2億1500万年前の地層から巨大隕石衝突の証拠を発見
〜隕石衝突と生物絶滅の関連性の解明に期待〜


◎共同発表者の氏名(所属)
尾上哲治・佐藤峰南・根建心具(鹿児島大学)
中村智樹(東北大学)
野口高明(茨城大学)
日高義浩・白井直樹・海老原充(首都大学東京)
大澤崇人・初川雄一・藤暢輔・小泉光生・原田秀郎(日本原子力研究開発機構)

◎研究成果のポイント
・三畳紀後期(約2億1500万年前)の地層から巨大隕石衝突の証拠を発見.
・この隕石衝突によりカナダのマニクアガンクレーターが形成.
・隕石衝突による絶滅は海洋プランクトンにはみられない.しかし北米の動植物は絶滅の影響
 を受けた可能性が高い.


◎研究成果の概要
 鹿児島大学,東北大学,茨城大学,首都大学東京,日本原子力研究開発機構の研究グループは,岐阜県坂祝(さかほぎ)町の木曽川河床から採取された岩石試料について,ICP質量分析装置(注1)や多重ガンマ線検出装置(注2)等を用いた分析を行いました.その結果,今から約2億1500万年前の三畳紀後期(注3)という時代に巨大な隕石衝突が起こった証拠を発見しました.

 三畳紀後期にはいくつかの生物絶滅イベントが知られています.その原因のひとつとして隕石衝突が考えられてきましたが,これまで世界各国の研究者が20年以上にわたり隕石衝突の証拠を探してきたのにも関わらず,今まで不明でした.本研究は隕石衝突の明らかな証拠を世界で初めて見いだしました.本成果は11月5日(日本時間11月6日午前5:00以降)の週に米国科学アカデミー紀要(オンライン版)にて発表されます.

◎研究の背景
 三畳紀後期という時代には,幾度かの生物絶滅イベントが知られています.従来の研究では,恐竜の絶滅で有名な白亜紀/古第三紀境界の隕石衝突イベントのように,三畳紀後期の絶滅イベントもまた隕石衝突に関連性があるのではないかと考えられてきました.しかし,これまで隕石衝突により形成された地層であるイジェクタ層(注4)は,海底で堆積した化石を含む地層からみつかっていません.そのため隕石衝突と絶滅の関連性について議論することができませんでした.

◎研究の経緯・手法
 研究グループは,三畳紀後期の隕石衝突の証拠を探す目的で2009年4月に研究を始めました.研究対象は,岐阜県坂祝町の木曽川河床にみられるチャート(注5)という岩石です.2010年には,チャートの間に挟まれた粘土層(図1)から,隕石衝突により形成されたと考えられる直径1 mm以下のスフェルール(図2)とよばれる球状粒子を発見しました.この粒子については,隕石衝突に由来する物質であるかどうかを確かめるために,放射光X線回折分析(注6)や,電子線マイクロアナライザ(注7)などの機器分析を行いました.さらに粘土層については,地球外物質の混入を調べる目的で,ICP質量分析装置や多重ガンマ線分析装置を用いて詳細な元素分析を行ないました.

◎研究の成果
 元素分析の結果から,地球表層には一般に極めて微量にしか存在しない白金族元素(注8)が,岐阜県坂祝町の粘土層中に異常に高い濃度で含まれることが明らかになりました(図3).これは地球上の火山活動などのプロセスでは説明できないほど過剰なものです.隕石との元素濃度の比較から,粘土層に含まれる白金族元素は巨大な隕石の衝突によりもたらされたものと結論づけられました.また粘土岩に含まれるスフェルールには,白亜紀/古第三紀境界からもみつかっている「ニッケルに富むマグネタイト」と呼ばれる鉱物が含まれていました.これも隕石衝突に起源をもつ粒子であると考えられます.

 チャートには,大きさ1mm以下の微小な化石(放散虫とコノドント)が含まれています.これらの微化石が示す年代から,この隕石衝突が今から約2億1500万年前の三畳紀後期に起こったことが明らかになりました.この時期に形成された巨大なクレーターとしてカナダケベック州のマニクアガンクレーター(図4)が知られています.みつかったイジェクタ層はこのクレーター由来の堆積物と考えられます.

 また微化石の検討から,海洋プランクトンの多くの種が,この隕石衝突イベントを生き延びたことが明らかになりました.しかし同時期の北米の地層からは,アンモナイトや陸上の動植物の絶滅が認められます.これらは白亜紀/古第三紀境界とは質的に異なる絶滅パターンと考えられ、地球史における隕石衝突と生物の絶滅の多様性を示唆するものです.

