、あまり神経質にならず、どうぞ鹿大に進学してきてください。火山灰の洗礼を浴びれるなど、地質屋としてなかなか得難い経験です。世界中に何百の地学科があるか知りませんが、こんな経験ができるのは鹿大くらいではないでしょうか。将来外国で自慢できますよ。

◆クリーンキャンパスデー

 わが鹿大ではクリーンキャンパスデーという行事を隔月実施して、教職員・学生みんなで構内の清掃を行っています。下の写真のように、1回の清掃でこんなに火山灰が集まります。なお、黄色の袋は「降灰袋」といって、市役所が各家庭に配布するものです。
クリーンキャンパスデーで小型ロードスイーパーを運転する井形学長(当時)
同上、地学科学生・教官の活躍ぶり
同上、理学部敷地内から集まった火山灰

◆桜島火山灰も国際的?

 ISOネジをご存じですか。ネジの頭にポチッと小さな穴が刻印してあるやつです。そのISO(国際標準化機構)におけるアルミサッシ規格の会議で、アラビアの砂塵嵐と桜島の火山灰が話題になったのだそうです。先日そのことで日本サッシ協会の方々が来訪されました。試験方法の相談です。「粒子が細かくて窓の隙間から入り込むのは砂漠の砂と同じかも知れませんが、火山灰は火山ガラスですから、砂漠の風成砂のように円磨されていないので、別な試験方法が必要でしょう。また、その他に化学的に金属や塗装を犯すという厄介な問題もあります。」と申し上げました。いやはや降灰禍も国際的になったものです。

◆火山灰の利用

 桜島の火山灰は確かに迷惑ですが、災いを転じて福となす、何とか利用方法がないものでしょうか。そのままの利用法としては、砂時計の砂として使うことが考えられます。昔、試験管をブンゼンバーナーで引き延ばして作り、大学祭で売った学年がありました。今では実用化され土産物屋で売っています。北海道で春に雪を溶かすために畑に撒いた、とのニュースもありました。でも、北海道には石炭の粉はたくさんありますし、鹿児島から送ったのでは運賃のほうが高くて採算が合わないでしょう。
 写真は県工業試験場(現工業技術センター)からいただいた記念品の灰皿です。火山灰60~70%と粘土40~30%を混ぜ合わせて素地を作り、釉薬をかけて1070~1100℃で焼いたものだそうです。桜島と錦江湾をイメージしています。こうした陶器もできるというだけで、産業にはなりません。どなたか火山灰の画期的利用法を発明してくださいませんか。火山灰を金の粉に変えてくださった方には火山灰製の像を建てて差し上げます。

◆降灰の効用

 気象庁オゾン層情報センターによれば、鹿児島への有害紫外線(UV-B)地上到達量が過去2年間増え続けているそうです(朝日新聞1997.9.25)。桜島の活動がここのところ穏やかで大気混濁度が低かったことや噴煙中の二酸化硫黄によるUV-Bの吸収が弱かったことが原因とのことです。なお、鹿児島県は全国的に見ても皮膚ガンの発生率が高い由、ご用心ご用心!
1994年1995年1996年1997年
UV-B到達量(日積算の最大値Kjoule/m2)41.345.151.548.0(8月まで)
年間降灰量(g/m2)1,06726812436(今月まで)

◆火山灰プレゼント

 ご希望の方には、わが理学部屋上に積もった桜島の火山灰を差し上げます。少量でよければ郵送します。下記までご連絡ください。
 多量に欲しい場合には、何キロでも好きなだけ差し上げますから鹿児島までお越しください。掃除の手間が省けて、掃除婦の小母さんが喜ぶと思います。
 インデックスページにも書きましたように、応用地質学講座はもありません。したがって、このプレゼントも終了いたします。どうぞ悪しからず。


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更新日:1999年6月11日