◎今後の展開
 今回の研究では,三畳紀後期に起こった隕石衝突が北米の動植物の絶滅の原因となった可能性を示唆していますが,海洋プランクトンはその影響を受けず多くの種が生き延びたことを明らかにしました.そこで,今後はこの隕石衝突によりどのような生物が絶滅の影響を受けたのか(絶滅の選択性)について研究を行なう予定です.そのため,世界各地の三畳紀後期の地層から同様のイジェクタ層を探索します.そして,隕石衝突が地球環境に与えた影響(例えば寒冷化や酸性雨など)についても,地球化学的な視点から研究を発展させていく予定です.


◎本件に関する問い合わせ先
鹿児島大学理工学研究科 助教 尾上哲治(おのうえてつじ)
Tel: 099-285-8145 Fax:099-259-4720
Mail: onoue@sci.kagoshima-u.ac.jp


◎参考資料

図1 隕石衝突が記録された粘土層の写真.岐阜県坂祝町の木曽川右岸河床.

図2 隕石衝突により形成された球状のスフェルール(A,B)の光学顕微鏡写真とニッケルに富むマグネタイト(C,Dの明るい粒子の部分)の電子顕微鏡写真.

図3 岐阜県坂祝における白金族元素濃度の垂直変化.粘土層の下部に白金族元素が非常に高い濃度で含まれる.オスミウム,ルテニウム,白金の値はICP質量分析による.

図4 カナダケベック州,マニクアガンクレーターの衛星写真(提供NASA).クレーターの内部は人工のダム湖になっている.クレーターの直径は100 kmで,今から約2億1500万年前の隕石衝突により形成された.


◎用語解説

注1) ICP質量分析装置とは,誘導結合プラズマ(ICP)によりイオン化された試料中の元素を質量分析部で検出し,元素の同定・定量を超高感度(pptオーダー)でおこなえる装置のこと.

注2) 多重ガンマ線検出装置とは,原子炉中性子を照射された試料から放出される複数のガンマ線(多重ガンマ線)を,複数のゲルマニウム半導体検出器で同時に検出し,微量元素(正確には同位体)の含有量を超高感度で測定する装置のこと.本研究では試料を日本原子力研究開発機構のJRR-3研究炉で放射化し,同機構の多重ガンマ線検出装置GEMINI-IIを用いて元素分析を行なった.

注3) 三畳紀という時代(紀)は,前期,中期,後期の3つの時代(世)に細分される.このうち三畳紀後期は,今から2億〜2億3700万年前の期間をさす.この時代の特徴として,それまで陸上生態系で主要な位置を占めていた哺乳類型爬虫類が絶滅し,代わりに恐竜が進化発展したことがあげられる.最古のほ乳類化石が発見された時代としても有名.

注4) イジェクタ層とは,隕石衝突によりクレーター内部から放出された物質が堆積してできた地層のこと.

注5) チャートとは,二酸化ケイ素を主成分とする硬く緻密な珪質堆積岩の総称.木曽川河床にみられるチャートは,主に放散虫とよばれる二酸化ケイ素の骨格を持つ海生浮遊性プランクトンの死骸が深海に降り積もってできた.チャートは陸域から遠く離れた深海で堆積した地層であり,陸上物質の混入(例えば火山灰や風成塵など)が少なく,隕石衝突などによる地球外物質の混入をみつけやすいという特徴がある.

注6) 放射光X線回折分析とは,ほぼ光速の電子から放出される極めて明るい光であるシンクロトロン放射光X線を球状粒子試料に照射し、X線と試料中の原子との相互作用により生じる回折現象を利用して,試料に含まれる結晶の構造を調べる分析のこと.本研究では大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究開発機構の放射光X線を用いて分析を行なった.

注7) 電子線マイクロアナライザとは,加速した電子を対象試料の数オmの微小部に照射し,そこから発散する特性X線を検出して構成元素の種類と含有量を測定する装置.

注8) 白金族元素とは,周期表8〜10族のうち,ルテニウム,ロジウム,パラジウム,オスミウム,イリジウム,白金の総称.親鉄性元素であり,金属鉄を主成分とする地球の中心核には豊富に存在するが,地殻においては枯渇している.みつかった粘土層は,地殻に比べて最大3桁ほど多くの白金族元素を含む.